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沈む皇室  作者: 弓張 月
12/17

大宮様の悲しみ

お待たせしました。

毎回焦りながら書いております。

どのように話を進めていくのが一番面白いか、常にそれを考えています。

悩みますが、今後ともよろしくお願いします。

宮邸に帰ってくると雲井宮がすでにソファに腰かけてテレビを見ていた。

時間はもう夕食の頃だ。

「申し訳ございません。すっかり遅くなってしまって」

彩君は宮に謝るとすぐに、侍女長に食事の支度をいいつけた。

「いいんだよ。相当話が弾んだんだね。彩の顔色がいいもの」

「そうでしょうか?」

「うん。僕もね、少しすっきりした。お互いにストレスをためない事が肝心だね」

朝はめそめそ泣いていた宮が何を偉そうに・・と彩君は思ったが、とにかく普段着に着替えて、宮様の食事を早くしなくては。入念に香水でたばこの匂いも消す。

暖かいコーンスープに、胃もたれがしないような鶏肉料理。

宮家の料理人はいつも体にいいものばかり作ってくれる。

「どんな話をしたの?」

「ええ、宮様が后宮様に憧れていらした話」

「えっ?」

突如宮はスプーンを落とし、慌てて拾おうとしたが給仕がそれを止めた。

平然としている彩君を目の前に宮は恥ずかしそうにうつむく。

「昔の話だよ。后宮様がご結婚された時からほんの少しだけ。だって本当に綺麗だったんだもの。僕は姉が沢山いるけどお義姉様のような人はいなかったな」

妻の前で堂々と言えるのが宮のおおらかな所か。

「でも、東宮妃に聖書を頂いて読んでいたらおもうさまに叱られて。あの時は珍しくおもうさまがひどく声を荒げられて、「こんな本は二度と見せないでくれ」とおっしゃった。

それから東宮妃は週に一度の皇居での食事会にもあまりいらっしゃらなくなってね。おもうさまも「来たくないなら来なくてよい」と。

兄上は何かとおもうさまに反発していらっしゃったから、来なくていいと言われたらご自分も来なくなっておしまいになる。ちょっとあの頃はぴりぴりしていたね」

「そうなの」

彩君は今更嫉妬するわけではないし、確かに今も美しいと言われる后宮。

自分はそんなに美人でもないし・・・


確か節君は

「大宮様は決して東宮妃を虐めたりしていないわ。それなのに週刊誌などがこぞって「嫁姑」と書き立てるし、確かに次第に東宮妃はやつれていった事でそう思われても仕方ないわね」

とおっしゃっていた。

「宮様。大宮様は悲しい思いをなさった事あるの?」

「え?いつのこと?」

「私が入内したのちのお話ですけど、大宮様は「宮中の魔女」と言われる女官に頼り切りになって、帝ですら「どうしようもない」と嘆かれた事があったわ。結局侍従長によってあの女官は追い出されたけど、あれはどうしてだったのかしら?」

「根木女官の事だね。元々は先々の后宮に仕えていたんだけどお亡くなりの後はおたあさま仕えるようになったんだよ。確か新興宗教を信じていて、それにおたあさまが影響されたと言われているけど、僕は違うんじゃないかなと思ってる」

「というと?」

「始まりは東宮妃の入内からだよ。宮内庁御用掛けだった和泉信一郎や万里小路侍従長が進めた宮中改革は、まず東宮妃に平民を。それから少しずつ宮中祭祀を簡略化していくことだった。帝は戦争が終わってからは何一つご自分で積極的に意見をおっしゃる事はなくなっていて、侍従長が祭祀の簡略化を唱えると「わかった」としかおっしゃらない。

「人間」である帝は御簾の中に隠れていてはいけないと考えたんだね。そうはいっても、おもうさまは戦後はあっという間に老け込んでしまったから、表に出る仕事は全部東宮ご夫妻が担っていたんだ。

東宮妃の入内にも帝は反対されず、おたあさまが嘆いても「こればかりは仕方ない」とおっしゃるばかり。

だからおたあさまは黙って耐えたんだよ。皇室のしきたりを破る事には耐えられなかったけど、御上がお許しになったのだからと。できるだけ平民出身の東宮妃をお守りしようとしていたんだ。

東宮妃は結婚して次の年には親王を産んでいるから、御上の判断は正しいという事になったでしょう?お手柄という事で、あっさりと皇居より先に東宮御所が新築されたくらいだもの。

もう誰も何も言えなくなってしまったんだよ。

おもうさまもおたあさまも、あの湿っぽいお文庫でひっそりと過ごされていたけど、東宮家は夏になれば軽井沢で静養し、随分と自由にお過ごしだったと思う


でも、おたあさまが心を痛められたのは、東花園家に嫁いだ一番上の姉さまががんで亡くなった事。

おたあさまのせいではないけど、お見舞いもろくに出来なかったから、長いことおたあさまは泣いてばかりいらした。

国民から大人気の平民出身の東宮妃と、本当に皇族の血を引きながら満足な治療を受ける事も出来ずに早くに亡くなった姉さま。あまりに対照的で、それを考えるとおたあさまは悲しくて悲しくて、見ていられない程の悲しみようだった。

宮中のしきたりとして葬儀には出られない帝と后宮の代わりに葬儀に出た東宮妃は洋装ではなく、着物を着ていたんだ。それもまた周りの皇族からすると常識外れに見えたんだよ。

皇室は100年前から全ての儀式は洋装と決まっている。だから列席者はみな洋装のドレスだったのに、東宮妃だけ着物だったから。

そんな苦情がおたあさまの元に届いて、また悩まれての連続だったよ。

その後も、遠い岡山に嫁いだ姉が病気になった時も大層心配されて、その時はおきて破りをして電車でお見舞いに行って、直接看病された。またもう一人の姉の夫がスキャンダラスな死に方をして、行く末を失った時は、もう本当にお嘆きになって、帝がわざわざ御用地の職員宿舎に引き取られた程だよ。


なぜこんなに不幸ばかり続くのかとおたあさまは思ったろうね。

そこで根木女官が「祭祀の簡略化をしており、神の怒りに触れている」と言ったらしい。

「「日本の国がいろいろおかしいのでそれにはやはりお祭りをしつかり遊ばさないといけない」

「(賢所の冷暖房工事に反対して)神聖な賢所には釘一本、打つことは許されません。そのくらい我慢おできにならぬお上ではない」

と声を大にしてね。

それが改革はの万里小路達との対立を生んでしまい、大騒動になったんだ。それは覚えているでしょう?」

「ええ。あの時は侍従長と深町女官長対根木女官・后宮みたいになって、最終的には退官に追い込まれてしまったんだったわね。俗に宮中の魔女事件というけど、根木女官が本当に魔女だったかどうかはわからないけど。そんなに悪い人だったのかしら?

「何事もどこから見るかで変わってくる。万里小路達は后宮を操っているように見える根木女官を追い出したくて週刊誌にリークしたりしてね。でも僕はね、彼女はおたあさまの慰め役だったんじゃないかと思う。愚痴をこぼしたり、ある事ない事週刊誌に書かれて傷ついて。でも「祭祀をきちんとすれば」幸せになれると思い込んでしまったんだよ。

根木女官が退官の後も暫くは御用地内に家を借りていたけど、そこにおたあさまが電話をしようとしたら万里小路が電話を取り上げてしまったんだ」

「まあ、ひどいわ。何でそんないやがらせを」

彩君は、藤原家の濃い血筋を持つという万里小路の顔を思い浮かべ、貴族特融の冷たさがあるなと感じていた。

「それからのおたあさまはすっかり気落ちしてしまって。骨折されてからはあっという間に脳に来たという感じだよ。僕が今でも怒りを覚えるのは、おたあさまが骨折をされた時に侍従長が「神聖なお体にメスを入れてはいけない」として手術をさせなかった事なんだ。おかげで全然治らなかったし、歩く事も出来なくなり心を閉ざされた」

ふと見ると、雲井宮はもう目に涙を一杯ためていた。

しまった・・・こんな話するから。

でももう遅い。

「僕・・ひっく。僕はね。何でもっと強くならなかったんだろう。なぜもっと意見できなかったのかと今でも後悔する。だってね。だって・・帝が沈黙されているのだから僕などが何を言っても無駄だろうって勝手に解釈していたのかもしれない。今だって・・今だって・・・」

ああ・・彩君はまたしてもうんざりしてしまう。

「宮様。もう過ぎた事ですわ。これから私達、度々大宮様をお見舞いしましょうよ」

「うんうん。そうだね」

「早くスープを飲んでしまわないと冷たくなりますわ」

「うんうん。そうだね。そうだね。あや」

雲井宮はまるで子供のようにひくひく言いながら食事を始めた。


それにしても。

彩君が入内したのは、確か新幹線が開通した年、アジアで初めての五輪を開催した縁起のいい年だった。

大名華族出身の彩君にとって皇室は決して怖いところではなかった。

東宮家のように、華やかなぶるおじゃ生活を見せびらかす事もなければ、後継ぎも期待されなくて済んだ。

ただいつも思うのは、東宮妃・・いやもう后宮だ。

后宮はやる事なす事我が強いというか、ご自分のやり方を決して曲げない所があって、正義は常に自分があると思い込んでいるようだった。

新しい帝はまるっきり后宮に同調していいなりにも見えるし、この先、皇室はどうなっていくのだろう。古き良き時代は終わってしまうのだろうか。


それは夏の事だった。

突如、号外が飛んだ。

栂宮つがのみや様ご婚約!」



話が少し動き始めました。

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