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沈む皇室  作者: 弓張 月


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24/30

留学と結婚 5

申し訳ありません。

前回の章の後半をすっかり書き換えていますので、もう一度読んで頂けると幸いです。

時系列がなかなかわからなくて、最近になって、年代がわかったりしてどうしても修正する必要がありました。

「ドス子の事件簿」が消えてから本当に困ってしまいます。

どうぞよろしくお願いします。

「皇位は一日も空けてはいけない」の言葉通り帝の崩御の後、すぐに東宮は即位し拾宮は「東宮」になった。

その喪中に、週刊誌は「スクープ」として「栂宮様のお相手発見!」と見出しをうち、大々的に津島菜子の写真を載せた。

それは単独のものではなく、サークル仲間や二宮と一緒に写っている写真だったが、二人が見つめあっているような写真もあり、宮内庁も津島家も驚きのあまり言葉を失った。

特に津島家は職員官舎の周りをマスコミがウロウロし始め、津島家は行動に注意せざるを得なかった。

「どうしましょう」と母は怖がり、父は「大丈夫」と言うが、そもそも世間ずれしていない津島家はこういう時に本当に弱く、ただ毎日のスケジュールをこなすだけで精一杯だった。

マスコミに抗議をする事も否定する事もしない。

津島家の家訓は「オールウェイズスマイル」で何がどうあっても優しい微笑で乗り切れというもの。

「一度抗議をしたらさらに抗議を重ねなくてはならないから何も語らず」

などという仙人のような父のおかげで菜子は無防備なまま、その姿を知らないうちにカメラに収められていた。

とはいっても、週刊誌の見出しは一時は亡き帝の記事が埋め尽くしていたが、それに飽きると后宮の「慈愛」「微笑の皇室外交」を取り上げ、さらに拾宮のお妃候補がまだ決まらない事にああでもない、こうでもないと書きつられている。

いつのまにか候補から落ちたはずの「大和田幸子」が「奇跡の復活」を成し遂げ、今や拾宮の妃候補の最先端であると書く雑誌もあった。


行動に出たのは二宮である。

第一の喪から3か月後、二宮は思い切って

「今年中に婚約をしたいのです」と家族に打ち明けた。

帝は驚き「急ぐね」とおっしゃった。

后宮は「まだ喪中ですよ。それに東宮の結婚も決まってないわ。あなたは2年後って言ったでしょう」

と珍しく語気を強めておっしゃった。

東宮は結婚が決まっておらず、悠長に「30歳までに決まれば」と誕生日会見で言ったりして、のらりくらりを決め込んでいた。

ここまで妃が決まらない事態が異常なのだという認識はひとかけらもないようだった。

蓮宮は「菜子さんと婚約?素敵」とこれまた兄を応援してなのか、嬉しそうに言ったので后宮は睨みつける。

「栂宮。長幼の序を説かないとダメなようね。結婚は兄が先にすべきなの。絶対にそうなのよ。弟が先に結婚なんて世間の常識から外れるし、皇族がそれをやってはいけないのよ」

「けれど、お兄様はいまだ婚約の気配もないではありませんか」

それをいわれると東宮は薄笑いして席を立とうとした。

「東宮はここにいなさい」

と帝がたしなめる。しょうがないので東宮は針の筵状態のまま座っている。

「どうしてそんなに早く婚約したいのだね」

穏やかに帝は聞かれた。

「はい。実は菜子さんの家にマスコミが押し掛けているそうなのです。このままでは回りに迷惑をかけますし、彼女の名誉を棄損される恐れがあります。そうなる前に僕の婚約者として決めておきたいのです」

「なるほど。留学はどうするのかね」

「婚約が調い次第、戻ります。結婚式は来年で構いません。お願いです。そうでないと安心して留学できません」

二宮の決意はかなり堅そうだった。

「そうはいっても、津島家はそれほどの家柄ではないでしょう?大学教授の家で官舎住まいなのよ」

后宮も負けてはいない。

「皇族に嫁ぐというのはお金がかかるのよ」

「津島家はもとは紀州の名家ですよ。教授の母上は戊辰戦争の時の白虎隊の生き残りです」

「それはわかるけど。皇室とはかけ離れていませんか?大瑠璃宮妃はまさにあそこの藩主のお家柄。でも当時は宮様との家柄の差を言われて爵位のある伯父上の養女となって嫁がれたのよ」

「今は時代が違います。それに家柄よりも人柄ではないのですか?お父様はそういう気持ちでお母さまをお選びになったのではありませんか」

それを言われると帝は沈黙。

后宮は「武士」の二文字も本当は好きではなかった。

商家ではなく、学問の徒という家系も生意気なような気がした。

「もう少しお待ちなさい。東宮の妃が決まるまで」

「いつ決まるのですか」

二宮は必死に食い下がる。

「今、婚約しようとしている女性がいるのですか」

東宮は視線をそらした。

「今から見合いを重ねて婚約して結婚・・・あと何年待ちますか?その間ずっと菜子さんをマスコミの餌食にするのですか」

二宮は大きく息を吸った。

目はキラキラと輝いている。

もう留学前の「次男坊殿下」ではなかった。異国に住む事で自分の好きな学問に没頭し、教授らからも評価される事で一人の学生として人間として自信がついたようだった。

「だってあなた達はまだ学生でしょう?」

「学生結婚もありではないのでしょうか。それが許されるのは皇族だからでは」

「どういう事なの?」

東宮がよくわからないという顔で尋ねる。

「一般の人達は学生結婚しないの?」

「そりゃする人はいますが、本当に一部ですよ。学生と結婚生活の両立はかなり難しいのです。だって僕たちのように内舎人(うどねり)がいるわけでも女官がいるわけでもないし、大膳があるわけでもないのですから。一方で皇族に許される自由と言ったらそれは学問だけではありませんか。僕たち二人は学問を修め、家庭も両立し一生学び続けたいと思って居るのです」

「ふうん・・・結婚とはそんなに面倒なものなの」

「そうですね。女性にとっては特に。お兄様も僕もよくわかってない部分も大きいけれど。男性が働き女性が家庭を守るという価値観は残っていますからね」

「栂宮、もう一度申しますよ。長幼の序を守らないと」

后宮はがんとして反対した。


その日はそれで終わり。

「お兄様。私は応援してよ」と蓮宮に慰められたが、二宮はかなり落ち込んでしまった。

菜子の事を思うといてもたってもいられない。

菜子とは去年の冬、帰国した時に会ったきり、喪の行事が続いて御用地から出られないでいる。

電話をしようと思っても、もし盗聴などされていたらと考えると、それもままならぬ。

どんなに不安だろうか。

菜子への熱情が宮を奮い立たせる。

二宮は最も長く付き合っている同級生の真田準之助に電話をかけて菜子に「何とか今年中に婚約をするから待つように」伝えて貰った。

忠実な真田はすぐに行動を起こし、菜子に伝えると共に近況も探ってくれた。

「ちらちらマスコミが来ているようですよ。津島家は無視しているようですけど。噂も。菜子さんの彼氏が殿下だって・・・でも大丈夫。菜子さんは気丈に振舞っていますから」

そうだ。菜子はいつだってあわてず騒がず事態を見守る派なのだ。

何とか会いたい。

「会えないかな」

「うーん・・・」

真田は少し考えた。

「ちょっと待ってください。こういうの、得意な人間に頼みますから」と言って電話が終わった。


数日すると、今度は高藤春樹から電話が来て

「菜子さん、大学院の授業が終わるのが夕方6時くらいの日があるんです。それから自習の為に図書室に行きます。そこで待ち合わせはどうでしょう」

「人目につかないかい?」

「いいですか・・・計画として」

二宮は高藤の考えたわりと目立つようにしかな感じない計画を聞くしかなかった。


菜子は卒業した高藤からの電話で「図書室にいて」と言われ、夕方に研究室を出るとそのまま図書室に向かった。

春とはいっても桜は散っており、薄暮の中に木々が浮かび上がる。

菜子はなるべく目立たないような恰好で何気なく図書室に入った。

幸い、知り合いはいないようだった。

この時間帯になると図書室の蛍光灯の明かりが光り、どう見ても人が歩けば目立つ。

でも菜子は意を決して図書室に入り、それからドア口に近い方の本棚の間に滑り込んだ。

いかにも「本を探している」風を装えと言われている。

(こんな事して大丈夫なのかしら。でも殿下・・・)

こんな事をしていると父に見つかったら叱られそう。

でも、菜子の恋心はそんな父の顔を向こうに追いやる。

(おじい様をなくされて、ご心痛の筈。なのに私に会おうとして下さって。最初になんていおう。この度は・・言葉もありません。それから留学の話を・・でもそんな時間があるのかしら?)

あれこれ考えていると、ドアが小さく開いて、高藤と真田と仁科の3人が入って来た。

わざと大きな音を立ててドアを開けたので、一斉に視線がそっちに向いた。

「ああ、ご免」と彼らは話しながら本棚を囲むように立つ。

菜児ツァイアル」小さく呼ばれてはっと菜子は振り向いた。

目の前にいるのは誰であろう。二宮だ。

「あ・・二殿下アルデンシャ」と答えた瞬間、菜子はもう二宮に抱きしめられていた。

懐かしい二宮の腕。そして煙草の匂い。何もかもがずっと菜子が夢見続けていたもの。

菜子が話そうとすると唇に指をあてられた。

「聞くだけ聞いて。僕は両親に君との婚約を申し出ている。何とか今年中に婚約して見せる。いいね。待てるね」

菜子は急に涙が溢れて声が出そうになった。

瞳の涙をそっと二宮はぬぐってくれた。

菜子はぐっとこらえ右手を喉の所から胸へ降ろした。

それは手話で「わかりました」という意味。

二宮は手話は知らない筈だが、菜子が理解したと察した。

「殿下」と呼ばれ、二宮は風のように3人と消えて行った。

菜子はへたへたとその場に崩れた。

今のは夢?いや違う。夢ではないわ。

信じる。私は宮様を信じるのだ。


帝が「津島家の家柄を調べよ」と宮内庁に依頼したのは、雨が多くなり始めた頃。

東宮のお妃候補を調べるので忙しい宮内庁が、今度は津島家を調べろと言われ急に忙しくなった。

津島菜子は修学院教授の娘で自身も修学院。

という事で、今回は修学院からお妃が?と修学院関係者は色めきたち、特に旧華族の家柄が多い女子同窓会は、前回の東宮妃が清泉に取られた恨みがあり、今度こそという思いで情報を提供した。


津島家は爵位などがあるわけではないが、近代の我が国では清廉潔白な家柄として知られ、祖父は官僚、父は教授という学問一家だった。父母ともに4代前まで遡り、戦争と平和の時代に翻弄される事無く、ひたすら学問を追求するという努力一筋の家系だった。

「欲はなく決して怒らず」という宮沢賢治の言葉がぴったりで、津島家は大木のように揺れもせず思想も変わらず、ただ真一文字に仕事や学問に打ち込む気風を持っていた。

それは同じ時代にブルジョアとして過ごした后宮の家柄とは大きく違う、どちらかと言えばその質素さは亡き帝そっくりであった。

それを知った后宮はまたも「生意気な」と思ってしまう。

家柄重視の皇族・華族の時代から「新興貴族」のブルジョアの時代を謳歌して育った后宮の価値観はもっと野心的だった。

生まれに関係なく実力でのし上がっていくのがこれからの生き方であると信じて疑わなかった。

清貧などは理想でしかない。

実際は、財力こそが力であり権力であり権威だ。


しかし、なんだろう・・・この敗北感は。

后宮が修めてきた学問は一流という自負もある。

また和歌や文学の世界では、専門家からも評価され一流の域に達している筈。

決してそれを自慢してきたわけではないが、津島家のありようを見ていると、どこか敗北感に似た感情が湧き上がってくる。

そんな妻の気持ちがわからない帝は、津島家を気に入ってさらに亡き帝も二人の事を認めていたと聞くと心が動いた。

帝からすると菜子は度々家に来る息子の可愛いガールフレンド的な印象だ。

本人たちが好きなら・・・と思うが后宮は首を縦に振らない。

東宮に至っては「大和田幸子さんではいけませんか」と、一度候補から落ちた女性に未練を残している。


喪中とはいえ祭祀は続くし、謁見もあるし、帝も后宮も忙しい日々を送っている。

二宮も総裁職を引き受けた事業のあれこれを聞いたり、内なる公務に励んでいた。

しかし、家庭の中はどこか冷めた感じで会話も少ない。

マスコミは何とか明るい話題をつかもうと、今度は蓮宮の結婚相手を探し始める。

考えてみればせっかくの20歳の誕生日を迎えたばかりの蓮宮だったが祝賀行事も出来ず来年に見送りになった。

蓮宮のティアラやアクセサリー一式は国費ではなく内廷費で作られた特別なもので、嫁入り道具の一つとして持たせる予定だが、そのお披露目も出来ない。

「どうだろうね。栂宮の結婚を認めてやったら」

帝はようやく后宮におっしゃった。

「どうしてですの?東宮はどうなるのですか?」

「ここまで決まらないのを無理に決めても仕方ない。東宮は東宮で妃選びをしていればいい。今年はとにかく婚約をさせて式は来年に。もしその間に東宮妃が決まるようなら先に式を挙げればいいんじゃないだろうか」

「・・・・」

后宮はうつむいた。

「来年は即位の礼がある。そこに親王の妃が一人もいないのでは様にならないと思う。あの娘なら結婚すぐでも筆頭宮家の妃は務まると思うのだ」

「・・・・」そうだ。来年は即位の大礼がある。

世界中の政治家や王族が揃うのだ。

后宮としては何とかそれまでに東宮妃を決めて式に参列させ盛大なお披露目を夢見ていたのだ。

しかし実際は、大和田幸子に拘りを持っているようで週刊誌が煽るから本人もその気になりつつある。

大和田幸子という女性は確かに后宮が期待するような学歴を持っていたが、皇室に合うとは思えなかった。

さりとて、他の女性はどんどん結婚してしまうし。

帝のおっしゃる事を后宮としてあまり否定し続けるのも分が悪い。

そこは長年の結婚生活で「限界」を知っていた。

后宮は「わかりました」とおっしゃった。

「二宮の結婚を認めましょう。その代わり、条件があります」

帝は「条件?」と不思議そうな顔をされた。








長い章になってしまいすみません。

飽きてしまいますよね。

どこで切るかというのは大きな問題でもあります。

でも今回は長すぎ~~と自分でも思ってしまいました。

慌てて時系列を立て直して、半日で書き込んだので読みにくかったら申し訳ありません。

よろしくお願いします。


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