表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈む皇室  作者: 弓張 月
20/20

留学と結婚1

今回もよろしくお願いします。

私はamebaブログをしておりまして。

もし、皆様がこの作品を読んで疑問に思った事やわからない事があったらぜひ、ブログの方に質問を投げて下さいませ。


https://ameblo.jp/heika1/

勿論、こちらの感想欄でも受け付けますし、でもお答えはブログ内でお返ししますね。よろしくお願いします。

帝は手術後、わずか二か月で公務復帰を果たし、とりあえず世間的には「手術成功」という事になった。

后宮はずっと病室に付き添い、「御上」と呼びかけていらした。

年が明けると、新年行事に后宮欠席し、以後、表舞台から完全に退かれ代わりに東宮妃がその任を担う事になった。

1月1日付けで春日宮家の次男、綾仁(あやひと)親王が新たに「紅葉宮家」をお建てになった。

綾仁親王は幼い頃、修学院で平民の学友に「税金で暮らしているくせに」と言われた事がトラウマとなり、それからは誰にも心を開かず結婚もせずいたので父宮から大層お叱りをうけていた。

せっかく男系男子として生まれながら家庭を持たず、僅かな男友達と親しくする姿が父宮の逆鱗に触れたのだった。

兄の淳仁(あつひと)親王家に女子が2人しか生まれなかった事も原因の一つだったかもしれない。

父と息子の関係が悪化し、千代君の訴えで帝は独身の親王に「紅葉(もみじの)宮」の宮号をお与えになった。

独立を祝う小さな祝宴はあったが、そこに父宮はいなかった。


もうすぐ冬から春に向かう頃、高砂宮邸で久しぶりに雲井宮妃、大瑠璃宮妃、そして春日宮妃が集まって、早摘みのイチゴを冠したケーキと紅茶で細やかな茶会が開かれていた。

前年に高砂宮が薨去された。それから1年。漸くの喪明けだった。

「御上の御病気はどうなのかしらね」

大瑠璃宮が心配そうな顔をしている。

去年の帝の手術以来、皇室内では何となく重苦しい雰囲気が漂っている。

公務に復帰した帝が元気なお姿をお見せになられても、やはりその重苦しい空気に変わりはない。

なにせ、弟宮の方が先に亡くなられたのだから。

「噂ではもう長くないとか」菊君がずばりというと、節君は「これ。縁起でもないことを」

「でも、もう週刊誌にも出てますよ」

「そうなの?」

「私も見ました」彩君も小さく言った。

「Xデーが近いとか。本当は膵臓がんだって。それで長官が抗議したのですわ」

「そう・・・みんな年老いてゆくわ。いつ死んだっておかしくない」

「節おば様、そんな風におっしゃらないで。そうでなくても高砂の叔父様が亡くなられて。寂しくて仕方ないのに」

「何も兄君より早く逝かなくてもね」つぶやくように菊君はいい、壁にかけられた写真をみつめた。

「もう仕方ない事なのよ。何を言ってもしょうがない。そういえば、千代君の所の綾仁親王が宮家創設をされたわね。おめでとう」

千代君は「おめでとう」と言われてもちっとも嬉しそうではなかった。

「めでたくもありません。父親がこない祝宴なんて」

「あらまあ。春日宮家は色々大変ね」と節君がちゃちゃをお入れになると千代君は突如、わっと泣き出したではないか。

その声は大きく広間に響いて、何事かと侍女や宮務官が飛んできた。

「なんでもないのよ」菊君は侍女たちを追い払い、千代君の背中を撫でた。

「一体何をそんなに泣いているの」

「なぜこんなにも人生は辛いのかと。長男の淳仁はお酒やたばこを全然止めなくて、好き勝手な事ばかり。それで宮を怒らせるんですわ」

「そういえば、皇籍離脱すると言い出した事もあったわね」

節君は思い出した。

10年も前になるけれど、突如「皇籍離脱」を申し出た淳仁親王は帝に直訴しようとしたのだが、結果的に宮内庁に阻まれて直訴は叶わなかった。

帝は徹底的に聞こえないふりをなさったのでお咎めもなかったのだが、無視されたと感じた親王はさらに怒りを募らせた。

淳仁親王としては、現在支払われている皇族費が不満で、さらに思うように好きな事が出来ない環境にも腹を立てていたので、「皇籍離脱」をちらつかせれば善処してもらえるのではと思ったらしかった。

しかし、帝には無視され父宮に怒鳴られ妃に泣かれ・・・踏んだり蹴ったりもいいところだったのだ。

淳仁親王はすっかりひねくれてしまって、以後、皇室行事には出なくなってしまった。

春日宮家としては跡取りがこんな風で、しかも女児しか生まれない事に頭を痛めていた。

期待は当然綾仁親王に向かうのだが、その親王が「一生独身でいます」と宣言をしたのだから、問題にならないわけがない。

「女性を不幸にしたくないから」というのが理由だったが、宮夫妻には意味がわからなかったし、父宮はただ一層厳しく怒りつけるので、千代君が何とか帝にお願いをして独身のまま「紅葉宮家」を創設するに至ったのだ。

「3兄弟の中では一番ハンサムだし、総裁職も多くて公務に意欲的で私は昔からお気に入りだったけど、そこまで女性嫌いというのはね」

菊君は不思議そうに言った。

すると千代君はさらに激高した様子で

「それは元々高砂宮様が・・・」

「うちの宮様が何なの?」

千代君はうっと言葉を引っ込め、彩君はそれこそわけがわからないという顔をするし、節君はしらっと顔をそらすし。

菊君は言い訳するように「宮様は実の息子のように綾仁親王を可愛がっておいでだったわ」

「可愛がりすぎたのでは?親の知らない所で」

「何ですって?千代君。今、なんておっしゃったの?」

「いい加減になさい。私達が喧嘩をしてどうするの」と節君の雷が落ちた。

みな黙り込んだ。

ただ一人、雲井の彩君だけは理解できないというような顔をしていたのだが。

「大瑠璃のお義兄様が生きていたら、千代君、あなたにそんな口をきかせないわよ」

菊君は憤懣やるかたないという風に袖をぶんぶん振って、お茶をぐいっと飲み干した。

『大瑠璃のお義兄様」とは当然節君の夫で、帝の一つ年下の弟君であったが、戦後すぐに亡くなっている。

でも菊君はある意味、自分の夫よりも「お義兄様」を慕っていたように見える。

「おやおや、幽霊でも出そうだわね」

節君は涼しい顔をしていた。

「大瑠璃のお義兄様はいつも優しく接して下さって、子供のいない私がどんなに慰められたか。せっかく5人もお子に恵まれたのに千代君は贅沢なんじゃないの?」

しくしく泣く千代君は「子供が多くたって少しもよくありません。戦後すぐから子供達を養うのに私達がどんなに苦労したか。それなのに・・・」

千代君には3男2女に恵まれ、娘達はそれぞれよい家に嫁いだものの、とにかく淳仁親王と綾仁親王の問題が常に宮家を暗い雰囲気にするのだ。最近結婚した3男韓駒宮家にも、今は娘しかいない。

何でこうも女ばかり生まれるのかと、何かにつけて宮がいら立つ。

降嫁した娘達の所には男子が生まれているというのに。

養子が禁じられている皇族にとって、男子が生まれない事は「断絶」を意味する。

「東宮家に男子が2人いるんだから、私達はもういらないのよ。亡き宮様もおっしゃっていたわ」

節君は遠い昔を懐かしむようにおっしゃった。

「東宮がなかなか生まれなかった時、うちの宮様は皇嗣だったのよ。でも東宮が生まれて心からほっとなさっていたわ。私達は所詮はスペアっていうのかしら。代が変われば血縁も遠くなっていく。老いれば消えるだけよ」

彩君はそれを聞くと、複雑な気持ちになった。

自分は最初から子供は望めないと言われて嫁いだわけだが、最初からスペアとしての役割もなかったのではないか。

時々は葛藤する。

東宮妃は見た目が華やかで衣装も常に最先端をいくような方。

それに比べると自分はどうしてもセオリー通りの装いになるし、そういうのが流行らない時代なのかもしれないと。

今までの皇族としての人生は何だったのか。

帝や后宮が元気な時は感じなかった疑問が、今になってどんどん湧き上がってくる。

(でも時間を取り戻す事なんか出来はしない。拾宮も栂宮も立派に成人しているし蓮宮ももう大学生になろうとしている。3人のお子に恵まれた東宮妃を羨んでも仕方ないのだ)

「どうしたの彩君?」

黙り込んで煙草を吹かす彩君に菊君が声をかけた。

「いいえ、子供がいなくてもいい・・っていい事なのか何なのか」

「今それを考えても仕方ないわ。もうここまで来たのだから。私達はただ伝統と格式を守り皇室を守る。それだけなのよ」

もうすぐ春だというのに・・・・一陣の風が木枯らしのように庭を吹き抜けていった。

今回も読んで頂きありがとうございます。

どうやら高砂宮家は愚痴をこぼす場になっているようで。

3つの宮家が子供に恵まれていないという事実があり、これはかなり大きな悩みですよね。

旧皇族が復帰していたら、今頃そんなに悩まなくてもよかったんでしょうけど。

旧宮家が復帰するタイミングはいつだったでしょうね。

そんな事を考えると今の皇室があるのは、全てにおいてタイミングが悪かったとしか言いようがありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ