表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/133

第13踊 片桐秋渡の青春の1ページ

昼食を終えた僕たちは、ウォークラリーのスタート地点に集まった。


今回のテーマは「藤樹城の歴史を学ぼう」。


地図とコマ図を手に、僕たちは賑やかな街並みを抜けて、ゆっくりと藤樹城を目指して歩き始めた。


「ねえねえ、咲乃ちゃん。藤樹城っていつ建てられたの?」


宮本さんが高塚さんに早速質問を投げかける。


「鎌倉時代末期の1331年に伊予国守護宇都宮豊房が築いた地蔵ヶ嶽城が始まりといわれているわ。築城の名手と呼ばれる藤堂高虎及び脇坂安治の時代に城下町が形成され始め、加藤家が江戸時代に城郭を整備して今の形になったのよ。」


高塚さんは流れるように説明する。


その姿は普段の冷たい態度とは少し違って、どこか熱を帯びている。


「えっ、加藤家って誰?何してた人?」


宮本さんがさらに食いつくと、高塚さんは少しだけ得意げに答えた。


「藤樹藩の藩主よ。彼らがこの地域を治めていて、政治や文化の中心地がこの藤樹城だったの。」


「へえー!じゃあ、この辺りの文化もお城が関係してるんだね!面白い~!」


宮本さんが目を輝かせる一方で、僕は隣で歩きながら少し感心していた。


「高塚さん、詳しいんだね。歴史に興味あるの?」


「別に。昔ちょっと調べたことがあっただけ。」


そっけなく答えた彼女だったけど、その声にはどこか嬉しそうな響きがあった。


「いや、それでもすごいよ。説明もわかりやすいし。」


僕が素直に褒めると、高塚さんは一瞬固まり、次の瞬間には耳を赤くしていた。


「そ、そんなことないわよ!」


そう言いつつ、彼女は小さくスカートの裾を引っ張って照れを隠している。


「お、珍しく高塚さんが動揺してる!」


ヒロキングがニヤリと笑ってからかうと、高塚さんは一瞬キッと睨んだ後、再び僕の足を軽く蹴ってきた。


「……うるさい。」


その仕草があまりにもわかりやすくて、僕はつい笑ってしまう。


やがて道が開け、藤樹城の美しい天守閣が目の前に現れた。


青空に映えるその姿は、復元とはいえどこか威厳を感じさせる。


「わあ、すごい!」


宮本さんが歓声を上げる。


「昔の人って、こんな大きなお城をどうやって作ったんだろうね?」


「石垣は地元の石を使って、木材は船で運ばれてきたの。特に石垣の技術はすごいわよ。隙間なく積まれてるから地震にも強いの。」


高塚さんが自然と解説を始めると、宮本さんはますます興味津々で質問を重ねる。


「咲乃ちゃんって本当になんでも知ってるんだね!」


「……別に普通よ。」


高塚さんは小声でそう言うと、わずかに顔をそむけた。


その耳がまた赤くなっているのを、僕はしっかり見逃さなかった。


自由時間には、それぞれが思い思いにお城を楽しんだ。


宮本さんは案内板を片っ端から読んで、「これってさっき高塚さんが言ってたやつだ!」と興奮していたし、ヒロキングと平野さんは写真を撮り合ったり走り回ったりして大盛り上がりだった。


そんな中、僕は石垣を見上げながらつぶやいた。


「復元されてよかったよね。昔の人たちが残したものがこうして見られるのって、すごいことだと思う。」


「そうね。形が残ることで、過去と繋がることができるのは素敵だわ。」


高塚さんが穏やかに答える。

その横顔は、どこか誇らしげにも見えた。


ウォークラリーを終えた僕たちは、記念にみんなで写真を撮ることになった。


背景には青空に映える藤樹城の天守閣。

スマホの撮影を観光客にお願いし、全員で並ぶ。


「さあ、みんな!並んで並んで!」


宮本さんが仕切り役を買って出て、全員を誘導する。


「よし、前にヒロキングと平野さん座って!その後ろに咲乃ちゃんと片桐くんと私が入るから!」


「なんで俺らが前なんだよ、宮本さん!」


「ヒロキングと佳奈ちゃんの方が座るの似合うから!ほら、行った行った!」


ヒロキングが軽く文句を言いながらも、平野さんと一緒に前列に座り込む。


「せっかくだから背中伸ばして!咲乃ちゃんもこっち寄って!片桐くんは……あ、ここ!私と咲乃ちゃんの間ね!」


「……え、なんで?」


僕が戸惑っていると、宮本さんが楽しそうに笑った。


「だってその方がバランスいいじゃん!ほら早く!」


宮本さんの勢いに押されるように、高塚さんの隣に立つ。


ちらりと彼女を見ると、少しむすっとした表情をしている。


「……なんでわざわざ挟まれるのよ。」


「僕のせいじゃないよ。」


「まあいいけど。」


そう言いながらも、少し顔をそむけている高塚さん。


準備が整い、観光客のおじさんがシャッターを切る。


「いきますよー!ハイ、チーズ!」


カシャッ。


宮本さんの明るい笑顔、ヒロキングと平野さんの楽しげな様子、高塚さんのわずかに照れた表情。

それぞれの個性がしっかり写った一枚になった。


「いい写真だね!ありがとう、おじさん!」


宮本さんがスマホを受け取りながらお礼を言うと、観光客のおじさんも笑顔で応じる。


「いい仲間だね。青春って感じがするよ!」


その言葉に、僕たち全員が少し照れ笑いを浮かべた。


写真を見ながらワイワイと盛り上がりつつ、藤樹城を後にする僕たち。


今日の思い出は、この写真とともにずっと心に残りそうだ。

感想、レビュー、ブクマ、評価など、よろしければお願いします‼️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ