✦エピローグ1「月面アフタートーク」✦
月面──。
地球が青く浮かぶ、透明ドームの中。
重力はゆるく、空気は甘く、BGMは地球のカフェミュージック。
今夜だけの“打ち上げ”が始まっていた。
「咲ーっ! この“モチ”ってすごい食感ね! ぬるぬるしてて最高!」
「リロ、それ白玉だから。しかも5個目だからね、そろそろ水分取って」
◆ ◆ ◆
「咲様、あの……この服、ちょっと変かしら……?」
エミリナはセーターをそっと胸元で引き寄せながら聞いてきた。
ネットで“デート服”と検索して買ったらしい。タグ、まだついてる。
「ううん、似合ってる。すごく優しい色で、エミリナっぽいよ」
「……ふふっ。それ、嬉しい」
◆ ◆ ◆
「セーラー服の改造案、できたぞ!」
「ノヴァ、今だけは武器を捨ててくれって言ったじゃん! それ肩のとこからミサイル出る仕様だよね!? やめて!」
◆ ◆ ◆
「咲……今日は、時間、戻したくないな」
ナムリは咲の隣に腰を下ろし、静かに言った。
「今が、一番、好きかも」
「……私も、そう思ってる」
◆ ◆ ◆
「咲さん、わたし、今の自分、結構好きです」
クロナが言うその顔は、もう誰かの真似じゃなかった。
小さなクセ毛をそのままに、くしゃっと笑っていた。
「そうだよ。それが一番かわいいんだから」
◆ ◆ ◆
「皆さま、素晴らしい打ち上げです♪」
ヴィヴィがふよふよと浮かびながら、マカロンを手に回っている(手、ないけど)。
「次回の女子会企画、“彼氏って何者?”が人気投票第1位です♪」
「やめて! 一番荒れるやつ!!」
◆ ◆ ◆
咲はそっと月の窓から地球を見つめた。
騒がしくて、違いだらけで、面倒くさいこの星を──少しだけ誇らしく思った。
そして、隣には笑い合う彼女たちがいる。
「……うん、女子会って……やっぱ最高だわ」
今日もどこかで、誰かの心に、小さな“好き”が灯る。
それが宇宙に伝わるなら、それでいい。
月面の夜は静かに、更けていった。