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執着強めな婚約者の愛は、過激で過保護で当然重い  作者: 桜 祈理
第一章 アルトラン王国編

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10 悪党の末路は悲惨

 そうだった。


 あの黒曜石が、実は魔導具でした! なんていうとんでもない暴露に驚きすぎて、そのうえルカの過保護な偏愛の再確認に気を取られてしまって、あの人たちのことをすっかり忘れていた。


「どうなったの?」

「当然、あの場にいた全員が騎士団に拘束されたよ」

「ミリアムも?」

「ああ。俺たちが駆けつけたことにいち早く気づいて、逃げようとしていたけどね。あっさり確保されたらしいよ」


 そういえば、ミリアムはどうやってあの別荘まで来たのだろうと思ったのだけど、なんてことはない、伯爵家(うち)の馬車で私を乗せた馬車のあとをつけていたらしい。


 そこまでして、私が傷物にされるのを自分の目で確かめたかったのだろうか。つくづく、底意地が悪いというか、性根が腐っているというか、なんというか。


「あの三人は貴族令嬢をだまして拉致監禁したうえ、暴行しようとしていた現行犯だからね。どうあがいても言い逃れはできないと思うよ」

「今頃、ソルバーン伯爵家は大変なことになっているでしょうね」

「ふん、知るかよ。だいたい、あの頭空っぽ女を野放しにしていたのは伯爵たちだろ。自業自得だ」


 尖った口調で、無愛想に言い捨てるルカ。だいぶご立腹である。


「本当は、三人とも俺が問答無用で八つ裂きにしてやるって言ったんだけどさ。ディーノにもほかの騎士団員たちにも、速攻で止められちゃって」


 それはそうでしょう、とは言わないでおいた。


「今頃、全員騎士団本部で厳しい取り調べを受けてると思うよ。男二人のほうは平民だったらしいから、大方ミリアムに頼まれたんだろうけどさ」


 そこで私は、はたと大事なことを思い出す。


「ねえ、ルカ」

「なに? どうしたの?」

「今回の騒動、黒幕はタチアナ殿下よ」


 その言葉で、ルカは間髪を入れず眉間に何本ものしわを寄せた。


「あいつらが言っていたのか?」

「ミリアムが話しているのを聞いたのよ。『こっちには帝国の第三皇女っていう強い後ろ盾があるんだから』って」

「あのクソ女……!」


 ぎり、とルカが歯噛みする。


 にしても、帝国皇女を「クソ女」とはなかなかに不敬である。ここに本人がいなくてよかった、と思ったけど、ルカなら堂々と本人にも言っちゃいそう。


「頭のネジがぶっ飛んだ女二人で結託して、キアラの拉致を企てたってことか。策を練ったのは殿下で、ミリアムを実行役として利用したんだろうな。あいつなら、平民のならず者に知り合いがいてもおかしくはないし」

「そうなの?」

「そうだよ。あいつは五歳でソルバーン伯爵家の人間になって、一応貴族令嬢として振る舞ってはいたけど、素行の悪いやつらともつきあいがあったんだ。伯爵や夫人はまったく気づいてなかったけど」

「そんなの、私だって全然気づいてなかったわよ?」

「キアラは気づかなくてもいいんだよ。あんなやつのことを気にかけるくらいなら、俺のことだけ見てよ」


 そう言ったルカは、いつのまにかベッドの上に腰かけているだけでなく、ちゃっかり私の隣を占拠していた。


 それどころか、逃さないよう私の腰をがっしりと抱き込んで、離さない。



 ……ベッドの上でこんなふうに密着するのは、いろいろまずいと思うのですが……!



「とにかくさ」


 私を抱きしめる腕の力を強めながら、ルカはちょっと真面目な顔つきになった。


「あんなことがあったんだし、キアラはこのままゆっくり休みなよ」

「え?」

「キアラが眠るまで、そばにいて抱きしめてあげるからさ」


 この上なく優しい笑顔には、やましい下心など微塵も感じられない。


 でも。


「……それ、逆に眠れないと思うんだけど……」

「なんで?」

「いや、だってその、かえってドキドキするじゃない……」


 恥ずかしさに目を逸らすと、ルカが艶めいた声でくすりと笑う。


「じゃあ、このまま愛を確かめ合っちゃう?」

「な、なに言ってるのよ、もう……!!」






◇・◇・◇






 翌日。


 グラキエス公爵家の全員に「今日は学園を休んで、ゆっくり過ごすように」と説き伏せられた私は、朝から強制的にまったりさせられていた。


 ルカと一緒に。


 私が学園を休むとなったら、当然のようにルカも休むことになったのだ。


 ルナリア様も公爵様も、昨日の出来事にはひどく心を痛めているらしい。朝食のときにお会いしたら、ルナリア様は「本当に無事でよかった」と言いながら抱きしめてくれた。少し涙目になっていたように思う。


 でもそのあと、わりと真剣な表情になってこう言った。


「ソルバーン伯爵家とメリディウス帝国、先に潰すならどちらがいいかしら?」


 もちろん、後ろにいた公爵様がすかさず「おいおい」とツッコミを入れていたのは言うまでもない。


 午後になると、昨日の一件に関して事情を聞きたいということで、女性の騎士団員と、なぜかベルナルド殿下が公爵邸を訪れた。なんとなく察するものがあって、自然と緊張感が漂う。


「キアラ嬢。昨日の今日で大変申し訳ないのですが、少しお話を聞かせていただけますか?」


 柔らかな物腰の騎士団員が、丁寧な口調で尋ねる。女性を寄越してくれたのは、騎士団なりの気遣いなのだろう。


 私は、昨日自分の身に起こった一部始終を、淡々と説明した。


 話すうちに昨日の恐怖がまたどっと押し寄せてきたけど、二人の男に手首を縛られたとか部屋に放り込まれたとか、挙句の果てには暴行されそうになったと言った途端、ルカが「あいつら、やっぱり八つ裂きにしてやる!」と暴れ出すものだから、全部きれいさっぱり吹き飛んでしまった。


「昨日拘束された三人も、事情聴取でキアラ嬢とほぼ同じことを話していました。男二人のほうは、実は王都の街でも有名な半グレ集団の一員なんです。卑劣で粗暴なうえ、窃盗や恐喝、暴力事件を繰り返す小賢しい悪党でして。あなたの妹、ミリアム嬢は以前からその半グレ集団と面識があったらしく、彼らに今回の拉致監禁の話を持ちかけたようです」


 昨日、ルカが話していた通りだった。


 ミリアムがいつまで経っても貴族令嬢らしからぬ粗野な雰囲気のままだったのは、ああいう人たちとのつながりのせいだったのかもしれない、とぼんやり思う。


「ただ、そのミリアム嬢は拘束されて早々に、『この一件の首謀者はタチアナ殿下よ!』と主張したのです。そのため、王国騎士団だけで捜査を続けるのは難しいだろうという判断になりまして」

「相手は腐っても帝国皇女だからね。国としても、動かざるを得なくなったんだ」


 ベルナルド殿下が険しい顔をしている。いつも胡散くさい笑みを浮かべている人が。珍しい。


「ひとまず、朝から王国騎士団長でもあるファベル侯爵がタチアナ殿下を訪ねて、事情を聞いているよ。今のところ、知らぬ存ぜぬを通しているみたいだけどね」

「あの、ミリアムの処遇はどうなるのでしょうか……?」


 思い余って私が尋ねると、ベルナルド殿下は意外そうな顔つきをした。


「あんなひどい目に遭ったというのに、それでも君は妹のことを心配するのかい? これまでだって、散々邪険に扱われてきたのだろう?」

「それはそうですけど、あんな子でも、一応妹ですし……」


 言い淀む私の頭を、ルカが優しくぽんぽんと撫でてくれる。


「あんな妹でも嫌いになれないところが、キアラの優しさなんだよ。殿下と違ってさ」

「……お前なあ」


 不服そうに眉根を寄せながら、殿下はひとしきり考え込む。


「……タチアナ殿下がどう出るかにもよると思うが」

「はい」

「彼女と街のならず者たちが、拉致の実行犯であることに変わりはない。男二人はこれまでの余罪もあるから北の流刑地に送られることはまず間違いないだろうし、ミリアム嬢にもそれ相応の罰が下されるだろう。恐らく、戒律が厳しい西の修道院に送られるのではないかと考えている」

「西の修道院、ですか……」

「ミリアム嬢はまだ十代半ばだ。今後の教育次第では更生の可能性もあるだろうし、首謀者がタチアナ殿下だったと証明できれば情状酌量の余地もある。帝国皇女から指示されたとあっては、拒むことは難しいからな」

「はい……」

「いずれにしても、ミリアム嬢を後継者にと考えていたソルバーン伯爵家とて無傷ではいられないだろう。君たちの婚約にも、影響がなければいいのだが」


 ベルナルド殿下の予期せぬ不穏な一言は、私とルカを否応なしに不安の渦へと放り込んだ。











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