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沈む皇室  作者: 弓張 月


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29/30

すれ違い

昭和が終わって平成の即位の礼は華やかでしたね。

ダイアナ妃が着て日本人はまたとても嬉しかったし。

令和のように嵐が来たわけでもなく、晴れ渡った空に初めて見る古式ゆかしい装束の列は大いに外国人たちの目も楽しませたようです。

誰もがその後、不景気が来るとは思わなかったし、いい時代がくると思って居たんでしょう。

後から思えば「そうか」と思う事も、そのさなかにいると気づかないものですね。

テレビの中では留学中の幸子がマスコミ相手に大声を出して怒っているではないか。

「私は東宮様とは関係ございません!」

哲也はあっけにとられて画面を見つめた。

マスコミのマイクが何本も差し向けられる娘の顔は完全に怒っていて唇が歪んでいる。

「東宮様はまたこちらの方にこられるようですが」

「関係ございません」

「お妃候補と言われていますが」

「私は留学しているんです。研修生として来ているので東宮様とは関係ありません」

「何度か東宮様とお会いになった事があるようですが印象は」

「お答えしません。とにかく!私はこれからもここで勉強してまいりますので失礼します」

幸子は最後は「ふん!」と髪を振って、知らん顔でさっさと構内に入っていった。

一体なんだろう。

幸子は不思議で仕方なかった。

外務省に入って国費留学生としてこの国に来て、今は修士論文を書くために一生懸命に勉強しなくてはならない時期。

それというのも、国費留学生は合わせて6人いるのだが、他の人達は結構余裕なのに幸子だけがあたふたとしているから。

原因は言葉だ。こんなにも難しいとは。

講義の言葉がさっぱり聞き取れないのだ。

このままではどうしようもなくなる。幸子は内心焦っていた。


そんな時に父から電話が来た。

「お前は何でマスコミの前であんな態度をしたんだ」

いきなり叱られて幸子は何が何だかわからない。

「だって私東宮妃にならないから」

「ならないとは限らん!いやなる。してみせる」

「何で?私、あの人好きじゃないもの。背は低いし話は面白くないし」

「もはやお前の好き嫌いで決められる事ではない。大学の時は男遊びも認めて来たがこれからはそうはいかん。お前はきちんと学業を終了し帰国したらもう一度お妃候補になるのだ」

「どうして」

「どうして?お前に他になれるものがあるのか?」

「外交官になるもの」

「馬鹿な事をいうな。お前が実力で外務省に入れたと思って居るのか?え?私のお陰だろ。国費留学生にしてやったのも箔付けにすぎん。そんな事もわからず実力だと思って居たのか」

この父の言葉にはさすがの幸子も大きく傷ついた。

見知らぬ外国に来て、理解出来ない言葉をさもわかというような顔をして毎日授業を受けている。

自分なりに努力しているのに、どうしてそこまで言われなくちゃいけないのか。

父は本当はもっと勉強が出来る子供が欲しかったに違いない。

それは何となくわかっていた。

父がほめるのは成績がいい時だけで、何かトラブルを起こすとすぐに渋い顔をして舌打ちをする。

双子の妹達は大人しい性格もあり、集団生活では何も起きなかったけど幸子はどういうわけか、昔から部活などでトラブルを起こす。

高校の時は聖壇のホスチアを盗み食いしたり、クラスメートのスカートめくりに興じたり、「ねず母さん」というへんてこなあだ名をつけて読んで嫌われたり。

そういう行動が続いたので結局高校を続けられず、父の赴任先に留学となった。

姉妹は3人とも父に褒められたいばかりに勉強を続け学歴を重ねているけど、親子で旅行に行ったり語らったりとの思い出はなかった。


だからあの拾宮と初めて会った時も、珍しく父が自分を誘ってくれたのだと単純に嬉しかったのだが、まさかそこに裏の考えがあったなんて。

「少しは親のいう事を聞いてやろうとはおもわんのか?ここまで大きくしてやって留学もさせてやって、親の為に何かしようとはおもわんのか?」

幸子は黙ってしまった。

今まで散々勉強ばかりさせられて・・・幸子の頭の中からは高い学費を払って貰ったとか、外国にスキー旅行に行ったり、相当な贅沢をさせて貰ったという考えは欠落している。

親が子供の面倒を見るのは当然で、むしろ親の期待に応えようと頑張って来た自分を何で認めてくれないのか。

東宮妃?結婚なんてする気ないし、家庭なんて持つ気にもならない。

それでも父は

「いいか?これからは私の言う通りに動けよ」と釘を刺した。


幸子はこの電話ですっかり勉強への意欲が消えてしまった。

結局、修士論文も出来ずに帰国する事になってしまったのだった。


一方、東宮は秋月宮家の創設により、一時的には妃問題が棚上げされたように見えたが、奥底では静かに進行していた。

「和田幸子さんをもう一度」

と願う東宮の気持ちを察し、宮内庁も一度は和田幸子の身上調査を始めたのだが、どういうわけか戸籍を辿っても4代前がわからない。

しかも、本籍地にいる和田家の本家から「無関係です」と言われる始末。

海に近い場所である事から、今から100年くらい前には、海を渡って異国人が何人も流れ着き、消えた戸籍の人物になりすます「背乗り」という事が度々あったという。

そういう一族であるなら我が国の人間ではないのでは?

母方の江田喜一の方は、軍人として名をなした人物もいるようだが、どうも・・・

そんな事をしていると、突然宮内庁に脅迫状が届いた。

長官はじめ、侍従長もみなびっくりして警察に届けたが、この団体があまりにも怪しい団体でしかも要求しているのは「和田幸子の出自を調べる事は憲法違反である。これを取りやめないとお前たちに危害を加える」と言ったもの。

どうして、このような怪しい団体から脅迫状が来るのか?

「これはちょっとやめときましょうよ」

四条宮内庁長官は各部に報告し、以後、幸子の調査はしないことになった。


そのことを帝に報告すると

「それはひどいね」と帝はおっしゃった。

「外務省たたき上げの人物の家でございますから一筋縄ではございませんし、和田哲也という人は外務省では「閣下」と呼ばれて大層な権力を持っております。あまりにも政治に近すぎる家の女性は東宮妃としてふさわしいとは思えません」

后宮も「そうね。あの女性は皇室になじめると思えないわ。でもそのまま東宮には伝えないで頂戴。

即位の礼を控えているのですから」

という事で、脅迫事項があった事は東宮には知らされなかった。

相変わらず東宮は、写真を見てはため息をつく毎日。

ついに旧皇族も視野にしれないといけないという所まできていた。

東宮はいつもは味方になってくれる筈の母が今回は沈黙をしている事が不思議でならなかった。

今まではなんでも母に言えば叶えて貰えたのに。

しかし、即位の礼を控えて帝も后宮も忙しさがピークになりつつあるし、東宮もその後の立太子の礼を控えて、真面目に結婚の事まで考えている暇はなかった。

しかし、さすがにテレビで幸子が「関係ありません」と言った時は、東宮はショックのあまり、食事が喉を通らなくなって自室に何日も引きこもるし、帝も后宮もこんなにはっきり言われては、こちらから願い下げと心底お怒りを心にためていた。


その后宮のお怒りの矛先が菜子妃に向かっているとは誰が考えただろう。

即位の礼の為に菜子は、仮御所に通って女官などから礼儀作法や話し方などを一生懸命に学んでいた。

式部官が「よろしいでしょう」と言っても后宮はそれをよしとせず

「なぜあなたはそんなにお出来にならないのかしらね」とため息をついて見せた。

菜子は叱られている事はわかるので、ひたすら頭を下げ「申し訳ございません。努力致します」とぴうのだか、

「お育ちのせいかしら」と女官達の前で言われた時は思わず泣きそうになった。

「手の形がよろしくないの。足の向きもそうよ。お辞儀の仕方もどうかと思うわ。言葉遣いもね」

后宮は次々ダメ出しをしていき、それを必死にメモを取る菜子は負けず嫌いの性格も相まってまるでバトル状態のように見える。

「后宮様もあそこまでおっしゃる事ないのに。よくお出来になっているわ」

「気に入らないのよ。二宮様のお妃だから」

「后宮様は今回の秋月宮様の結婚ですっかり東宮の体面を傷つけられたとお考えになっているのよ」

「可哀想に・・・」

菜子は必死に后宮に「よろしいわ」と言われる為に足の爪を割る程歩き方の練習をした。

さすがの宮も菜子の落ち込み方が激しいので后宮に抗議したが

「私がやっている事が余計というならやめますよ」と言われて圧倒されてしまった。

帝が「まあ、菜子はまだ皇室に入ってまもないのだから」とおっしゃってその場は終わったが、后宮は

私が入内した時は今以上に厳しくされたのですよ」と言い募る。

帝が手で(部屋を出て)とおっしゃっていたので、宮は一礼して部屋を出た。


結婚以来あまりに忙しく、地方を歩いてきたので秋の風が吹いている事も忘れていた。

窓から見える菜子は真一文字に唇をきゅっと結び、お辞儀の仕方や握手の角度などを練習している。

后宮は悪い人ではないのに。

「ただいま」というと、菜子が玄関に走って来た。足の傷が痛々しい。

「そんなに練習しなくてもいいよ。少し休んだら」

「はい」と言ったまま菜子の瞳からぽろぽろと涙がこぼれている。

宮は菜子を抱きしめた。宮務官も侍女も見えないふりをしていたが内心は気の毒でたまらなかった。

今回も読んで頂きありがとうございます。

親と子ですれ違いの感情がある事を描いたつもりですが、和田家はいいとして后宮は何だったんでしょうね。結婚直後に「皇后さま手袋の領収書にため息」とかいうのが女性週刊誌に載って、え?と思った気がします。

要は何でも皇室の金を頼って来た妃にがっくりしているというような内容でした。

本当にそうだったとは思わないのですが、ローブ・デコルテには長手袋は必須ですし、仕立てた代金にも手袋は含まれていたろうと。

もう悪口かあと思った気がします。

そして「手袋」なんですよね・・・・

何でも自分が一番でないと許せない后宮と何もしらない20代の嫁。勝負はついていますよね。

この先、何があることやらと思います。

年末はお休みをいただきます。

次の更新は1月の第二週あたりと思って居るのでよろしくお願いします。

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