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14 本当に規格外だったのは

「はい?」


 思わず素っ頓狂な声を上げると、驚いたルカが身を乗り出した。


「キアラが魔力持ち? ほんとに?」

「ああ。今、一瞬だけ触れた感じだと、君の体の中には確かに魔力が宿っている。まあ、現段階では魔法を自在に使えるほどの魔力量ではないけどね」

「私に魔力、ですか……?」


 あまりにも奇想天外な話を聞かされた私は、ただただ呆気に取られてしまう。


「今まで、自分に不思議な力があると感じたことはなかった?」

「いえ、特には……」

「不思議な力を持つ親戚がいたりとか」

「いえ、聞いたことはないです……」

「え、じゃあ、キアラにはシャンレイ人の血が流れてるってこと?」


 なぜか興味津々のルカの言葉に、ユンジン様は「そうだね」と大きく頷く。


「魔力を持っているだけならシャンレイの人間じゃなくても可能性はあるかもしれないけど、君のその魔力は間違いなくシャンレイ人の魔力だよ」

「……そんなことまでわかるのですか……?」

「僕、これでも権威ある魔導師だからね」


 茶目っ気たっぷりの笑顔を見せるユンジン様に、返す言葉もない。


「どういう経緯があるのかはわからないけど、君の中には確かにシャンレイ人の魔力が宿っている。その魔力が魔導具である黒曜石と反応し、『黒い矢』となってならず者たちを攻撃したんじゃないかな」

「すごいな、それ!」


 ルカはひたすら興奮して、「さすがはキアラ!」とか「キアラ、かっこいい!」とか無邪気に叫んでいる。


 当の私は、いきなり示された事実をどう受け止めていいのかわからない。魔法や魔導具の存在を知ったのだってつい最近なのに、自分の中に魔力という未知の力が宿っているなんて。


「君には見えた黒い矢が実際には刺さっていなかったことに関しても、魔法と考えればさほど不思議な話じゃないんだよ。一部の魔法には相手に幻覚を見せたり混乱を引き起こしたり、状態異常をもたらす幻術の類いのようなものがあるからね」

「なるほど……」

「さっきも言った通り、君自身の魔力量はさほど多くはない。でも、僕たちの作る魔導具の効果を十二分に引き出す力はあると思うんだ。それこそ、僕たちの予想を超える絶大な効果を生み出す力がね」

「それは、喜んでいいことなのでしょうか……?」

「もちろんだよ。心配性のルカの頼みで仕方なく作った魔導具だったけど、君の危機を救ったのなら作った甲斐があったと思えるし」


 ユンジン様があまりにもさらりと言うものだからそのままスルーしてしまうところだったけど、やっぱりユンジン様もこれを作るのは気が進まなかったのね、と知った。申し訳ない。


 その後、意外なところから私の魔力の由来をあっさり聞かされることになる。


「クララが一度だけ言っていたことがあるの。彼女のおばあさまがシャンレイの人だったって」

「そ、そうなのですか!?」


 シャンレイの商団をもてなすパーティーに呼ばれた私に、ルナリア様がこっそり教えてくれたのだ。


 ちなみに、ルナリア様は黒曜石が魔導具だということに薄々気づいていたようである。ただ、どんな魔導具なのかまでは、ルカに確認しなかったらしい。まあ、聞かれてもルカは答えなかっただろうし。


「私の婚約が決まったときに、ついぽろっと言っちゃったみたいなのよね。でも多分、本当は口止めされていたんじゃないかしら。あのあと、そのことについては触れてほしくないような雰囲気だったし」

「ルナリア様の婚約が決まったときというと、ルナリア様がこのグラキエス公爵家に嫁ぐと決まったとき、ですか?」

「そうよ。グラキエス公爵家といえば、シャンレイともかかわりの深い家柄だということは誰もが認めるところでしょう? だからつい、言っちゃったんじゃないかと思うの」


 驚きである。母の祖母、つまりは私の曾祖母がシャンレイ人だったとは。


「私ね、この家に嫁いでシャンレイ人の秘密を知ってから、クララにも不思議な力があるんじゃないかと思うことが何度かあったのよ」


 ルナリア様は、何かに想いを馳せるような遠い目をして言った。


「彼女には、先のことを見通す力があったんじゃないかしらって。クララは自分が長く生きられないことをどこかで悟っている節があったし、あなたたちの婚約を決めたときもそう。あなたをあの家から守るにはこれしかないと言い切って、譲らなかったのよ。まあ、私も反対する気はなかったのだけど」

「未来はきっとこうなるということを、知っていたのでしょうか?」

「どこまで見通せていたのかはわからないけれどね。でも、この婚約はキアラにとってもルカにとっても必要なことだと力説されたときのことを考えると、クララにはルカがこうなることは見えていたんじゃないかしら」


 中央のテーブル付近でユンジン様やシャンレイの商団の方々と談笑するルカに目を遣りながら、ルナリア様がふふ、と苦笑する。


「ルカの過剰な執着や過激な独占欲を戸惑うことなくそのまま受け止めて、なおかつあの狂気じみた溺愛をうまくコントロールできるのは、キアラくらいしかいないもの」


 感心したようなルナリア様の言葉に、褒められた身としてはありがたいと思いつつも、息子を見る母の目はなかなかに辛辣かつ的確なのだなあと唸る私だった。






◇・◇・◇

 





 それから、数日後。


 学園から帰宅すると、あのクリオが玄関ホールで待ち構えていた。


 私を家まで送ってくれたルカが、その顔を見るや否や一瞬で臨戦態勢に入る。


「わざわざお出迎えか? 暇人だな」


 軽いジャブを打ったつもりが、その日のクリオはこれまでと違った。眉をひそめただけで何かを言い返すことはなく、仏頂面をしながらもどこか困惑した雰囲気である。


「二人に話がある。一緒に来てくれ」


 これまでとはあまりにも違い過ぎるその態度に、私もルカもお互いに顔を見合わせる。


 通されたのは、クリオの使う執務室だった。


「実は今朝、こんな手紙が届いたんだ」


 私たちがソファに座ると同時にクリオが差し出した手紙は、ミリアムが送られた西の修道院から届いたものだった。


「ミリアムがいなくなったらしい」

「「え!?」」


 驚く私たちに目を向けながら、クリオはますます渋い顔になる。


「修道院での様子を逐一知らせてくれるよう先方には頼んでいたんだが、まさかいなくなるとは思わなかったよ……」

「どこに行ったかわかってるの?」

「いや、わからない。知らせを受けた伯爵夫妻は、すぐさま事実を確かめるために修道院へと向かったそうだ」


 今でもミリアムが最優先の二人なら、恐らくそうするだろう。本当にいつまでも、諦めの悪い人たちである。


「修道院でのミリアムの生活態度は、めちゃくちゃだったらしい。厳しいルールや規則についていけず、文句を言ったり歯向かったりしては、懲罰室に入れられていたそうだ」

「なんか、想像できるわね……」

「でも西の修道院なんて、そう簡単に抜け出せるところじゃないだろう?」

「その通りだ。ミリアム一人で抜け出すのは、不可能に近いだろうな」

「え、じゃあ、誰かの手引きがあったってこと?」

「それも含めて、伯爵夫妻が確かめてくることになっている」


 どんどんと重量を増していく部屋の空気に、言い知れぬ息苦しささえ感じていると。


「とにかく」


 そんな空気を一掃するように、クリオが落ち着いた声で颯爽と話し出す。


「誰の手引きがあったにせよ、いなくなったミリアムが今後何をしでかすつもりなのかはわからない。修道院の戒律が厳しくて逃げ出しただけならまだ許せるが、王都に戻ってきてまたひと騒動起こそうと企んでいる可能性だってある。この前のことを逆恨みして、再びキアラを狙わないとも限らないしな」

「そんなこと、俺がさせるかよ」

「そうだ。キアラを守るのはお前の役目だ、ルカ」


 向かい側に座るルカを射抜くように、クリオがルカをじっと見つめた。


 予想に反して肯定的な言葉が返ってきたことに、ルカ自身も目を見開いている。


「この期に及んで、お前と敵対している場合じゃないんだよ。ミリアムがまたとんでもないことをやらかしたら、この家の存続だって危うくなるんだ。現状、キアラと四六時中一緒にいるのはお前だし、その常識外れな嗅覚と狂人並みの瞬殺力でキアラを確実に守れるのはお前のほうだろうと判断しただけだ」


 そのセリフは決して褒めてはいないような、などと思いつつも、まあ、クリオがルカを認めようとしていることはなんとなくわかった。なんとなくだけど。


 二人の和解は、もはや目前なのかも……! と思いきや。


「……上から目線なのが、いまいちムカつくんだよな」


 ぼそりとつぶやいたルカだった。




 






余談ですが、ルナリア様と公爵様は恋愛結婚です。





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