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沈む皇室  作者: 弓張 月


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21/30

留学と結婚2

今回もよろしくお願いします。

さて、今、私はこの小説を「純文学」として書いているわけですが、果たして本当に純文学と言えるのでしょうか?

そんな硬い話を書いているつもりはないですし。かといって異世界ものでもライトノベルでもない。

じゃ、なんだろう。

「懐古趣味系ロマンスノベル」とでも名付けようかな。

「懐古趣味」なんて言葉、今どきの人は使わないかもしれないですが、要は「明治・大正・昭和初期ロマン」を「懐古趣味」というんですけどね。

書いているのは現代なのに、どこか懐かしい感じがする小説かなと思って。

新ジャンルという事にしておきます。

沈丁花の花も終わり、御所の庭には早咲きのバラが咲き乱れていた。

菜の花やマリーゴールドといった小さな花もあちこちに色を添えている。

后宮ご自慢の庭はまさに春を迎えていた。

3月の終わり、拾宮、栂宮、蓮宮が揃って参内した。

拾宮は大学院を卒業、栂宮は大学卒業、そして蓮宮は高校卒業の報告をする為だった。

東宮家の3宮が揃って参内するのは珍しい事で、蓮宮のセーラー服がとても可愛らしく映る。

3人の目の前に帝と、そして車いすに乗った后宮が現れた。

后宮は3人を見てもただにこにこ笑って「可愛い事ね」とおっしゃるだけ。

帝は3人に対して

「みな、それぞれ卒業おめでとう。今後とも皇族としての役割を忘れず果たしていく事を希望します」とおっしゃり、3人は頭を垂れた。

后宮は「お背が高いのね」と栂宮に微笑みかけ、蓮宮には「お可愛らしい事ね」とまたおっしゃった。

「拾宮は博士課程修了だってね。よく頑張ったね」

「ありがとうございます。おじい様」

帝は手術以来、随分お痩せになっているし、声も小さくなりつつあった。

本当は二宮も蓮宮も心配でたまらなかったが、拾宮はそんな帝の変化には気づかないようだった。

「どう。なかなか相性の会う人はいないのかね」

それはひきずる結婚問題のこと。

幸子とのいきさつを帝は御存じだったが、知らないふりをされている様子。

「いるにはいますけど・・・・」

「回りを信頼してよく意見を聞くようにね」

帝は目を細めておっしゃった。

「栂宮はイギリスへ行くんだね。いつ?」

「8月に発ちます」

「そう。やっと好きな学問が出来るんだね。よかったね。頑張りなさい」

「はい。おじい様」

「蓮宮は修学院大学だね。あの小さかった姫がこんなに大きくなるとはね」

「はい。おじい様」

「時々、遊びにおいでね」

帝は感慨深いというように3人の孫たちを見つめた。

一人ひとり、生まれた時から今日までを思うに「平和」のなせるわざであると思わざるを得ない。

帝のお子様達はみな、何等かの戦争の影響をお受けになった。

臣籍降下、疎開など。苦労した上に早く亡くなられた女二宮の事も思い返されると、このように平和な世の中ですくすくと育ち、海外留学もする孫達を心から寿ぎたいと思われた。

あと何度、彼らに会う事が出来るだろう。


3人がお辞儀をして部屋を出ようとしたとき、帝は不意に

「二宮」と呼ばれた。

公式な場で二宮と呼ばれるのは珍しいので3人は立ち止り、振り返る。

「はい。おじい様」

二宮は驚いた顔で帝を見た。

ああ・・なんと痩せておられるのだろう。お体も随分小さくなられた。

そこにいらっしゃるのは帝ではなく、紛れもない年老いた祖父。

「ヒオウギアヤメが咲くよ。よろしくね」

もし、二宮が一人だったら思わず駆け寄って「おじい様」と泣き崩れていたかもしれない。

でも、兄や妹の手前そうするわけにはいかず

「はい。お任せ下さい」と途切れがちに答えるしかなく。そしてくるっと背を向ける。

そうしないと涙がこぼれそうだから。


「ヒオウギアヤメって」帰り道、車の中で拾宮が不思議そうに尋ねた。

「あれはおじい様が研究されている新種のアヤメですよ。分類をご一緒にしていたんです」

「そうか。僕はいきなりおじい様がおっしゃるのでびっくりしたよ」

「おじい様、寂しそう。おばあ様も」

蓮宮がしんみりしているので、二宮はその可愛い頭をぽんぽんと軽くたたいた。

「頻繁に参内すればいいよ。映子はお菓子作りが得意なんだからクッキーとか焼いて」

「はい。そうします。お兄様達にも焼いて差し上げてよ」

「少しは上達したのかな」と拾宮がからかうと

「おお兄さまなんか大嫌い」と蓮宮はそっぽを向いてしまった。

「そんな事言わないで。今度、修学院大でパーティがある。お前を連れていってあげるから」と二宮が言ってくれたので、蓮宮はふくれっ面をやめた。


その修学院のパーティは5月に入った頃、二宮が立ち上げた「自然サークル」の集まりとして行われた。

そこにちょこんと大学生になったばかりの蓮宮と4年生になった菜子が同席し隣同士に座った。

その日は、留学を控えた二宮の壮行会と称して、サークル室に手作りのお菓子やジャンクフード、それに少々酒も持ち込まれて秘密裡に始まる。

隣同士の蓮宮と菜子はすぐに意気投合したらしく、お菓子の出来を巡ってきゃっきゃっと笑いあっている。二宮はほっとしてそんな二人を見つめていた。

「つまり、姫様の婿候補もこの中にいるという事?」

この春、めでたく商社に就職し、もっぱら研修に忙しい高藤春樹が宮にビールを勧めながら言った。

学生の頃は二宮と菜子のデートを設定したり、隠れ蓑になってくれたりと色々世話になっている。

「どうだろうな。妹を幸せにできる男がこの中にいると思う?」

「いるんじゃない?だって育った環境がみんな似ているし、皇室をよく知っている。だけど旧皇族とか旧華族じゃないとダメと言われたら僕なんかはね」

「僕としては家柄などには拘らないつもりだけど、僕の両親はどうだろうな。特に母が」

東宮妃は年齢を重ねるごとに一人娘の蓮宮への依存度が高くなっていた。

また蓮宮も面倒見がよく、気が利くので母を気遣い母の好みに合わせた生活をしている。

特に服装などはまるで「ミニ東宮妃」とか「東宮妃の余りで作ったのか」と言われるほど、年齢にそぐわない上質なれど地味すぎるスーツばかりで、しかもこれまた似合わないのに眼鏡をかけているから、すっかり田舎娘のようになっている。

兄からみれば可愛い妹でも決して母のような「絶世の美女」とは言えず、蓮宮はそれを気にして殊更に地味に質素にしているのだろうと思われた。

「おまけにアニメ好きだ」

ぼそっと二宮が言うと、高藤は驚き「アニメオタクなんだ~~」と笑った。

「笑うなよ。本人は真剣にルパン三世を愛している」

「おじさま好きかあ」

とさらに笑った。

「いつぞやはコミケに行きたいと言い出して東宮職に止められてた。部屋の中は漫画が一杯だし、雑誌も随分買い込んでる。凝り性なのはいいけどそっちへ行くとは」

「兄君としては心配だなあ」

のんきに高藤は笑い、近くにいる真田準之助の背中をたたいた。

「痛い。何をするんだよ」

背がそれ程高くなく、眼鏡をかけて素朴な顔立ちの真田準之助は銀行に勤め始めていた。

「いや、姫様はお前と同等にオタクって話」

「蓮宮様が?」

「そう。アニメオタクなんだって」

「オタクっていうな。失礼な。マニアって言えばいいのに」

準之助は少し怒ったように言って、そっと菜子と笑い転げている蓮宮をみた。

「準之助はなんのマニアなの?」

二宮が優しく尋ねたので真田は真面目に「カメラと車です」と答えた。

「へえ」

「いいのか?名門の息子が人でないものを好きって」

と高藤にからかわれて、真田はまた怒った。

「大きなお世話だよ」

「でもマニアと言えば、我らが栂宮様程動物マニアはいないのでは?」

だれかがそういうとみんな大きく頷いた。

「お兄様は昔、羊を飼っていた事があるのよ。亀とか蛇とかそういうのもお好きよね」

「その羊はどうしたの?食べちゃった?」

「まさか。動物園に寄付」と二宮は無表情で言った。

「おお兄さまは反対に動物がお嫌い。対照的ね」

「菜子ちゃん。蛇とかナマズとか大丈夫?」

高藤が笑って聞くと、菜子はほほを赤らめて「あまり・・・」と小さく答えた。

「でも宮様がお好きで毎日お側に置かれるのなら私も好きになるかも」

「まいったなあ」

みんなで大笑いした。

二宮はこの菜子を日本において行くのが心配でならなかった。

菜子は将来大学院で福祉関係を学びたいと思って居る。静かに学問が出来る環境があるならそれでいいのだが、最近は拾宮のお妃が決まらないのでマスコミの目は二宮に注がれていた。

「ちょっといいですか」

と密やかに二宮の側に来たのは仁科健。

俳優を父に持ち、そのせいか美貌の持ち主でテレビ局に勤め始めていた。

「何か?」

「これは噂ですよ。噂。だから気にしないで聞いてほしいんですけど」

「なんだ?」

「どうも宮内庁が菜子ちゃんを拾宮様のお妃候補にするんじゃないかと」

「なんだって」

二宮は全身から血が引くのを感じた。

今回もお読み頂きありがとうございます。

色々調べていくうちに「そっか~~留学期間かぶっているんだ」などと初めてわかったりして。

その間に陰謀はすくすく育ち始めておりますので、お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
胸がざわざわしてきますね(苦笑) 本当に。不穏当に狡賢く頭のいい官僚は人の幸せなんかそっちのけで効率を図るから。 もっともっとどす黒い陰謀と、燻る劣等感を育てていらっしゃる御方の歪んだ嫉妬と溺愛も動い…
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