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執着強めな婚約者の愛は、過激で過保護で当然重い  作者: 桜 祈理
第二章 東方の島国シャンレイ編

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1 相変わらず愛が重すぎる旦那様

 柔らかな日差しがカーテンの隙間から差し込み、小鳥のさえずりが耳に心地よい、まことに爽やかな朝。


 目を覚ました私の視界に飛び込んできたのは、心から愛おしそうに私を見つめる超絶美形な夫の顔である。


「おはよう、キアラ」


 邪気の欠片も感じられない満面の笑みを浮かべるのは、ルカ・グラキエス公爵令息。この世のものとは思えない人間離れした麗しさをたたえるこの人は、何度も言うけど私の夫である。


 しかしながら、朝から美形の艶めいた視線でじっと凝視されるというのは、とても心臓に悪い。


「……いつから起きてたの?」


 寝起きの掠れ声で尋ねると、ルカは可愛らしく小首を傾げる。


「うーん、いつだろう? 一時間くらい前かな」

「一応聞くけど、何をしていたの?」

「キアラの寝顔を眺めてただけだよ」

「……一時間ずっと?」

「一時間ずっと」


 飽きないのか?


「だって、キアラの寝顔が可愛すぎてさ。それに、幸せすぎて。朝目覚めたらキアラが俺の腕の中ですやすや眠ってるだなんて、奇跡以外の何物でもないと思って」


 そう言って、ルカは私の額に優しくキスをする。


「おはよう。俺の愛しい愛しい、大好きな奥さん」





 あの一連の騒動から、すでに半年余り。


 学園を卒業すると同時に、私とルカは満を持して結婚した。


 筆頭公爵家の権力と財力とを存分に見せつけた盛大な結婚式が終わり、ルカの深すぎて重すぎる愛を改めて思い知ることになった初夜から、数日後の朝である。


「せっかくだし、もっといちゃいちゃしちゃう?」


 耳元で甘くささやくルカの右手が、すでに不埒な動きをし始めている。


 私はそれをバシッとつかんで、ぴしゃりと言い返した。


「そろそろ起きて、準備しなきゃでしょう?」

「えー? ちょっとくらいよくない?」

「……ちょっとじゃ済まないくせに」


 ジト目で見上げると、ルカは「うん、確かに!」なんて上機嫌で笑う。



 いよいよ今日、私たちは新婚旅行も兼ねて、東方の島国シャンレイへと向かうことになっていた。



 半年前、拗らせた恨みつらみを晴らすべく私を陥れようと画策した元オーリム侯爵家のヴェロニカ様は、今も王家直轄の特務機関で拘束されている。


 傾倒していた過激な宗教の教えでもある呪術を使ったのはいいけれど、シャンレイの魔導具師ユンジン様が作った魔導具と私が有しているという魔力の効果で呪い返しを受けてしまったヴェロニカ様。


 彼女の顔半分と体の一部に広がる禍々しいアザは、一向に消える気配がないらしい。


 変わり果てた我が身と時折襲う激痛に半ば錯乱状態だったというヴェロニカ様は、半年経った今でも反抗的な態度を崩さず、事情聴取はほとんど進んでいないという。


『だからあの宗教のことはもちろん、呪いや呪術に関しても解明できていない部分が多くてね』


 学園を卒業してまもなく、王城で顔を合わせたベルナルド殿下はうんざりした様子でため息をついた。


『具体的な呪術の手法についても過激な宗教の好戦的な教えに関しても、彼女は一切話そうとはしないんだ。だいたい、領地の隅に追いやられていた貴族令嬢が、どうやったらあんな物騒な宗教に出会えるというのだ? 調べれば調べるほど、謎は深まるばかりだよ』


 ベルナルド殿下の苦り切った表情を前に、私が思い返していたのはほかでもない、ヴェロニカ様のアザのことだった。


 彼女の体に広がるあの蒼黒いアザが呪い返しの影響だというなら、私にもその責任の一端がある。


 あのとき目にしたおぞましくも痛ましい姿にどうしても罪悪感が拭えない私を気遣ってか、ユンジン様は「シャンレイに来れば、呪いを魔法で癒す方法が見つかるかもしれないよ」と教えてくれた。


『シャンレイには、魔法や魔導具を研究する専門機関があるからね。役に立つことがあるかもしれない。来てみる価値はあると思うよ』


 ユンジン様の言葉の通り、もしもヴェロニカ様が受けた呪い返しを魔法で癒し、あのアザを消すことができたなら。


 彼女の冷たく荒んだ心も、少しは癒されるのではないだろうか。


 そうしたらきっと、危険な宗教の実態や呪術の秘密についても明かしてくれるのでは……?


 そんな密かな期待を、私は否定できずにいる。


 それに、ユンジン様は私に「会わせたい人がいる」とも言っていたのだ。


 シャンレイ行きを決めたのは、その意味深な言葉の真意を知るためでもある。





 東方の島国シャンレイへと向かう船旅は、思った以上に快適だった。


 おとぎ話でしか知らなかった海を目の当たりにして興奮し、海に沈む夕陽をルカと一緒に眺めたり、イルカが船と並んで泳ぐ姿にはしゃいだりしていたら、あっという間にシャンレイの港に到着してしまった。


 遠路はるばるやってきた私たちを出迎えてくれるのは、ユンジン様だと聞いていたのだけれど。


「……なんか、思った以上に出迎えの人数が多くない?」


 港に居並ぶたくさんの人たちは歓迎ムード一色ではあるものの、なんだか物々しい雰囲気にも包まれている。


 よく見ると、護衛と思しき兵士の数がやたら多い。私たちごときに、なぜここまで大勢の護衛が必要なのかというくらい。いや、多すぎるでしょ、これ。


 それに、人垣の向こうに見える馬車にも、どういうわけか異常に煌びやかでゴテゴテした装飾が施されている。あの装飾、どう見ても伝説の神獣である龍よね? え、龍?


「ここまで歓迎されるなんて、ご先祖様様だな」


 その昔、暴漢に襲われていたシャンレイの王太子をグラキエス公爵家の人間が助けたことで始まったという縁に、ルカは無邪気な様子で愛嬌を振りまく。


「いや、でも、様子がちょっと、おかしくない……?」


 戸惑いぎみな私にはお構いなしで、ルカは私の手を引きながら軽やかに船を降りる。


 そんな私たちを待っていたのは、グラキエス公爵家の離れで会ったときのラフな商人姿とはまったく異なる、この国の正装とも言うべき絢爛豪華な衣装を纏ったユンジン様だった。


「二人とも、ようこそ。よく来てくれたね」


 初めて会ったときと変わらない、にこやかな笑顔のユンジン様。


 でもその装いといい醸し出す空気感といい、明らかにただの商人ではない。


 もちろん、ユンジン様はシャンレイの商団を率いるリーダーであると同時に、実は権威ある魔導具師でもあるという事実は知っている。


 でも、だとしても、目の前に広がる異様なまでに華やかで仰々しい光景は、はっきり言って不可解過ぎる。



 これっていったい、何なの……?



 どうにも腑に落ちない思いで身構える私に気づいたのか、ユンジン様は唐突に笑い出した。


「あ、ごめんごめん。そうだった、二人には言ってなかったよね」

「な、何がですか……?」

「実は僕、この国の国王陛下である、リンフォン王の弟なんだよ」










第二章、始まりました……!


お待ちいただいていたみなさまも、はじめましての方々も、お読みいただきありがとうございます。

第二章は全十三話の予定です。

毎日投稿していきますので、よろしくお願いします!



それにしても、ユンジンが王弟だったとは……!

 ←予想していた方も多いとは思いますが(笑)



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