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沈む皇室  作者: 弓張 月


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悲劇のお妃候補4

今回は乙女心とツンデレの感情の差というか。

誰もが一度は経験した事あるんじゃないかな~~という話です。

でもね、初恋は実らないというし。

まして相手が悪かった・・・と思ってくれればいいのですが。

敦子さんのいじらしさをご経験下さい。

「いかがでしたか?」

敦子が帰った後で、梶東宮大夫は恐る恐る東宮に聞いてみた。

敦子は長居する事もなく、食事が終わるとキリのいい所で

「それではそろそろお暇いたします」と言い素晴らしく姿勢のいいお辞儀をして帰った。

様子を見ていた東宮職の面々はみな

「さすがに旧宮家のお姫様」と拍手喝采。

特に新入りの女官などは

「真似しようと思っても出来ないわ」とあこがれの視線を向ける。

まさに「妃」になるべき女性だと誰もが思った。

しかし、東宮はそういう印象は持たなかったようで

「大きくなったよね。敦子ちゃんも。レディだね」と言っただけだった。

「はあ?」

梶は思わずがっかりの声を上げたので東宮は「何?」と聞き返す。

「そんなに敦子ちゃん推しなの?」

「それは。一番は宮様のお気持ちですが。それはおいておいて。東宮妃としての資格は完璧だと私共は思うのですが」

「みんなそう思ってるって事だね」

「まあ・・・でも宮様のお気持ちが一番ですので」

「僕はいいと思うよ。敦子ちゃんならいい子だし」

「え?本当に?あの・・ちなみに次のお約束などされましたか?」

「いや。それは任せるよ。そういうの、うといし」

「かしこまりました」


という事で、東宮の意向はすぐに桃園家に伝えられ、梶達が必死に作り上げたスケジュールに基づいて二度目のデートはクラシックコンサート、3度目はフランス料理のレストランと決められ、桃園家には断る余裕もなかった。

敦子も「優しいお兄様のような東宮様」と思い、恋愛した経験がない女の子らしく、少しはにかみながらもわずかな恋心も芽生えてきている。

何度か会ううちに、紳士的に振舞ってくれる東宮に安心感を覚えたし、音楽や大学での勉強の話など共通の話題が多い事ありがたかった。

時々、蓮宮が同道して兄と敦子の間を取り持ち、話題が途切れないようにしていたし妹にからかわれたりして困っている東宮を見るのも新鮮だった。

このままいけば自分は東宮妃になるのかもしれない。

(勉強は続けられるかしら。秋月宮妃も大学院に通っているとおっしゃっていたし東宮様なら許してくれるのかな)と考えたりした。

これが運命なら受け入れるしかないのかも。

前向きに。お優しい東宮様に全てをゆだねてみるのもいいのかもしれない。


「で、どうするね」と父は娘に聞く。

季節はすでに夏になっていた。

庭のひまわりは大輪の花を咲かせ、外壁に這わせた朝顔やゴーヤの花が涼を運んでくれる。

父の書斎は相変わらずちょっと暗くて威厳しかなかったが、敦子は窓を全開にして風をいれた。

「私、覚悟を決めました。東宮様についていきます」

「・・・・」

父は憂い顔だった。

「本当にいいのかね。断り辛いなら」

「いいえ。そうではありません」

「何でお前が犠牲に」

「犠牲なんて」

「我が家が大宮様の家系だからって、何もお前が自由を奪われる必要はないんだよ。本当に幸せにしてくれる人はいる筈だし」

「そうかもしれないけど。でもあの時よいお返事をしておけばとも思いたくはないの」

敦子は自分が美人でない事は本当によく知っていたし、高校の頃なども友人たちは次々カレシなるものを作っていたけど、敦子だけはそういう話は一切なかった。

どこの文化祭へ顔を出しても一目ぼれしてくれる学生はいなかったし、いつも自分は華のある友人たちの引き立て役のような気がしていた。

それが寂しいというわけではなく、それが運命ではないかと思って来たのだ。

ゆえに、学問に力を入れようと思って今日まで生きてきた。

この4年間というもの、ほとんど化粧っ気がなく、髪も切りっぱなしで服も機能的なものを選んできた。

ただ見苦しくないように、清潔感さえ保っていればそれでいいのだと思って来たのだ。

東宮との婚姻の話は、いうなれば敦子にとって「初めてのモテ期」とでもいうのだろうか。

誰かに必要とされる自分というのがただ嬉しくて仕方なかった。

東宮が東宮でなくても、優しいお兄様だったとしても敦子は嬉しかったし、本当に男子とあまり口を聞いた事もない娘だったからよりきらびやかに目に入ったのではないだろうか。

敦子の輝くほほを見れば父もそれ以上反対は出来なかった。

「わかったよ。では返事をしよう」

父はどうやって皇室にふさわしい嫁入り道具をそろえるか、すでにそちらへ気持ちが向いていた。


公務を終えて帝と后宮がほっと一息ついた時だった。

少し慌てた風に藤原宮内庁長官が「お話が」と取次を求めて来たのだった。

侍従長は「何事」と怒りの顔で長官を迎えた。

「今すぐ帝にお目通りを」

「帝も后宮も今還御されたとこ。何で今頃・・・」

「そんな呑気は話じゃないんです。事は外務省が」

「外務省?」

侍従長はわけのわからない顔で長官を見つめた。

今回も読んで頂きありがとうございます。

東宮の「女性の好み」が変わったのは留学以降と言われています。

それまでは控えめな女性が好きだったのに、突如、派手でくっきりした顔立ちが好きになったり、立場をわきまえず女性を誘ったりと。

恐らく、みんなが持ち上げてくれるので「僕はもてる」と思ったのかもしれませんね。

もっと謙虚でいてくれたらと思うのですが。

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