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沈む皇室  作者: 弓張 月


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30/30

即位の大礼

お正月休みを頂き、また再開させて頂きます。

仕事上、少し遅れる事もございますが、何卒ご容赦下さい。

本年もよろしく「沈む皇室」をお願いいたします。

その日は朝からからりと晴れ渡り、11月にも関わらず風が吹く事もなく、穏やかな日射しが降り注いていた。

前日より続々と入国してきた外国の賓客はここ一番という民族衣装やドレス、モーニングに身を包み宮殿に入る。

外国の戴冠式は教会で行われ、列席者は前から格の高い順に椅子に座り、新しい王や王妃を間近で見る事が出来る。

しかし、我が国の場合はそもそも「即位の大礼」そのものが秘儀の一つとしてあり、かように公開するべきものではない。先帝の即位の礼も海外からの賓客はこなかったし、儀式そのものもかつての都で行われたもの。

今回は戦後初めての「即位の礼」という事で「政教分離」の観点からどこからどこまでが国家行事で、どこからどこまでが皇室の私的行事なのかという事が議論された。

結局、「即位正殿の儀」「即位後朝見の儀」「祝賀御列の儀」「饗宴の儀」までが国家行事とされ、またその日は国民の祝日となった。

賓客達は宮殿横に据えられた椅子に座り、横から即位の礼を見る事になる。

正殿の前庭には、「萬歳」ばんと呼ばれる旗が2本はためいている。この「萬歳」の文字は総理大臣が書いた文字を刺繍したもの。

その時の総理にとっては大変な名誉である。

その脇に金糸で太陽を模した赤地錦のばんと銀糸で月を模した白地錦の旛、さらに菊の花が描かれた旛に5色(青、黄。赤、白、紫)の旛はためく。

それを守るのは、総勢78人もの装束姿の男子。

武官を表現する「威儀いぎの者」は帯剣し弓矢を持っている。

反対側には文官を意味する装束姿の男子が並び、太刀や鉾などを持っている。

それだけでも壮大なスケールの景色で、旛がくり出す色とりどりの光と、見た事もない雅な赤や黒の抱に鮮やかな鎧を身に着けた装束姿、そして後ろに立てている弓矢の華やかさに誰もが目を奪われる。

前回の斂葬の儀でも、大雪が降る中の儀式に賓客達はそのあまりにも幻想的な世界にめまいを覚えたろうが、今回は目に染みるほどの色鮮やかさである。


やがて、静かに静かに皇族方が正殿に入ってくる。

天皇が立つ予定の「高御座」皇后が立つ予定の「御調台」が正殿の中央に据えられ、向かって左側の高御座の側に、「黄丹の抱」を身に着けた東宮、それから黒の装束を身に着けた秋月宮、雲井宮、春日宮、淳仁親王、韓駒の宮と続く。反対側には、筆頭宮家秋月宮妃菜子、蓮宮、雲井宮妃、大瑠璃宮妃、高砂宮妃、春日宮妃、淳仁親王妃、韓駒宮妃が並ぶ。

それぞれみな、唐衣は紫亀甲地白雲鶴丸、つまり紫地にめでたい亀甲紋がついた唐衣、そしてその下の表着は紅入子菱地白かに八葉菊、つまり赤地に八重菊が入ったもの、それぞれ裏もまた色が重なっている。打着は紫無文綾、五衣は萌黄松立涌、表だけ見れば紫に赤が重なっているだけのように見えるが、こっそり見える裏地は黄緑だったり海老茶だったり、白だったり、様々な色が重なって見え、賓客達はその美しさに目を見張った。

おすべらかしに赤袴、紫の唐衣の菜子妃は、生まれた時から十二単で暮らして来たのかと思う程にすいすいと歩き、そして品格を称えた表情を見せ、みな気が引き締まる。

その後ろから侍従職や女官職がらそれぞれの装束を着て現れると、そこはもう平安の都のようで、みなタイムスリップしてしまったのかと錯覚する程だった。

全員が揃うと、するすると高御座と御調台の幕が上がり帝と后宮が姿を現す。

帝が着ているのは黄櫨染(こうろぜん)御袍で、平安初期に編み出された染法で太陽を表現する。

しかし、応仁の乱の後100年もの間技術は途絶え、復活するのに大変苦労したとされる。

帝しか着る事の出来ない装束である。

東宮が着ている「黄丹の袍」も太陽が出る様を表している赤地の装束である。

后宮は薄紫の唐衣に表着にはお印が模様として取り入れられていた。

紫や白は格式が高く、特に純白は后宮しか着る事の出来ない色。

お二人がそれぞれの場についた所が儀式のクライマックスで帝はそこで告文を読まれた。

「さきに、典範の定めるところによって皇位を継承しましたが、ここに即位礼正殿の儀を行い、即位を内外に宣明いたします。

このときに当り、改めて、先帝の六十余年にわたる御在位の間、いかなるときも、国民と苦楽を共にされた御心を心として、常に国民の幸福を願いつつ、憲法を遵守し、象徴としてのつとめを果たすことを誓い、国民の叡智とたゆみない努力によって、我が国が一層の発展を遂げ、国際社会の友好と平和、人類の福祉と繁栄に寄与することを切に希望いたします」

総理大臣が進み出る。

「謹んで申し上げます。帝におかれましては、本日ここにめでたく即位礼正殿の儀を挙行され、即位を内外に宣明されました。一同こぞって心からお慶び申し上げます」と答える。

帝万歳三唱。

これで儀式そのものが終わった。

帝、后宮に続いて東宮や秋月宮らが退場していく。

テレビカメラがそれぞれを真正面からとらえる。平安絵巻そのものだった。


それから100か国を超える要人達を迎える饗宴の儀が始まり、夕方からは「祝賀御列の儀」が始まった。

帝は勲章をつけ、后宮はケープがついたローブデコルテに后宮に代々受け継がれて来たティアラとネックレスなどをつけ、オープンカーに乗ってパレードした。

その華やかな様はまさに近代のシンデレラストーリーのようだった。

あれ程に「商家の娘」と言われ、皇族方からも孤立し独自路線を歩んできた后宮が今、ここに国家の「母」となった瞬間だ。

身分も血統もなく、ただ学歴と美貌を武器に戦って来た后宮の勝利の瞬間は即位の礼よりもこのパレードで実感した。

なぜなら30年も昔、「民間から初の東宮妃」となって馬車行列したあの日が蘇って来たからだ。

女性として最高の地位に后宮はついたのだった。


華やかな即位の礼の模様を十分に写しだされたかどうかわかりませんが、ブログでこの模様を写真で追っていきたいと思います。

その日は国民の祝日とされたのですが、実は「祝日」ではなく、単なる休みだったんだそうです。

しかし令和ではきっちりと「祝日」扱いされてました。

時代によってこんなに違うものかなと。

こんな華やかな即位の礼を見て怒るどこかの家もありそうですよね。

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