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混沌のアリス  作者: 里羽
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【プロローグ:光と闇の記憶】

 遥か太古、世界《アルヴ=レグナ》には、ふたつの根源的な“魔の源”が存在していた。


 一つは、《癒し》と《秩序》を司り、命を育み、平穏をもたらす――光。


 もう一つは、《破壊》と《混沌》を孕み、力を求める欲望と、変化を促す――闇。


 光と闇。

 それは決して交わることのない対極の力でありながらも、互いを打ち消すことなく、微妙な均衡のもとに世界を形づくっていた。


 光が支配しすぎれば、世界は停滞し、やがては腐る。

 闇が広がれば、すべては呑まれ、破滅を迎える。

 だが、均衡が保たれる限り、《アルヴ=レグナ》は調和と変化を繰り返しながら、悠久の時を重ねてきた。


 ――その均衡は、ある“存在”の出現によって、突如として崩れ去った。


 その名は、“魔王”。


 闇の最深より生まれ落ちた存在。

 絶え間なく溢れ出る魔力の奔流をまとい、世界の秩序と調和を意図的に壊そうとする“破壊の意志”そのもの。


 魔王は災厄の化身となり、魔物たちを従え、王国をいくつも蹂躙していった。

 黒煙は空を覆い、紅蓮の雨が大地を焦がす。

 人々の希望は地に墜ち、世界は終焉へと傾き始めた。


 ――しかし、抗う者たちがいた。


 各地から現れた《選ばれし者》たち。

 それは、神託を受けし勇者を筆頭に、己の誓いと信念に生きる戦士たちの集まりだった。


 勇者の名は、レオン・アークフェルド。


 光の都“セレスティア”に生まれ、剣と魔法の両方を自在に操る清廉なる若者。

 神殿より授かった聖剣を手に、彼は仲間と共に、絶望の大地へと歩み出した。


 その旅路には、数多の試練が待ち受けていた。


 “東の国の騎士王”。

 誇り高き戦士。祖国を背負い、仲間を守るために剣を振るう将。


 “エルフの賢者”。

 森の叡智を受け継ぎ、精霊と語らい、大自然の力を操る導き手。


 そして――《光の巫女》と呼ばれた少女、ステラ:セリオル。


 純粋なる光の魔力を持ち、生まれながらに神託の声を聞くとされた者。

 その優しき力は仲間を癒やし、希望を繋ぐ“灯火”となっていた。


 彼らは数多の戦いを越え、ついに魔王の本拠地――《虚無の王宮》へと辿り着いた。


 ――だが、その最奥にて、思わぬ“再会”が待っていた。


 《魔王軍四将》の一人、“暗黒騎士ギルバート”。

 かつての勇者の親友であり、世界に絶望し、魔王の右腕として闇に身を堕とした者。

 そして――この世界で最も剣を極めし者。


 漆黒の鎧に包まれたその姿は、まさしく死を纏う影。

 その剣は魔力と怨念を帯び、ひとたび振るえば周囲の空間すら震える。

 だが、彼の瞳は、どこか憂いを帯びていた。完全には闇に染まりきってはいなかった。


 「ギルバート……君には、まだ光を信じる心が残っているはずだ!」


 レオンの叫びが、空間を震わせる。


 「世界は……確かに優しくなんてないさ。だけど、君を信じて待っている仲間が、ここにいる!」


 「ふざけるな……この期に及んで、何を寝言を……!」


 「ギルバート! お願い、やめて……レオンも、私も、あなたと戦いたくない!」


 「――黙れ!! もう、戻れはしない……!」


 ギルバートが剣を掲げる。


 「《滅影葬刃ダスクネメシス》!!」


 闇が奔り、空間が裂ける。死を呼ぶ黒の十字が、勇者たちを襲う。


 「くっ……《聖煌断界ラディアントブレイカー》!」


 レオンが放った光の剣閃が、それを迎え撃つ。

 光と闇が衝突し、地響きが空間を割った。戦いは激しさを増し、空間そのものが悲鳴を上げる。


 やがて――勇者レオンの剣が、ついにギルバートの鎧を穿った。


 その瞬間、全ての音が止まった。


 「……まだ、終わりじゃない。君は、僕の友だ。

  どれだけ傷つけ合っても……僕は、君を憎めない。諦めたりなんて、できないんだ。

  だから……もう一度、共に歩こう。ギルバート。」


 ――それは、剣を向けた者の、迷いなき言葉だった。


 ギルバートは、自らを否定することを恐れていた。

 だが、その言葉は確かに、彼の心に届いた。

 信じることを捨てたはずの彼に、もう一度誰かのために剣を振るう理由を与えた。


 それは、敗北ではない。

 それは、“再起”という名の奇跡。


 かつて“敵”と呼ばれた者が、今や“仲間”となる。


 ギルバートは魔王に背を向け、自らが仕えていた主を討つ剣となった。


 ――そして。


 「魔王ジャバウォック! 貴様を討ち、この世界を取り戻す!」


 「勇者か……やってみるがいい。だが、ここがお前たちの物語の終わりだ。

  そしてギルバート……裏切り者の末路を、見せてやろう。」


 「やってみせるさ! 《聖焔光翼ブレイジングフェザー》!」


 「俺は……もう絶望などせん! 《冥哭滅牙アビスファング》!!」


 光と闇、かつての対極が並び立ち、共に放つ必殺の一撃――。


 壮絶なる最終決戦の末、勇者たちは魔王を討ち、世界に再び“光”をもたらした。


 ――そして、すべてが終わった後。


 旅路の果てに、《光の巫女》ステラと、《暗黒騎士》ギルバートは、過去を乗り越えた。

 互いの傷を癒やし、名を捨て、静かなる地で、ひとつの命を授かった。


 その子の名は――アデル:セリオル。


 光と闇、その両方をその身に受け継ぎし者。


 これは、彼が“力”と“運命”に立ち向かい、仲間と共に歩んだ、選択の物語。


 そして――

 世界《アルヴ=レグナ》を巡る旅の中で、彼が何を得て、何を選ぶのか。

 それは、まだ誰も知らない。物語の――はじまりにすぎない。

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