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混沌のアリス  作者: 里羽
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【幕間:ユウナの秘密】

今日幕間なので短めの話です

遠く離れた地――ジャロクの片隅。

赤茶けた岩肌と乾いた風が吹き抜ける丘で、一人の老人と少年が向かい合っていた。


「もっと腰を入れて剣を振るんじゃ!」

ハサンの声は低くもよく通り、長年の鍛錬からにじみ出る厳しさがあった。


「じーちゃん……もう疲れたよー」

木剣を肩に担ぎ、少年は大きく息を吐く。


「まったく、お前ときたらまだまだ未熟だのう」

「そんなこと言ったってさー……」

不満を口にする少年に、ハサンは仕方なさそうに笑った。


「まぁよい、少し休憩にするか」


少年はその場に座り込むと、興味深そうに顔を上げた。

「ねぇ、じーちゃん。前に教えてくれたユウナって人、どんな人なの?」


「ユウナか……」

ハサンは少し遠い目をした。

「突然やってきた子じゃった。異世界人だと聞いておる」


「へぇー! 異世界人!? 俺、見たことないよ!」

「ふむ、異世界人と言っても、わしらと何も変わらん。ただ――少し異質ではあったな」


「どういうこと?」

「魔力の質がのう……わしらのそれとは、少し違っておった」


少年は首をかしげる。

「ふーん……よくわかんないけど、それだけ?」


「いや……もう一つ、驚いたことがあったのう」

「なになに!?」

ハサンの皺深い顔に笑みが浮かんだ。


「それは――あやつの食欲じゃ」



同じ頃、リュクシスの街。


石畳に軒を連ねる店々。市場には香ばしい匂いと活気が満ち、笑い声や呼び込みが途切れない。


「ふぅー、本当に広いわね。ルナーシュと同じくらい……いや、それ以上かも」

リリスは呆れ混じりに肩をすくめる。


「お店の数はこちらの方が多いかもしれません」

マリアはきょろきょろと見渡しながら、穏やかな笑みを浮かべた。


「たしかに。見てるだけで目が回りそうだ」

アデルは苦笑する。


「私は……さっきから屋台ばっかり見ちゃってるけどね」

ユウナの目は輝いていた。


「ちょっと、ユウナ。あんた食べてばっかりじゃない?」

「えっ!? そ、そんなことないよ! でも美味しそうなんだもん!」


「まぁいいじゃないか。たまにはな」

「う、うん。たまにはね!」


そんな時、街角から威勢のいい声が響いた。

「さぁ挑戦者はいないかー! この巨大肉を食べ切れるものはおらんのかー!」


「なんだろう?」

「ちょっと、アデル!」

アデルは声のする方へ勝手に歩き出し、リリスが慌てて後を追った。


そこでは巨大な肉塊が台に乗せられ、店員が誇らしげに呼び込みをしていた。


「い、イノシシ……?」

「ただのイノシシじゃねぇ! 大森林の魔獣からとれた肉さ! 討伐祝いだ! 食べきればタダ! 残せば料金は倍額だがな!」


アデルは思わず後ずさる。

「こ、これは流石に……」


「私やる!」

ユウナが手を挙げた。


「えぇっ!? ユウナ!?」

「嬢ちゃん、本気かい?」

「やってみなきゃわからないでしょ!」


人々の視線が集中し、野次馬があっという間に集まる。

ユウナは大きな肉を切り分け、豪快に頬張った。


――10分、20分、30分。


「おい、あの嬢ちゃん全然ペース落ちねぇぞ!」

「顔色一つ変わらない……」


「お、おい。あの嬢ちゃん何もんなんだ?全然苦しそうな表情見せねえぞ」

「え、ああ、俺にも訳がわからないですよ……」


「うーん、美味しい! アデル君たちも食べればよかったのに!」

「い、いやあたしは……」

リリスは青ざめ、マリアは目を逸らした。


やがて――


「ふぅー……ご馳走様!」

ユウナがにっこり笑って食べ切った。


店員は絶句し、観衆は歓声を上げた。

「すげぇ! 嬢ちゃんだ!英雄だな!」

「お代はタダだ! まさか完食するとは……!」


アデルは額に汗を浮かべ、ぽつりと呟いた。

「ユウナって……実は大食いだったんだな」

「ええ、それも桁外れの」リリスは肩をすくめた。


アデルたちはこの日、ユウナの新たな一面を知った。そして同時に、今後の食費を心配することは口にしなかった。



「と、まぁ……あやつの食欲は底知れんかったというわけじゃ」

ジャロクの丘で、ハサンは笑いながら話を締めた。


「す、すごいね……!」

少年は目を輝かせる。


「まぁ、それ以外は普通の子じゃよ。だが……」

ハサンは空を見上げ、しみじみと呟いた。

「元気にしておれば、それでいい」


「会いたくないの?」

「……会えれば嬉しい。だが、会えずとも構わん。大切なのは、その子が笑って生きておることじゃ」


少年は首をかしげた。

「そういうもんなの?」


「お前も歳を重ねればわかる。さぁ、休憩は終わりじゃ! もう一度構えい!」

「えーっ! じーちゃん厳しいよ!」


笑い声が乾いた空に響いた。

ハサンは心の内で、静かに祈る。


(ユウナよ……また会う日まで、元気でおれよ)


その想いを胸に、老人の指導はますます熱を帯びていくのだった。

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