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混沌のアリス  作者: 里羽
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【第六十一話:仲間の絆、孤高の刃】

アデルたちはリュクシスを後にし、ルクシア魔導学園へと戻る旅路についていた。

戦いの余韻はまだ身体に残っていたが、空気はどこか穏やかで、街道を渡る風は心地よかった。


「そういえばマリア。王様から貰ったあのデカい武器……どうしたんだ?」

アデルが何気なく尋ねる。


「……ああ、あれですか? さすがに普段から持ち歩くには大きすぎます。魔力収納にしまってありますよ」

マリアは苦笑しながら胸元の収納具に触れた。

「名前は“パイルバンカー”と呼ばれているそうです。異世界の技術を取り入れて作られたとか」


「パイルバンカー?」ユウナが首をかしげる。

「それって……でっかい杭みたいのが飛び出してくるやつ?」


「ええ。試しに訓練所で一度だけ使ってみましたけど……威力は絶大でした。ただし連続使用は三回が限界。魔力の充填を挟まなければ暴発の恐れがあるようです」


リリスが眉をひそめる。

「なんだか、ほんとにとんでもない代物ね」


アデルは苦笑を浮かべつつ、ふと自分の腰の剣に目をやった。

「……そういえば、俺の剣もまた姿を変えたんだ」


「えっ?」リリスが目を丸くする。

「もしかして、そのアルセリオン?」


「ああ。この剣アルセリオンが進化して“大剣形態”になった。名前は――アルセリオン・グラン」

アデルが柄を軽く撫でると、刃が微かに光を放つ。


「ええー!? 姿が変わる剣なんて……まるで異世界ファンタジーだね!」

ユウナが思わず声をあげる。


「……いや、ユウナ。ここが異世界なんだけど?」

リリスがツッコミを入れると、場が和やかな笑いに包まれた。


「ま、頼りになる武器が増えるのは心強いことよね」

「そうだな。とりあえず、途中の村で休憩しながらゆっくり戻ろう」アデルはそう言って笑った。


「賛成ー! 歩き疲れてきちゃったもん」

ユウナが両手を頭の後ろに回し、ふわりと笑った。



一方その頃、ルクシア魔導学園。


「アスラ、大丈夫かい? リュクシスで……何かあったんだろ?」

シグが心配そうに声をかける。


「大したことじゃない……」

アスラは視線を逸らし、短く吐き捨てた。

「ただ、俺の力が足りなかっただけだ」


「けどよ、結構ひどい怪我だったって聞いたぜ?」

タガロフが腕を組み、眉をひそめる。


「うるさい。あれは俺のミスだ。……命に関わらなかっただけマシだ」

そう言い残し、アスラは立ち上がって部屋を出ていった。


「ったく……心配してやってんのによ」

タガロフがぼやく。


「……まぁ、アスラにも考えがあるんだろう。とりあえずは一人にしてやろう」

シグは静かに呟いた。



ルナーシュの街。

人通りの多い大通りを避けるように、アスラは一人歩いていた。


(……ちっ。あの程度の魔物相手に……不甲斐ない)

拳を握り締め、悔しさに奥歯を噛む。

「これじゃあ……アイツを斃すなんて夢のまた夢だ……」


不意に、目の端に見えた建物――冒険者ギルド。

気まぐれに足を運ぶと、中は活気に溢れていた。酒は禁じられているはずだが、男たちの声は酒場さながらに賑やかだ。


「なぁ聞いたか? この辺りの北に、昔村があったんだとよ」

「村? なんでそんな話を?」

「そこに“魔剣”が保管されてたって噂だ」


「魔剣だぁ? そんなもん実在すんのかよ」

「ホントだって! 代々受け継がれてたらしい」


アスラの心臓が跳ねる。

(……魔剣。まさか……)


「でも村はとっくに滅んじまったってよ。もう残ってねえだろ」

「だろうな。……けど、別の噂もあるぜ。大森林の北の洞窟。あそこの奥に魔剣が眠ってるってな」


「また魔剣かよ! ……そりゃリュクシスに抜ける洞窟のことか?」

「違ぇ違ぇ。もっと北に迂回した先だ。大森林をかすめる道にある洞窟だって話だ」


「お前が取りに行ってみろよ!」

「バカ言え! 洞窟の奥を守ってるのは“カースリッチ”だって噂だぞ!」


「はぁ!? カースリッチみてぇな化け物が、なんでそんな所にいんだよ」

「さぁな。ただの噂話さ。俺らには酒の肴にするのが関の山だ」


「がはははは!!」


「ちょっと! 冒険者ギルドの中は飲酒禁止!」

受付嬢の叱責に、酔っ払いまがいの冒険者たちは笑いながら肩を組んで外へ出て行った。


にぎやかな空気が戻ったギルド。

だがアスラは静かに席を立ち、外の光へと歩みを進めていた。


(洞窟の魔剣……そして、カースリッチ……)

胸の奥で、決意とも焦燥ともつかない熱が渦巻いていた。



「やーっと着いたな! なんか行きより帰りの方が時間かかった気がしないか?」

学園の城門を見上げ、アデルが大きく伸びをした。


「そりゃあ……村であんなにユウナが食べるから休憩が長かったのよ」

リリスが呆れ気味に呟く。


「ええ!? わ、私そんなに食べてた?」

ユウナが慌てて目をぱちくりさせると、


「食べてただろ!」

「食べてたわよ!」


アデルとリリスが声を揃えた。


「えぇぇ!? そんなぁ……」

頬を赤らめるユウナに、マリアがくすくすと笑った。


「ふふ……でも、ユウナも随分元気になりましたね」

「……へへ、ありがと。みんなのおかげだよ」

ユウナの表情は、リュクシスを発つ前よりも柔らかく見えた。


「まぁいいや。とりあえず疲れただろうからおれか俺が学園長に報告に行ってくる」

アデルは踵を返しながら言う。

「みんなは先に休んでくれ。……あ、それとアスラ達の様子も一応見てやってくれよ」


「はいはーい、わかったわよ」

リリスが気楽に答えた。


「リュクシスにいたアデル君のお友達だよね? 様子見に行こうよ」

ユウナが首を傾げると、


「そうですね。ミーナやグレイスも気になりますし」

マリアも頷いた。



「ミーナー、グレイスー! 来たわよ!」

リリスが寮の扉を開け放つと、真っ先に声が返ってきた。


「リリス!! 帰ってきたのね!」

ミーナが駆け寄り、リリスに飛びつくように抱きつく。


「おお、リリス。帰ってきたんだね。無事で安心したよ」

グレイスは大きな体で腕を組みながらも、口元をほころばせていた。


「二人とも元気そうで安心したわ」

「ほんとに。ミーナも、前はずいぶん元気なかったですから……」

マリアが柔らかく微笑むと、


「マリア……ありがとう。マリアも来てくれて本当に嬉しかったよ」

ミーナは涙ぐみながら笑った。


「で? アデルのやつはどうしたんだ?」

グレイスが周囲を見回す。


「アデルなら学園長に報告に行ったわよ」

リリスが肩をすくめた。


「ふーん……まぁいいけど。アデルのやつにもお礼くらいしてやろうと思ったけど……やめた!」

ミーナがぷいっと顔を背ける。


「素直じゃないねぇ。たまには礼の一つでも言ったらどうだい?」

グレイスが笑うと、


「いいの! アデルのやつすぐ調子に乗るもん!」

ミーナは頬を膨らませる。


「ま、そのくらいがアデルにはちょうどいいんじゃない?」

「それはさすがに可哀想じゃありません?」

リリスとマリアの言葉に、部屋に笑い声が広がった。


「えっと……改めて、初めまして……」

遠慮がちに口を開いたのはユウナだった。


「あ、ごめん! ユウナのことちゃんと紹介してなかったわね」

リリスが慌てて手を振る。

「こちらはユウナよ。異世界人だけど、いまは私達と一緒に行動してるの」


「ユウナ:カガミです。よろしくね!」


「改めて、ミーナ:リュミエール! あの時はありがとう、ユウナ!」

「グレイス:バーンレッド。オーガ族だ。あんたがアデル達を助けてくれたんだってな。アタシからも礼を言うよ」


「ううん、私の方こそ……アデル君やリリス、マリアに助けてもらってるんだよ」

ユウナが小さく手を振ると、


「ふふ、謙遜しなくていいの。ユウナに助けてもらったのは事実だし」

「そうですね。……そういえば、アスラは?」

マリアが問いかける。


「アスラならもう怪我は治ってるわ。でも、あんたのせいじゃないって伝えたのに……聞いてくれなくて」

ミーナが唇を噛む。


「まぁ、アスラの性格じゃ“自分の力不足”って思い込んでるんだろうな。いまは一人にさせとくのが一番だ」

グレイスが溜息をついた。


「はぁー……アスラまた、そういう感じなのね」

リリスが肩を落とす。


「でも、パーティーで戦ってるんだから一人のせいなんてことないのに」

ユウナが真剣な顔で言う。


「……それがアスラなんですよ。きっとまた戻ってきます」

マリアが静かに応じた。


「そうね。少ししたら、私も様子を見に行くつもり。庇ってくれたのは事実だから」

「アタシも行くよ。パーティーメンバーだからな!」

ミーナとグレイスはうなずき合った。


「……アスラ君も、いい仲間に恵まれてるんだね」

「そうね。まぁ卒業したらどうなるかわからないけど」

「まだ卒業までは少しありますし、それまでにゆっくり考えればいいですよ」


女子だけの談笑は、穏やかで温かい空気に包まれていた。

アデルもアスラもいない今だからこそ、安心して笑えるのかもしれない。



「……ここか」


アスラは一人、大森林の北――人の気配が絶えた山の麓に立っていた。

黒々と口を開く洞窟。その奥からは、冷たい瘴気が流れ出している。


「噂が本当かどうかなんてどうでもいい。だが……今の俺には、これが必要なんだ」

剣の柄を強く握り、瞳を細める。


「魔剣があろうがなかろうが……ここで俺は、自分の限界を超える」


胸の奥で渦巻くのは、怒りか、憎悪か、それとも焦燥か。

ただ一つ、決して消えない誓い。


(そして……いつか必ず、アイツを……)


アスラは唇を噛みしめ、暗き洞窟へと足を踏み入れた。

その背は決意に固く縛られており、二度と後戻りはできないように見えた。

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