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沈む皇室  作者: 弓張 月


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華燭の典2

最近になってこの当時の事がネットでも書かれるようになり、ちょっと資料が出て来たようでうれしくなります。やっぱり35年を経て再認識すべき事が多々あるのかなと思って居ます。

当時生まれていなかった人にもわかるようにとは思って書いているのですが、伝わったら幸いです。

さわやかな菜子の水玉ワンピースが画面に映るなり、哲也は怒りのあまりテーブルの上の灰皿を窓に向かって投げつけた。

灰皿はごろんと窓にあたらず転がった。

安子が驚いて「いきなりなあに?危ないでしょう?これ、ガラス製なのよ」という。

そしてテレビを見て「この子が栂宮様のお妃になるの。可愛い子ね」と無邪気に言った。

すると哲也は顔から火でも噴き出すのか?とでもいうように「馬鹿いうな!」と怒鳴った。

「何が学者の娘だ。何が修学院育ちだ。学生結婚?ふざけるなよ。うちの娘はあっさりと東宮妃候補から外しておいてこの娘はいいというのか!」

「だって東宮様と二番目じゃ格が違うじゃない?」

安子は恐る恐る言い返す。

「それに幸子も乗り気じゃないし。あの子はあなたの跡を継いで外交官になるのが夢なのよ」

「ありえん!幸子に外交官が務まるとでも?」

「あら、あんまりじゃない?幸子は成績優秀で外務省に入ったのよ」

「まさか、それを自分が頭がいいからとか思ってないだろうな」

「え?違うの?」

違うも何も・・・そもそも大学だって自分のコネで入れたし、卒論の仕上げだって人を雇ったし、幸子は哲也からしたら手がかかる娘でしかない。

男子が欲しかった。大和田家の跡取りが。

しかし生まれたのは女ばかり。

幸子は長女だし、双子の妹達よりは多少見た目がいいから使えると思ったのに。

なのに。なんだ?この敗北感。

画面の中の娘ははにかんだように目を伏せている。

ただそれだけなのに、画面一杯に広がる幸福感のオーラはなんだ?

哲也はテレビを消したが、マスコミはそこからどんどん過熱していく。

次の日にはテレビ局の取材によって、修学院の学友達が祝福を述べた映像を流す。

「サークルの中では菜子ちゃんは大人しくて目立たない、でもすごくいい娘です」

「二宮様の方が津島さんを好きでイケイケだったかな。東宮御所でテニスした時も「ドライブいかない?」と津島さんを誘って二人だけで一回りしてきて、「なんていい娘なんだろう」って言ってました。

だから僕らも冷やかしたりして」

「菜子ちゃんは上品でお勉強が好きです」

見たくないのにテレビをつければこの話題だ。

修学院なんて大した偏差値でもないし、ただ金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんしか行かないような学校だ。

こののんびりとした学生達のコメントもしゃくに触る。

それが嘘でもなんでもなく、本当の事に見えたからよけいに。


哲也はいわれのない怒りと、そして罪悪感に震えた。

なぜそう感じる?何のせいで?

知っている。

それは「育ち」が違う事をまざまざと見せつけられているからだ。

津島菜子のあの品のいい雰囲気は出そうと思って出せるものではない。

生まれた時から持っているおっとり感。そして心の余裕。

教員宿舎に住んでいながら、服装だって普通だ。それなのに漂う気品。

それはあの父親もそうだ。同世代だというのにどうして飄々として凛として、娘が皇族の妃になるというのに慌てるでもなく自慢するでもなく、ただ粛々と運命を受け入れる姿勢。

こういう雰囲気を持つ者が大嫌いな哲也は歯嚙みする思いである。

(どうしたらいい?どうしたらこの娘を潰せるのか?)

最も傷ついて倒れるほどに苛め抜いて、泣きながら許しを請う姿を見てみたい。

哲也は職場でも家でも、とにかく機嫌が悪いので家族ですら近寄れなくなった。


9月になり、いよいよ皇室会議が始まった。

皇室会議とは皇族や宮内庁や政府から選出された議員が、皇族の結婚や臣籍降下の可否を問う為の会議。

栂宮の妃になる津島菜子については全員一致で賛成した。

その日、菜子は濃紺のワンピースに大きな紺のリボンをして、そして白い手袋をはめていた。

菜子に似合うプリンセスラインのワンピースは母の友人の手作り品だった。

先帝の喪明けが済んでいないという事から、津島家は地味な恰好で参内し菜子も濃紺を着る事になったのだが、その地味さが却って菜子の可愛らしさを引き立てた。

仮御所に入り、宮内庁職員の案内で帝と后宮の前に立った津島家面々は

「おめでとう」とおっしゃった帝に深々と頭を下げた。

「ふつつかなる娘ではございますがよろしくご指導のほどを」

父が頭を下げながらいうと、帝はにっこり笑い

「気難しい二宮の心を射止めるとは大したお嬢さんだね」とおっしゃった。

なので津島家は顔から火が出る思いで顔を伏せる。

「結婚費用の事はあまり心配せず、宮内庁に任せてしっかりと整えてやって」

后宮も微笑んでそうおっしゃったが、内心は(まともに支度などできまい)と思って居らっしゃる。

何も言わないけど父も母も何となく后宮の心を読み取り

「何もかも初めての事でございまして、ご指導を頂ければ幸いでございます」とさらに頭を下げる。

后宮は納得したように「心配はいらなくてよ」とほほ笑んだ。


そして部屋を出ると、菜子以外は別室に移され、菜子は記者会見場に向かった。

丁度二宮も記者会見の部屋に到着したらしく、嬉しそうに菜子の手を取った。

「大丈夫。落ち着いて」

時間が来て、二人は初々しい雰囲気そのままに記者会見場に入った。

その瞬間。

国中が菜子に恋をした。



今回も読んで頂きありがとうございます。

今思い出しても、この当時、将来東宮妃になる人に関しては気にもしてなかったですね。

という程、毎日がブーム状態で非常に幸せな思いをさせて頂きました。

皇室を見続けて、ダイアナ妃に勝った!みたいな印象でした。

後の苦労など思いもせずに。

世の中には本当に陰謀が好きな人もいるのだと今になって思います。

今後ともよろしくお願いします。

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