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沈む皇室  作者: 弓張 月
17/20

暗雲 1

暗雲・・・というタイトルはすぐに浮かんだのですけど。果たしてどこまで暗雲かという事で考えあぐねております。でもいよいよ拾宮のお妃に関するお話が始まります。

年が明けて新年祝賀の儀が滞りなく行われ、それに伴う諸行事も無事に終わった。

今年こそ独身最後の年にしたいと拾宮(ひろいのみや)は思って居た。

「おじいさま、大丈夫かな」

皇居からの帰りに車の中でポツンと二宮が言うので拾宮はえ?と顔を向けた。

「おじいさま、具合でも悪いの?」

「そうではないといいけど」

「縁起でもない話をしないでよ」

少し怒った口調で言った。

帝の顔色が悪く、この所は体調を崩しがちである事を拾宮は知らなかった・・・というより、去年出会った女性に惹かれて、それどころではなかったのだ。

何とかもう一度会いたいと思いを募らせていると、思わぬ応援が。

それは韓駒宮《からこまのみや聡仁(さとひと)親王だった。

春日宮家の3男として生まれ(つまり淳仁親王は長兄)数年前に安子妃と結婚、今は長女も生まれ順風満帆だった。

韓駒宮とは年齢が5歳差という事もあり、拾宮はスカッシュやテニスを一緒にして実の兄弟のように親しかった。

その聡仁親王が「宮邸にお見合いの女性を沢山呼んで色々話してみたら」と言ったのだ。

これは素晴らしい思いつき。

宮内庁も了承し、バラが咲き乱れる頃、宮邸には華やかな女性達が集まった。

一番に選定されたのは修学院女子の出身者で元は皇族・華族だったり、名家の女性ばかり。次は東宮妃の出身校清泉女子大から選ばれた女性達で見た目もよいが頭脳明晰派グループ。

そんなバラの中に一輪だけハイビスカスが混じっている・・・それが幸子だった。

「ハーバード大卒。外交官試験合格」という肩書は他の女性にはないもので、しかも、みなとりどりのワンピースを着ていたが、幸子だけは首まで隠すブラウスに上下のスーツといういで立ち。

しかも誰に話しかけるでもないし、挨拶をするわけではないので、最初は秘書かと思われた程。


各テーブルにアフタヌーンティーが用意され、女性たちはまとまって座った。

幸子だけはどのグループにも属さないので、余った所に入れられたようだが、その席は実は拾宮から一番近い席だった。

聡仁親王は「今日は大いに楽しんで」と乾杯の音頭を取り、シャンパンが振舞われる。

安子妃は人づきあいが得意な方で、どのテーブルの女性達とも楽しそうに話を引き出し、そのテーブルは常に笑いに包まれていた。

そんな安子妃が、幸子のテーブルに来た時、にこにこ笑いながら

「ごきげんよう。大和田さん」と声をかけた。

幸子はびっくりして慌てて紅茶を飲み干す。

「私の名前、知ってるのですか」

「ええ。私、あなたのお父様とはお知り合いでね、殿下も一緒にお付き合いさせて頂いているの」

「そうですか」

父はそんな事、一言も言わなかったけど。

安子はなるべく幸子を孤立させないように

「みなさん、大和田さんはねハーバード大を出ていらっしゃるのよ」と披露した。

一緒に座っていた女性達かたは「まあ」「素晴らしい」と声が上がり羨望のまなざしが注がれた。

「拾宮様もすぐに来られるから楽しくおしゃべりなさるとよろしいわ」

安子妃はそう言って別のテーブルに移った。

(拾宮・・・)

幸子は気が重くなるのを感じた。

両親は自分に一定の期待を寄せているようだけど、本人は全くその気がないのだった。


そうこうしている間に拾宮がテーブルに来て、一つだけ空いている席に座った。

「皆さん、緊張してますか?」と彼がいうと、女性達はくすくす笑い出す。

「こんなに沢山の女性達に会うのは初めてだから僕も緊張しています」

実際拾宮は目が回る程の華やかさに恐れをなしていた。

本人としては何とか幸子とさしで話したいのだけど・・・しょうがないので「どう?おいしい?」などと声をかけていく。

「宮邸のバラが美しいですわ。祖母も育てていますけどこんなに見事には。妃殿下に教えて頂きたいわ」

といかにも修学院出と思われる女性が上品な話題をふるかと思えば

蓮宮はすのみや様と私の妹は同級生で。殿下のお話はよくお聞きしています」

などと大胆な事を言う娘もいた。

「私は先年、ロンドンで学んでいましたの。殿下の留学生活はどんなでした?」

こちらは清泉女子か。

「あら、留学するならアメリカの方がよくなくて?」

「治安はどうでしょうね」などと会話が弾む頃、幸子は黙々と食べていく。

「ねえ、大和田さん」と拾宮がやっとチャンスをつかんだ。

「確かボストンにお住まいでしたよね」

質問されたので幸子は「ええ。そうです。数年間いました」

「ハーバードはボストンでしたわね」と誰かが言った。

「ボストンは古い町ですよね。そういう雰囲気はありましたか?」

拾宮がそう聞くと「ああ、ボストン茶会事件でしたっけ」と幸子は答えた。

さすがに拾宮は場がひいていくのを感じたが、ここはどうでも幸子を守らないと。

「ボストン茶事件、そうでしたね。みなさん、ご存じでしたか」

皆一様に「さあ」「教科書で習いましたわ。でもよくは・・」

幸子は「1773年にボストンにおいて東インド会社の荷であるお茶の箱を海に捨てた事件です」

と無表情で答えた。

「素晴らしい。本当によくご存じで」

「後の独立戦争の元になったと言われている事件です」

場はすっかり凍り付いていた。

みな黙り込んでしまったので、拾宮は侍従に促されテーブルを離れざるを得なかった。

目くばせしたつもりでも、幸子は全然気づかなかった。


「ああもうダメだ」

身分の一番高い拾宮が最初に帰らなくてはならず、韓駒宮から「あとで連絡する」と慰められて渋々東宮御所に帰って来た。

独り言で頭を抱え込む。

どうして彼女はこっちを向いてくれないんだろうか。

他の女性はみんな自分を見て笑ったり話題を提供したりするのに。

何で?

嫌われているんだろうか。何かしたろうか。

終始、食べて飲んでばかりいて、隣の女性とも一言も話さなかった幸子。

ああいう場は苦手な人なのかもしれない。

それにしても。


ドアがノックされ、内舎人うどねり

「東宮様がお呼びでございます」と言った。

そういえば、帰ってきてから挨拶もそこそこにしてたなと思った拾宮はすぐにリビングの方に行った。

東宮夫妻は年がら年中忙しくあっちこっちと公務に歩いているので、家族が揃うというのは滅多になかった。

リビングには珍しく、宮内庁長官がいた。

拾宮は驚いて「こんにちは。何かあったのですか?」と尋ねた。

リビングには東宮夫妻と二宮、蓮宮もいたが全員が厳しい顔をしていたからだ。

「藤原長官、さっきの話をお願いする」と父東宮がおっしゃる。

長官は立ったまま、拾宮が椅子に腰かけるのを待ちうやうやしくお辞儀をした。

「では。先ほどご報告させて頂いた事をもう一度申し上げます。拾宮様には大変お気の毒ですが、大和田幸子嬢をお妃候補に加えるわけには参りません」

「え?どうして!どうしてですか」

拾宮は普段の穏やかで無関心な表情をかなぐり捨てて叫ぶように言った。

「なぜ」

「それは・・・大和田幸子さんが江田喜一氏の孫娘だからです」


読んで頂き、ありがとうございます。

これからいろいろ難しい説明等が入る事になりますが、どうか飽きずに読んで下さいませ。

ここを突破しないと今の皇室に辿りつかないので。よろしくお願いします。

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