✦第二話「心が赤くなる日」✦
空が……真っ赤だった。朝なのに。
「咲様、気圧の異常な変化が確認されました。なお、今日のゲストは“感情が空とリンクする精神体”です♪」
「やっぱそういうやつだと思ったわ……!」
◆ ◆ ◆
その日、転校してきた生徒の名前は──
「わたくしは、サイ=エミリナ。星霧第九王国より来ました。貴女たち地球女子の“恋バナ”を学びに参りました」
──見た目は完璧な美少女だった。銀髪、薄紅の瞳、浮いてる(物理的に)。
だが問題はその後だった。
「ではまず、“初恋”とは……何でしょう?」
「いやいきなり!? てか、教室の窓割れてるんだけど!?」
「わたくしの感情が昂ると、大気中の感応粒子が共振しますの。お気になさらず」
「いや気になるわ! めちゃくちゃ気になるわ!!」
◆ ◆ ◆
「中学のとき、隣のクラスにいた先輩が好きだったんだけど……」
「それ、わかる! 私も部活の先輩だった!」
「……ふふ」
教室の窓の外、空が明るくなった。ピンク色だった。
エミリナが感情を“共鳴”している。恋バナで空が染まるって、ロマンチックすぎる……と思ったのも束の間。
「でも、その人、卒業式の日に他の子と一緒に帰ってて……」
――空が、雷鳴を伴って一気に真っ黒になった。
「え、これって、エミリナの“失恋”共鳴……?」
「……ちがいます。これは、咲の感情に、わたくしが共鳴したのです」
「……え?」
「あなたの心が、少しだけ、揺れた気がして……ごめんなさい、気のせいだったら」
「……ちょっとだけ、昔のこと、思い出しただけ」
◆ ◆ ◆
放課後、屋上。
咲は自販機のココアを渡す。受け取ったエミリナの手が、ほんのりあたたかかった。
「恋ってさ、うまくいくことばっかりじゃないよね」
「……はい。でも、こんなにも色彩を変える感情なのですね。わたくし、少し泣いても……いいですか?」
「……泣いていいよ。空も一緒に泣いてくれるし」
雲が、静かに雨を降らせた。
◆ ◆ ◆
帰り道、ヴィヴィがぽわん。
「本日も女子会、大成功♪ 心の天気予報、晴れのち涙、ですね」
「……うまいこと言ったつもりでしょ?」
「次回のゲストは、戦闘民族の女の子です♪」
「うわ、絶対物理的にヤバいやつ来る……」
恋バナで空が赤くなる日。
誰かの気持ちと空がつながった日。
それは、ちょっとだけ、私の“心”を揺らした日。