菜子妃いじめ3
菜子様大変な事に・・・今回は中国ドラマをベースに書いてみました。どうぞお楽しみ下さい。
「一体これはなんでしょう」
女官は箱に添えられた文を牧野に渡した。
そこには「秋月宮妃のご懐妊を祝して安胎薬をお届けします。妃自ら選ばれた漢方薬です」と書かれている。
「漢方薬ですって?」
牧野はその箱をとりあえず菜子に見せる。
箱を開けてみると生薬と思える薬がきちんと分けられて入っていた。
袋にはそれぞれ「当帰芍薬散」「白朮散」「柴苓湯」「小半夏加茯苓湯」と書かれている。
「韓駒宮妃は漢方に詳しい方なのかしら」と菜子は不思議に思った。
「そういう話はちょっと聞いた事ありますわ」
女官歴が長い牧野は、確か宮妃はかの国に憧れを抱いていて、ご結婚前は何度も旅行していたと聞いていた。また東宮妃の父君とも親しく、よくそちら系の講話には出席していたと。
「だから漢方薬に詳しいのかもしれませんわね」
「安胎薬っていうのがあるのね。ありがたいわ」菜子は素直に受け取ったようだ。
でも牧野はしげしげと箱ひっくり返し、また漢方薬の匂いを嗅いで「うーん」とうなった。
「どうしたの?牧野。何が問題なの?」
菜子も少し不安になって恐る恐る聞いてみる。
「よろしいですか。お妃様。市販のサプリなどならともかく、こんな小分けにして名前のシールが貼っているだけの薬なんて信用できませんわ。いえ、してはならないのです」
「そ・・そうなの?」
「そうですとも。これが本当に当帰芍薬散だという証拠がどこにありますの?私達は漢方薬にうといですし、毒を毒とも思わず飲んでしまう危険性もあります」
「小説の読み過ぎでは?」
菜子はくすりと笑った。
牧野愛読のハーレクインロマンスにはそんな話も多々あった。そういうドロドロの恋愛劇や宮廷劇が牧野の趣味であることは誰もが知っている事実だ。
牧野はちょっとむきになって
「そうはおっしゃいますけど、用心して用心しすぎる事はございません」
と言い張る。
「韓駒宮妃のお耳に入ったら・・・疑うようで嫌だわ」
「無論わからないように致しますとも。私の知り合いに漢方に詳しいのがいますから、少し時間を頂きますけど調べさせて下さいまし。お妃様は御礼状の用意を」
牧野は漢方薬の入った箱をつかむとさっさと引っ込んでしまった。
菜子は(そこまでしないといけないのかしら)と思いつつ、(これは宮様には内緒に)と思った。
相変わらず女性雑誌は「幸子様お可哀想」を連呼しており、段々秋月宮家を取り上げる事が少なくなっていく。宮も自分も誹謗中傷などは気にしないスタンスを取っているけど、心の中では傷ついていた。
そうこうするうちに、皇居での食事会に行く日になってしまった。
懐妊当初はつわりもひどくて行けない事があったが、そうそうお休みもしていられない。
食事会といっても公務のようなもので、下手に休むと后宮が気を回して色々想像を逞しくし、さらにおかしな疑いをかけられる恐れもあったので、出来るだけ出席しないといけなかった。
当日、二宮は公務の為遅れて御所入りをする事になった。
すると帝からの言伝で菜子と理子は早く参内して、夕食の頃になったら理子は別室でと言われた。
理子はお行儀もいいし、素直でよい子なのだが大人の話に子供が加わるのはよくないと后宮はお考えらしかった。それとも東宮妃への気遣いか?
ともかく、午後になってから迎えに来た蓮宮と一緒に理子を連れて参内した。
蓮宮は本当に理子が大好きで、理子もまた「ねえね」と懐き、ちょこんと宮の膝の上に座っておしゃべりをしていた。
「子供って本当に可愛いわ」
「あなたもすぐよ」
「そうだといいけど」少し蓮宮は表情が陰る。
「理子ちゃんみたいな可愛い子にはなかなか会えないわよね」と理子に頬ずりしてくれた。
柔らかな空気が広がった。
御所では待ちかねていた帝が両手を広げて理子を抱っこし、すぐに庭に出て行かれた。
「后宮さま。ごきげんよろしゅう」と菜子が言うと后宮はまだよく声が出ないようで、笑って頷いた。
母の言葉を伝えてくれるのは蓮宮でほぼつききりで通訳してくれる。
女官もいるのに・・・・
「お姉さま、お母さまが手話を教わりたいとおっしゃって」
「まあ、そうですの?私でよろしければいつでもお教えします」
「手話って難しいのでしょう?」
「そんな事ないわ」菜子はそれを手話で伝えてみた。
すると后宮も蓮宮も夢中になって菜子の手話を見て、真似してみる。それが何だか見えない会話のようになってひと時楽しかった。
夕刻になり、「東宮様達がおいでになります」と告げられ、菜子と蓮宮は玄関に迎えに出た。
ちょうど東宮の車が車寄せに到着した時、二宮の車も後ろについて3人はほぼ同時にこちらに向かって歩き出していた。
東宮はいつもの薄ら笑いを浮かべ、妃は肌の濃さを象徴するようなピンクのパンツスーツを着ている。
その後ろを二宮が歩いてきた。
「お先に失礼しております」と菜子がいうと東宮は笑って「うん」と答えた。
二人からはまるでスプレーしたかのような香水の匂いが漂っている。
菜子はちょっと顔をしかめてしまった。
「どうかした?」東宮妃は菜子を厳しい目で見つめ
「今、顔をしかめたでしょう?」
「申し訳ございません」菜子は素直に謝った。
食事時に香水を振りかけてくるこの夫婦は一体・・・それは蓮宮も同じようで彼女はずけずけと
「お兄様、もしやお酒を召し上がってるの?」と聞く。
東宮は多少赤い顔をしていたが「違うよ」と否定する。
兄と妹のいつも通りの会話だが、それが東宮妃には癇に障ったらしい。
「失礼ね。何でそんな事をいうの?」
その口の利き方に蓮宮は驚き、慌てた菜子は
「悪気はないのです」とかばったが、その瞬間、東宮妃の肘がバンと菜子の胸を突いた。
「あっ」という間もなく、菜子はバランスを崩して後ろに倒れ(もうダメ)と思った瞬間、誰かに抱き留められて床に倒れるのを免れた。
背が高くて手が大きく、自分をしっかりと抱き留めてくれる・・・二宮だった。
「大丈夫か」真っ青な顔の二宮の心配そうな目。
菜子も心臓がドキドキしてちょっと動けなかった。
「は・・はい。ありがとう・・ございます」
菜子はやっと答えた。怖かったのと助けられた事で顔は真っ赤になったし、ちょっと恥ずかしくてしどろもどろになる。
二宮は一瞬東宮妃を睨みつけたが何も言わなかった。
「みせつけないで下さる?」と東宮妃は無表情のままいうと、さっさと食堂に向かって歩き出していた。それを追いかけるようにして東宮も「大丈夫?」と言いながらも小走りに走っていく。
呆然としたのは蓮宮と二宮と菜子で、蓮宮は
「お姉さま。お腹は大丈夫?侍医を呼びましょうか」と慌てる。
二宮はそれを手で制して菜子を立たせると
「大事にしてはダメだ」と厳しい顔つきで言った。
今のはわざと?それとも・・・・
食堂の方から女官達が数名走って来た。
「秋月宮妃様、転ばれたのですか。どこか打ったりなさったのでしょうか。お医者を」
「よい。騒ぐな」
二宮は言い、何事もなかったように菜子の手を引いて歩き出す。
もはや菜子も怖がっているわけにはいかなかった。
蓮宮が女官達に何か命じて、後を追いかけてくる。
3人が食堂へ行くと、帝が「揃ったね」とおっしゃった。
后宮の顔は多少狼狽していたが、言葉が出ないので黙っている。
上座に座る東宮夫妻は、早くもワインを貰って飲み始めていた。
その前に座った菜子は、今度は強烈な匂いにうっとなってしまった。
さっきも感じたけれど東宮妃はやけに強い香水をつけている。
ムスクの香。それにワインの匂いが重なって目の前の菜子はつわりの時期は過ぎたのに猛烈に気持ち悪くなってきた。
今回も読んで頂きありがとうございます。
菜子様のどんな時も動じない顔が瞬間崩れる・・・こんな事実際にあるわけないんですけどね。
これは小説ですから。
でも匹敵するような意地悪はあっただろうな思います。




