✦第四話「時間を巻き戻す失恋」✦
「咲様、本日のゲストは“時間逆行能力を持つ観察者・ナムリ=イェラ”です」
「……もう、名前からして絶対めんどくさい系だよね……」
◆ ◆ ◆
その日、教室の隅に、小さな女の子が座っていた。
髪は銀色、目は淡く光り、制服の袖は少し長い。
「……こんにちは、地球の女子会幹事さん。わたし、ナムリ。咲さんの“初恋”を観にきました」
「……は?」
「時間を少しだけ戻して、あなたの“もしも”を検証させてください。きっと、もっと素敵な未来があるはずだから」
「──ちょ、やめろ、それやっちゃいけないやつ!!」
◆ ◆ ◆
気づいたら、そこは中学の校門前。
懐かしい制服、春の匂い、そして──あの人がいた。
「……うそ、なんで……」
3年前、誰にも言わなかった初恋。
卒業式の日、勇気が出せずに言えなかった“好き”の一言。
「今度こそ言えるよ、咲さん。時間は、味方です」
ナムリが微笑む。咲は震える手で、一歩踏み出した──が、
「……やっぱ、違う」
「……え?」
「戻ったって、今の私は“あのときの私”じゃないんだよ。あの時の痛みとか、後悔とか全部あって、今の私がいるんだもん」
◆ ◆ ◆
二人は静かな夕焼けの中、ベンチに座ってココアを飲む。
「失恋って、なんだろうね」
「うまくいかないことを、諦めること?」
「ううん、私は……“想い続けることを、手放すこと”だと思う」
「……それ、強いね」
「ううん、弱かったから、たくさん泣いたから、今ちょっとだけ強くなっただけ」
ナムリの目に、透明な雫が浮かぶ。
「わたしも、昔、戻りたかった時間があるんだ……でも、もう……やめる」
◆ ◆ ◆
帰り道、ヴィヴィが現れる。
「本日は静かな感情交流でした。失恋も、女子会テーマです♪」
「……今日ばっかりは、ありがとって言ってもいいかな」
「次回のゲストは、“存在しない理想の女子”です♪」
「……ちょっと怖いフレーズ出てきたな……」
忘れられなかった時間は、心の奥にそっと仕舞った。
それが、次へ進む第一歩になると、今日、思えたから。