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沈む皇室  作者: 弓張 月


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キャリアと結婚

今回は少しほのぼのして頂きたいと思って書きました。

結婚後、誕生日か何かの記者会見で殿下が「喧嘩はしますけど・・(横向いて)あなたすぐ謝りますね」

で妃殿下は何と返答していいかわからず戸惑ってるのか若いらしかった。

導火線が短い夫様にはすぐ謝るのか勝ちだったんでしょうか。

でもしっかり煙草とお酒に目を光らせた点は妃殿下偉いです。

即位の大礼を無事にやり遂げた菜子はそれからも忙しい日々を送った。

帝と后宮の神宮への供奉、大嘗祭の供奉、その都度装束を変えてしきたりに則って行われる。

最も若い筆頭宮家は絵になるし、体力もあるというので、それこそ密にスケジュールを組まれ欠席は許される筈もなく、さらに一連の即位行事が終わったあとも、北へ南へとあちこちから公務の依頼が来て目も回る程の忙しさになった。

結婚するときの約束である「勉強を続ける」はどこへやら、菜子はいきなり「妃」の仕事と「学生」の勉強と「主婦」の役割を3つ同時にこなさなければならなくなった。

宮家創設と同時に宮務官には国家公務員のエリートの里中誠一35歳がスケジュール管理をし、侍女長には后宮の采配で牧野佐和子30歳が派遣されて来たが、牧野は他の女官をまとめたり菜子に付き添ったりしなければならない。

筆頭宮家といえども内廷皇族ではない秋月宮家は予算は少なく、出費が多い生活を強いられる。

例えば食材は皇室専用御料牧場のものを定価で購入しなければならず、医療費は10割、地方へ行く交通費も宮家持ちになるので、公務が増えれば増えるほどに赤字になっていく。

元々宮家はあくまで皇位継承者のスペアが役割だから、秋月宮のように公務が殺到するなどという事はない筈だったのだが。

韓駒宮家などは、様々な所に名前を貸し、テープカットで一定の謝礼を受け取っていたが、こちらはそうはいかない。というか、そんな事二人とも思いつかない程真面目だった。

何とか大学院に通う時間を確保しようとしたが公務と宮家の采配の間で集中する事は難しい。

公務に出る時は宮と自分の支度を同時にこなす。牧野の助けであれこれ決めてやっと出発にこぎつけるのだが、それでも生来がのんびりや菜子は一度だけ出発の時間に5分程遅れてしまった。

時間にうるさい二宮は「何をしている!」と怒り始めた。

「も・・申し訳ありません」菜子は急いで帽子を被り一緒に車に乗り込む。

「私達が5分遅れれば相手も5分待たされる。どんな公務も警備や迎える人は分刻みで動いている。だから絶対に私達は遅れてはいけない。遅れても早すぎてもダメなんだ」

こんこんと叱られて菜子は素直に「申し訳ありません」と平謝りしたが、この時ばかりは「たった5分」にそこまで怒るかと宮を恨んだりした。

それでも表面上は夫婦円満な顔をしなければならず、にこやかに笑うものの、夜まで悔しさや罪悪感をひきずった。

食事もそこそこにして席を立とうとすると、宮がけろっとした顔で

「もう食べないの?」と聞く。

「はい」と言ってからはっと気づく。せっかく大膳が作った食事を無駄にしてしまう。

「ちょっと食欲が」

「じゃあ、片づけて」

宮は何でもないように侍女に皿を片付けさせると、自分にはウイスキーと煙草を用意させ、菜子の目の前でロックで酒を飲み、たばこをふかし始めた。

(宮様ったら・・・わざと?)

煙が来るのに耐えつつ菜子は半ば睨みつけるように宮を見る。

宮は「メコンは一番うまいな。菜子も飲む?」

「結構です」

「うまいのに」

菜子はずっと黙ったまま宮を見つめていた。

宮はなんてことない顔でたばこをふかす。

とうとうたまらなくなった菜子はいきなり立ち上がると、宮のグラスと煙草を取り上げた。

「何をするんだよ」

「宮様は不整脈持ちですから、お酒もたばこもダメって申し上げました!どうして聞いて下さらないの?

私は宮様のお体を心配して」

「毎日じゃないだろ」

「月1でもダメです。こんなきついお酒をロックなんて。飲むなら・・・飲むなら・・・梅酒にして下さい!たばこもライトのライトにして下さい」

宮はそれを聞くといきなり大笑いし始めた。

「どこから梅酒が出て来たの」

「私が梅酒作ります。に・・庭に梅の木植えて・・」

「実がなる木か。いい考えだね。かりんはどう?」

「かりん・・・」

菜子はかりんを思い浮かべた。かりん酒という手もあるか。

宮は菜子をベランダに連れ出して

「あの池の向こうに木を植えるかい?」

「ええ。素敵。それからバラも育てたいしこれからはシクラメンも」

「いいよ。どんどん花盛りの庭にしてくれて」

「え?いいのですか?」

「僕らの家だから当然。女主人のお心のままに」

「嬉しい」

菜子はすっかり気分がよくなって夜のしじまに浮かぶ何もない庭を見つめた。

想像の扉が開いていくような気がした。そう思うとお腹がくう・・と音を立てた。

「あ・・あの、これはですね」

「お腹がすいたままでは眠れないよ。ここは牢獄じゃないんだからどんどん食べればいいさ」

「すみません」

宮は菜子の手をぎゅっと握って「ディナーやりなおし」と言った。

さっきまでの恨みはどこへやら、菜子はもう絶対に時間に遅れないぞと決心し、梅酒の作り方を習わなくちゃとも思って居た。


週に一度は仮御所に伺って帝に后宮、東宮に蓮宮と家族そろって夕食を共にする。

その時は、侍従や女官が給仕をしてくれるものの、嫁として菜子もとりわけをしたり、お茶のお代わりをついだりと、常に目を四方に配り一瞬も気が抜けない。

后宮は気が利かない人が一番嫌いなのだ。

宮殿でも飾る花一つに意味を見出す方なので、家族や来客の時は、女官達は食器からテーブルのしつらえまで完璧に后宮の好みにしなければならず、間違えるとひどく叱責れた。

なので菜子も、秋月宮妃として常に背筋を伸ばし、食べ過ぎず小食にならずといった加減を覚えなくてはならなかった。

少しでも小食であると「あら、口に合わなかった?」と聞かれ、少し食べ過ぎると「若い人は元気でいいわね」と素直に聞けばなんともならないけど、あとで「あのような姿を職員に見せてはいけない」と叱られてしまうのだ。

それをすぐにかばってくれるのが蓮宮で

「お茶の時のケーキがまだお腹の中なのよ」

「あら、あなた達、おやつを?」

「そう。ねえお姉さま」

「菜子ちゃんは誰と結婚したのかしらね」と后宮が笑う。

毎回そんな感じだった。

頑張っているつもりでも冬を迎えるころにはすっかり疲れ果ててしまった菜子は、それでも年末年始の行事には出席しなくてはならなかった。

即位後初、結婚して初の新年祝賀の儀である。

可愛らしい菜子がローブデコルテにティアラをつけて挨拶を受ける。

初めて経験する一般参賀の人の多さと言ったら!

蓮宮が冗談を言ってくれなかったらカチカチに凍り付いてしまっただろう。

さらにその年は北国で冬の国体が行われ、秋月宮夫妻は野外での観戦をヤギ亡くされた。あいにくの吹雪で先がよく見えない。

二人とも表情を変えずにしっかりと座って観戦していたが、雪が散々菜子の帽子に降り積もり、宮のコートも白くなるほどで、しかも時折来る突風がすさまじく、夫妻はすっかり冷え切ってしまった。

しかし、それを顔に出すわけにはいかない。

何とか観戦を終え感想も述べてホテルに帰ったのだが、菜子はすっかり体がだるくなって動けなくなってしまった。

「妃殿下」

菜子の異常を察した牧野が駆けつけてぬれたコートや帽子を脱がしてくれた。

「本当にひどい吹雪でございましたね。信じられません」

「あなたも大変だったでしょう」

「いいえ、私達は人が並んでいる中にいましたからそれ程でもなかったんですけど」

「何だかとても眠いの。どうしましょう。これからレセプションなのに」

「欠席なさいますか?」

「それはダメよ。着替えを持ってきて」

菜子はパシパシと自分の頬っぺたをたたいた。

宮夫妻を歓迎してくれた主催者側が精一杯のもてなしをしてくれるので欠席は許されない。

グラスを持って一人ひとりに挨拶しながら、宮も菜子も会話にいとまがなかった。

そのうちに眠気も覚めて、菜子はいつも通りにこやかに接し、最後の記念撮影までやり遂げた。


けれど、宮邸まで帰って来ると気が緩んだのかまた眠気に襲われる。

体もだるいし。

「妃殿下。宮内庁病院へ診察の予約を入れましょう」

牧野が真剣な顔で言うので菜子はどきっとして「どうして」と言ってしまった。

「こんな事申し上げるのもなんですけど」

「え」

「もしやと思いまして」


牧野の予感はあたった。2月。秋月宮妃の懐妊が発表されたのだった。


お読み頂きありがとうございます。

こんなほのぼのした皇室はすでに消えていますが、そんな時代もあったよねという思いで書きました。

さあ、東宮の方はどうなんでしょうか?次回をお楽しみに。

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