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執着強めな婚約者の愛は、過激で過保護で当然重い  作者: 桜 祈理
第一章 アルトラン王国編

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9 溺愛も執着も、度が過ぎればただの狂気

「……え?」


 一瞬、言われた意味がよくわからなかった。


 妖しい毒を含んだルカの笑みに空恐ろしさを感じると同時に、美形はどんな顔をしても美形だなあなんてのんきに見惚れていたせいもある。美形、恐るべし。



 ――いやいや、感心している場合じゃない。



「……ちょっと待って、ルカ。それって、つまり」

「うん?」

「私が危険な状態にあるかどうかとは一切関係なく、ルカはいつでも私の居場所がわかるということよね?」

「そうだよ」

「どうやって?」

「俺の黒曜石を軽く握ると空中に地図が広がって、キアラのいる場所が点滅するんだ」


 ルカはそう言って、自分の黒曜石をゆっくりとその手のひらで包み込んだ。


 次の瞬間、黒曜石は鈍く光り、まさしく空中に王都の地図がぴこん、と現れる。



 なんという奇術! いや、幻術? 妖術? あ、魔法だった。



 とにかくすごい。すごいとしか言いようがない。



 そしてよくよく見ると、地図上で青く点滅する光に気づく。位置関係から察するに、その場所はグラキエス公爵邸である。


 ということは。


「あの点滅している青い光が、今現在私のいる場所ってこと?」

「そういうこと。この黒曜石のおかげで、俺はキアラの居場所をいつでもどこでも簡単に確認できるってわけ」


 得意げな顔を隠そうともしないルカに、私は軽いめまいを禁じ得ない。


「さっきファベル侯爵邸でディーノと模擬戦をすることになって、準備しようとした矢先に俺の黒曜石がピカピカ光り出してさ。今まで一度も見たことのない反応だったから、キアラの身に危険が迫っていると確信したんだ。それですぐに居場所を特定して、ディーノやファベル侯爵家で訓練していた騎士団員たちと一緒に、あの別荘へ向かったんだよ」


 ルカはわかりやすくドヤ顔を決める。


 私はどうにかこうにか、少し引きつった笑みを返す。


「……あのね、ルカ」

「なに?」

「助けに来てくれたのは、もちろんすごくありがたいしうれしいのよ。でも、黒曜石のその魔法はちょっと、問題があるというか……」

「問題? 何が?」

「だって、危険な状態かどうかとは関係なく、ルカは私がどこにいるのか瞬時に把握できちゃうってことでしょう? さすがにそれは、束縛が過ぎるというか……」

「束縛? 違うよ? 俺はキアラの自由を奪うつもりはないよ。キアラのやりたいことを邪魔するつもりもないし」


 そう言って私を真っすぐに見つめるルカの瞳は、澄み切っていて透明で、邪気の欠片もない。


「俺、キアラが無事でいるのかどうか、いつも心配なんだ。嫌な思いをしていないか、泣いていないか、傷ついていないかって、そればかり考えてしまう。もしも何かあったときには一番に駆けつけて、今度こそ俺が守ってやりたい。俺がキアラを助けたいって、ずっとそれしか考えてない」


 追い詰められたような余裕のないルカの表情には、確かに見覚えがあった。


 否が応にもあの頃のことを思い出した私は、静かに尋ねてみる。


「……まだ気にしてるの? 中等部に入った頃のこと」


 私の言葉で、ルカは不貞腐れたように目を伏せた。


「当たり前だよ。あのとき俺がどれだけ悔しかったか、キアラだって知ってるだろ」

「それは、そうだけど……」

「キアラがあんなひどい目に遭ったのは、俺のせいだよ。何をされたのかキアラは全部言わなかったけど、うちに謝りにきたやつらが洗いざらい白状したんだ。陰で悪口を言われたり難癖をつけられたり、直接罵倒されたりしただけじゃないんだろう? 持ち物が壊されたり教科書が切り刻まれたり、挙句の果てにはキアラを階段から突き落とそうとしたとか暴漢に襲わせようとしたやつもいたって……」

「あー。そんな人も、いたかもね」

「それなのに、結局あの騒動を収めてキアラを救ったのは、俺じゃなくて母上だったじゃないか。あんな屈辱、二度と許せない」

「屈辱って、相手はあなたのお母様でしょ」

「そんなの関係ないよ。キアラを守るのも助けるのも、危険なものから遠ざけて大事に大事に甘やかすのも、全部俺でありたいんだよ」


 痛いくらいの真剣なまなざしに、私は言葉を失ってしまう。


 あの一連の出来事があって以降、ルカの心には悔やんでも悔やみきれない悔恨の情が刻み込まれてしまったらしい。


 そのせいで、ルカの愛情はより深く、より苛烈に、そしてより過保護になってしまった。ルカが私から片時も離れようとしないのは、もう二度と傷つけまいと思う強い気持ちがあってのこと。


 それを知っているからこそ、なんだかんだ言ってルカの行き過ぎた偏愛や執着を拒絶することができない。最後には許してしまう私がいる。


 まあ、なんというか。そんな自分も大概だなあ、とは思う。


「……要するに、私の居場所がわかればいつでも駆けつけられるから、黒曜石にそういう魔法を付与してもらったのね?」

「もちろんそれもあるし、キアラは今どこにいるのかなあってちょこちょこ確認して、ニヤニヤしてたってのもあるんだけど」


 なんだそれ。そこは正直に言わないでほしかった。ツッコんでいいのかスルーすべきか、悩むところである。


 とか思いつつ、渋い顔をしていたら。


「え、やっぱりキアラも嫌だった?」


 いきなり不安げな目をするルカに、私も面食らう。


「な、なんで?」

「だってさ、居場所がわかる魔法を付与してくれって頼んだとき、魔導具師に言われたんだよ。そういうのを嫌がる人もいるから、相手の了承を得てからのほうがいいんじゃないかって」


 なるほど。魔導具師の方はとても真っ当な感覚の持ち主だったということが判明した。ちょっと安心である。これで魔導具師の倫理観もぶっ飛んでいたとなったら、いろいろと先が思いやられる。


「でも結局は、私の許可も了承も得ずに、そういう仕様にしたというわけよね?」

「……ごめん。キアラの嫌がることは極力したくなかったけど、キアラを守る役目をどうしても他人に譲りたくなくて……」

「嫌がってないわよ、別に」


 あっけらかんと言い放つ。


 ルカは「え」と言ったきり、微動だにしない。


「まあ、ちょっとやり過ぎかなあとは思うけど、私の居場所が特定されたからといって、よく考えたら特に困ることもないし。ルカが私を心配してくれて、大事にしようとしてくれているのはわかってるつもりだし」

「怒ってないの?」

「怒ってないけど、事前に言ってほしかったなと思って。ルカの気持ちは、私だってちゃんと知っておきたいもの」

「あー……」


 バツが悪そうな、それでいて照れくさそうな顔をして、ルカが身を乗り出す。


 そのまま私を優しく抱きしめると、小さく「ごめん」とつぶやいた。


「……黙ってて、ほんとにごめん」

「いいのよ。だって結局は、その黒曜石のおかげで助かったんだし」

「じゃあ、これからもちょいちょい頻繁に、特に必要性がなくてもキアラの居場所を確認しまくっていい?」

「……悪用しないならね」


 ちょっと呆れぎみに答えると、ルカは言質を取ったとばかりにパッと顔を輝かせる。


 ほんとにもう。そんな顔をされたら、憎めないから困るのよ。


 だって、ルカは溺愛という名のもとにどれだけ暴走したとしても、私の自由を奪うことはないのだもの。多少(?)行き過ぎた感は否めないけど、それでも愛が強すぎるあまり私のことを徹底的に管理するとか、何から何まで支配しようとするとか、そんなことはない。


 むしろ私のやりたいことを優先してくれるし、好きなようにさせてくれる。ルカはいつでも、私の幸せだけを願っている。


 だからこそ、私は許してしまうのだろう。


 ルカの過激な溺愛や執着に依存しているのは、もしかしたら私のほうなのかもしれない、と思う。


「ところでさ」


 終始私を想う温かさで満ちていたルカの声が、俄かに凍てつくような怒りを纏った。


「ミリアムたちがどうなったか、知りたい?」













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