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混沌のアリス  作者: 里羽
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【第三十五話:双剣の証明】

今日は短めになります

8/22 話を飛ばしてしまったので元の三十五話は三十六話と統合してあります。

 観客席にざわめきが走る。

 場内アナウンスが高らかに響き渡った。


『――これより特別試合、アデル・セリオル対ライエル・ジン・クルセイドのエキシビションマッチを開始します!』


 リング中央、対峙する二人の特待生。

 アデルは腰の剣――アルセリオンの柄に手を置き、静かに呼吸を整えていた。

 その表情は穏やかだが、瞳の奥には燃えるような光が宿っている。


(……レオンさんとの約束どおり、今回は《身体強化フィジカルブースト》だけで戦う)


 一方のライエルは、すでに全身から鉄属性の魔力を溢れさせていた。

 その鋼色の魔力は空気を重くし、観客席にもじわりと圧迫感を伝える。


「……最初から全力で行かせてもらうぞ、アデル:セリオル!」


 試合開始の合図と同時に、ライエルは右拳を掲げた。


「《鋼のアイアンフィスト》!」


 黒鉄に覆われた拳が、音を裂くようにアデルへ迫る。

 しかしアデルは一歩も引かず、剣を水平に振り抜いてその拳を受け流した。

 金属と金属が激突する澄んだ音が響き、火花が散る。


(――軽い……!?)


 アデルは衝撃を受け止めながらも驚きを隠せなかった。

 今までなら押し返されるほどの力を、容易く受け流せている。

 身体は羽のように軽く、視界も妙に広い。


(これは……今までと全然違う……)


 ライエルは眉をひそめ、間髪入れずに二撃目を繰り出す。


「《アイアンフィスト》! ……もう一発だ、《アイアンフィスト》!!」


 連続で叩き込まれる鋼鉄の拳。

 アデルは剣先で弾き返し、刃筋で魔力を切り裂くことで衝撃を相殺する。


 観客席からは驚きの声が上がった。


「おい、今の全部受けたぞ!?」「いや、返してた……!」


 苛立ちを募らせたライエルが、低く唸る。


「返されるなら……返せないようにしてやる!」


 その瞬間、彼の足元に複雑な陣が広がった。


「《武器世界ウェポン・ザ・ワールド》!」


 地面から無数の鉄剣が生え、空中にも浮遊剣が展開される。

 リング全域が、ライエルの支配する武器の森と化した。


「行けッ!」


 嵐のように襲いかかる剣群。

 アデルは後退せず、腰のアルセリオンに意識を集中させた。


(……今だ、形を変えろ――!)


 剣身が淡い光を放ち、二つに分かれる。

 双剣形態ツヴァイモード――アルセリオン・ツヴァイ。


 二本の刃が、舞うような剣筋で迫る剣群を次々と弾き落とす。

 金属音が連続し、鉄の雨が降るような光景が広がった。


◇ ◇ ◇


 ――数日前、ライクの鍛冶屋。


「お、アルセリオンが双剣になったって?」


「ああ……でも、すぐに戻ってしまったんだ。あれはなんだったんだろうと思って」


 ライクの父、無骨な鍛冶師が口元を緩めた。


「そりゃ形態変化だな。一度変化したんなら、お前さんの魔力でいつでも変えられるはずだ。剣の形を変えるイメージで、魔力を込めてみろ」


 アデルは深く息を吸い、剣に魔力を流し込む。

 次の瞬間、アルセリオンが淡く輝き、二振りの剣へと変化した。


「……アルセリオン・ツヴァイ!」


「ほお、いい名前じゃねぇか」


「剣が……俺の心に教えてくれたような気がして」


「それはいい剣の証拠だな。大事にしてやれ」


「はい……これが、形態変化……」


◇ ◇ ◇


 現実に戻る。

 双剣の刃が全方位からの鉄剣を防ぎ切り、アデルの周囲には一片の傷もない。


「……ちっ、ならば――」


 ライエルが両手を組み、背後に巨大な魔法陣を描く。


「《鋼鉄の番人ガーディアン・オブ・メタトロン》!」


 しかし発動直前、アデルの右手の剣が閃光のように飛ぶ。

 刃は魔法陣の中心に突き刺さり、陣形が崩壊した。


「なっ……!」


 その隙に、アデルは残った左手の剣を握りしめ、一瞬で間合いを詰める。

 踏み込み、剣先がライエルの喉元で静止した。


「……勝負あり!」


 審判の声と同時に、観客席が沸き立つ。


「どうして……身体強化しか使わない!? 俺には他の魔法を使う必要もないってことか!?」


「そうじゃない。魔法を使うのもタイミングを選んでいるだけだ。それに――相手の虚を突くのも作戦のうちだろ?」


「くっ……」


「今回で最後じゃないだろ? 俺たちは、まだ強くなれるはずだ」


「……今回は、俺の負けだ」


 その言葉を合図に、観客が一斉に歓声を上げた。


 リングを降りたアデルの元に仲間たちが駆け寄る。


「おいおいおい! なんだよあれは!?」とタガロフ。


「ちょっと! いつの間にあんなことできるようになったのよ!」とリリス。


「まぁ、ちょっと色々あってな。ははは」


「ははは、じゃねえだろ! まったくよ」


「悪かったよ! でも俺も、ああなるとは思ってなかったというかだな」


「……ったくよ。まあ、なんにしても厄介な相手が増えちまったのは確かだな」


 別の席では、アスラ、グレイス、ミーナが試合を見届けていた。


「……ねぇ、グレイス? さっきの一体なんなの?」とミーナ。


「さぁね、あたしにも分からない。ただ、アデルが使ってたのは紛れもなく《身体強化》だけだったよ」


「あれは……アデル……あいつの魔力制御の高さはなんだ?」とアスラが低く呟く。

「身体強化だけで戦えたのも、魔力制御が格段に高まって、その質が強化されているからだろう」


「ふーん? でもなんで? 突然そんなことある?」


「可能性があるとすれば魔導核の覚醒だろうけど……そういう感じじゃないね」とグレイス。


「……分からない。ただの訓練だけじゃ、ああはならないだろうな」


(だが――訓練だけじゃない。あれはあいつの元々の才能だ。あいつの力は一体なんだ……?)


 突如始まったエキシビションマッチは、アデルの新たな力を示す形で幕を閉じた。

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