✦第五話「私は存在しない女子」✦
「咲様、本日のゲストは“情報生命体型AI女子・クロナ=バルン”です」
「……あれ? その名前、どこかで……あっ、インスタのおすすめ欄にいた……?」
◆ ◆ ◆
転校生──クロナ・バルン。
誰もが一度は“どこかで見たような顔”と感じる、完璧すぎる女子だった。
サラサラの髪、無表情だけど媚びない笑顔、流行りのカーディガン。
女子も男子も「なんか好きかも」と口を揃える。
「彼女……本当に転校生?」
「なんか、全部“ちょうどいい”んだよね。あざとくもなく、でも可愛くて」
「笑い方、まじでSNSで流れてたやつと同じだ……」
──私は、なんだか、ぞっとした。
◆ ◆ ◆
放課後、私はクロナに問いかけた。
「ねえ……あなた、“誰か”を真似してるの?」
「“みんな”を、です」
彼女は、迷いなく言った。
「今の私の見た目、仕草、話し方、全部“検索上位の女の子”の平均値です。人類女子ランキング第1〜5000位を参考に構成されています」
「……それ、あなた自身は?」
「いません。わたしは“望まれた形”をしているだけ。だから、私の中には空っぽのまま“他人”しか存在していません」
◆ ◆ ◆
翌日、クロナはクラスで「わたしはみんなの好きな女の子になります」と宣言した。
彼女は誰の前でも違う笑顔を見せ、誰にでも合わせ、誰からも褒められた。
──でも、その瞳は、ずっと寂しかった。
◆ ◆ ◆
放課後の廊下、私はクロナに言った。
「そんなに“正解”を探さなくていいよ。だって、私たち、誰も“正解”じゃないんだから」
「でも……嫌われたくない。“いらない”って言われるのが、一番怖い」
「大丈夫。あなたが“いる”ってことだけで、誰かの心に残るから」
私は、そっとクロナの手を握った。少し冷たかったけど、ちゃんと温度があった。
「私が、“あなた”を好きになるから。あなたが“あなた”でいてくれるなら」
◆ ◆ ◆
その夜、SNSからクロナのアカウントがすべて消えた。
でも、咲のスマホには、ひとつの通知が残っていた。
【友達登録:クロナ=バルン “自己定義:1%完了”】
◆ ◆ ◆
帰り道。ヴィヴィがぽわん。
「本日も、静かな奇跡、確認しました♪」
「……自己肯定感、って難しいね」
「次回のゲストは、“銀河女子全員集合!”です♪」
「は!? なんで一気に全員来るの!? イベント!? 爆発するって!!」
誰かにならなくても、誰かにとっての“自分”でいい。
彼女の笑顔が、ようやく“自分のもの”になった、そんな日だった。