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お告げ

 各々の従者は、人前以外での出現を許された。窓には幻影魔法を常時発動し、徹底的に従者の存在を隠蔽した。


 召喚儀式を試した日の夜、セノカの自室で尚もディウルカとレムノスは睨み合っていた。


「君は戦いだけしてればいいじゃん。戦闘特化の神仙なんでしょ?」


「私はセノカ様の従者だから、戦いだけに時間は費やさない」


「ああそう」


「貴方こそ、テオ様が危ないから出て行って」


「無理だね。こっちだって好きで下ったわけじゃないし」


「ならどうして」


「君には関係ないでしょ」


 重苦しい空気がセノカの自室を漂った。


 テオは体を縮めて震えている。レイは異空間に潜っている。ハルクが「戦え」と執拗に迫って来たからだ。どうやら寡黙な竜殿(どの)は重度の戦闘狂らしい。


「因縁でもあるのか?」尋ねたのはセノカだった。


 テオが大きく震えた。

 二体は少しの間黙った。


「元敵軍の大将同士」ディウルカが言った。「確か一六〇〇年くらい前だったかな。神鬼軍と神仙、精霊軍の間で戦争があったのさ。神仙たちが先に進軍して来たってのに、それで犠牲が出たら全てこちらの所為。『酷い』だの『許さない』だの、本当に幼稚過ぎて吐き気がするよね」


「神鬼の殺し方は残酷すぎる。それに戦争の原因は、神鬼が神仙の長を暗殺したから」


「長に何でそんな拘るかね。あれは僕じゃない幹部だし、種族括りで恨まれる筋合いは無いのだけど」


 二体は対立を強めた。


 レムノスの全身から殺気を大量に含んだ魔力が放出され、対してディウルカは気だるそうな様子で片手に魔法陣を発生させた。


 戦闘が始まる直前。


「あのっ!」テオが叫んで二体を制止した。「ディウルカさん、魔法の練習に付き合ってくれるかな。オレ、まだ実際に戦ったことがなくて」


「賛成だ」セノカが言った。「窓が割れかかっている。対立は勝手だが、無駄な迷惑をかけるな」


 5歳の少女に睨まれた二人は魔力を収めた。


 テオは異空間に繋がる魔法陣を発生させた。そしてディウルカとともにその中に潜った。 


 残されたセノカとレムノスはしばしの間黙っていた。

 少し経ったあたりでレムノスはまたセノカの頭に手を伸ばした。


「撫でるな」


「むう…………」


 レムノスが唇を尖らせた。


 セノカは書物を手に取った。三歳の頃、父親の書斎から持ち出した勇者の冒険譚とは違い、上級魔法を記した魔導書だ。


 レムノスは矢張り、隙を見つけては頭を撫でようと試み、悉く失敗する。

 一人と一体は激しい攻防戦を始めた。常人には捉えることの出来ない速度で頭に手を伸ばし、それをセノカが回避し、その手を掴む。


「何故そこまで執着する」


「本能」


「捨ててしまえそんな本能」


 攻防戦は止まらない。


「いい加減諦めたらどうだ」


「諦めたいけど諦められない」


「中毒者か、お前は」


「可愛い子供よしよししたい中毒?」


「単純に気持ち悪い」


 セノカはレムノスの両手を掴むことに成功した。


 どうにかレムノスが引き抜こうとするが、セノカの握力は意外と強い。子供相手に全力を出すわけにもいかないので、そのまま軽く腕を引く。


「そこまで触れたいなら、私の提案を受け入れろ」


「何?」


「貴族たるもの、人前に出る際の服装をかなりうるさく評価される。面倒なので、お前には髪でも整えて貰いたい」


 セノカは手を離した。


 その提案を聞いたレムノスは、桜色の瞳を輝かせた。

 同意したらしい。


 そこに、ハルクとの戦闘を終えたレイが現れた。


「流石は主…………かすり傷一つ負わないとは……」


「お前も強い。頼りにしている」


 次に、テオとディウルカが帰って来た。


「この悪魔……全然手加減してくれなかった……」


「悪魔だし、手加減しなくても対応出来てたじゃない」


「もう魔力が無いよお…………」


「何言ってんの。有り余ってるじゃんか」


 テオはぐったりとして恨み言を吐いている。一方のディウルカは余裕そうに服を整えた。


 レムノスが魔力を薄く放出する。ディウルカが舌打ちする。


 また二体が火花を散らす前に、セノカが言った。


「今日はもう遅い。従者と共に各々の部屋に戻れ」


 二体は軽く睨み合い、すぐに顔を背けた。


「姉さん、兄さん、また明日」


 テオが去り際に手を振った。


 主人が部屋を出ると同時に、ハルクとディウルカは魔法陣に潜り、主人の自室に移った。

 魔法によって保たれていた部屋の明かりが消え、月光だけが残った。


「さて」セノカはベッドに入った。「私は寝る」


「セノカ様、子守歌、歌ってあげる」


「要らない。妨げになるだけだ」


「歌には自信ある」


「隣室の寝返りで起きるのだ。歌など歌われれば逆に目が覚める」


 部屋を見回すと、壁には防音用の結界が張られている。


 レムノスは魔法陣の中に引っ込んだ。


「おやすみ」


「…………」


 セノカは枕の上に頭を置く。金髪が布の上に広がった。





 数時間は過ぎただろうか。


 …………つい先ほどまで綿袋に横たわっていた体が、いつの間にか立ち上がっている。


「やあ、久しぶり」


 眠りについたと思った瞬間、聞き覚えのある声が言った。


 星空が広がっていた。


 目の前には、空色の髪に紅梅色の瞳の子供。最高神だ。


 その玉座の隣には初めて見る青年が立っている。藍色がかった黒髪に、冷たい蒼眼。真っすぐにセノカを見据えている。心なしか視線が鋭く、睨んでいるようにも見えた。


「何の用だ」


「相変わらずだね。折角君の従者にお願いして、ここに招いたっていうのに」


 最高神は変わらない姿で、以前と同じ軽い表情を浮かべている。


 隣の青年は生真面目そうな所作でモノクルを整えた。


「彼は知恵の神。ぼくの助手兼護衛ね。クソ真面目だけど悪い子ではないから」


「誰がクソ真面目ですか」


「それで、私を呼び出した要件は」


 セノカはやや食い気味に言った。助手兼護衛、と聞いて、局のとある新人が脳裏に浮かんだ。固い敬語で話すあたり、余計に彼が思い出される。あれは助手ではなく秘書だったが。


 最高神はこほん、と一つ咳ばらいをした。


「ぼく、前回に言ったじゃない? 死なないように細工しておくって。それを説明しようかと思ってね、その他の情報も含めて、後で君の兄弟にも伝えてほしい」最高神は人差し指を立て、手を掲げた。


「まず、君たちが今いる異世界には魔法と呪術の他に育成可能の獲得能力(スキル)が存在する」


「ああ、知っている」


「そして脆仙と聖仙、宵聖仙の弱小三種族のみが生まれながらに持っている、一つから五つの獲得能力のことを天与魔術(ホーリーギフト)と呼ぶ。君たちにも既に備わっているよ。……要件はその天与魔術についてだ」


 最高神はくす、と笑った。


 天与魔術とは、最高神の説明した通り、聖仙、宵聖仙、脆仙の三種族のみが持つ固有能力だ。遥か昔、他の種族からの攻撃から自らの国を守るために勇者が神に祈ったところ、天与魔術を授かったらしい。一人が所有する魔術は一つから五つ。通常の獲得能力と同様、鍛錬次第でその機能は成長していく。大体が魔術に目覚めるのは六歳ごろ、つまりセノカたちも近々覚醒するということだ。


 セノカは身構えた。


「ぼくの使者として特別に、君たちの世界の神じゃなくてぼくから直接、天与魔術を与えさせてもらった。ぼくが選んだ、強力なやつね」


 知恵の神は不服そうに眉をひそめた。


「転生者。間違えても私欲のために力を振るうなよ」


「心得ている」セノカは冷淡に答えた。


「もう一つ。あの世界、幸運なことに知り合いが居るんだよ。必要になったら会いに行ってみ給え」


「知り合い?」


「そう。とっても頼りになる知り合いさ。でもまあ、警戒は怠らないように」


 宇宙の景色が薄れ始めた。

 最高神は親し気に手を振った。


「またね」






 _____ところで、疑問に思ったことがある。

 最高神は前回、こう言っていた。


『ぼくらは、概念を司る神。知恵、恋愛、法、戦、時空、魔、力。それらを制御し、操作する者。


 ぼくはその頂点。全ての概念を手中に収め、現世そのものを司る神____最高神。』


 私は神という存在を未だよく知らない。しかし、それがどうも不自然に感じた。



 恋愛と戦の神が居る中、「生と死の神」は居ないのか?



 それとも、神が挙げなかっただけ?


 どちらにせよ、最高神が転生の仕事を負うことにどうしても違和感を覚えた。 


 …………自分には関係ないこと、だと思う

が……………………。







 目が覚めると、ベッドの中だった。


「神様は何て?」レムノスが尋ねた。


「……明日、レイとテオに伝える。今は寝かせろ」


 眼の下に薄い隈を浮かべたセノカが、窓から顔を背けるように寝返りを打った。


 まだ夜更け、月明かりが遮光布の隙間から白い布地を照らした。

登場人物プロフィールその7

ハルク

種族 聖白竜

年齢 871歳

変身時の身体年齢 18歳

身長 614cm

体重 529kg

変身時の身長 192cm

変身時の体重 (角と翼含めて)72kg

好きな物・・・戦闘、強者、鳥類の肉

嫌いな物・・・弱者

好きな言葉・・・弱肉強食

恋愛的な好み・・・…………?

特技・・・速く飛ぶ

最近あった良いこと・・・特大の鳥類を狩った

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