第12踊 片桐秋渡と愉快な仲間たち
木曜日、ついに試練の日が訪れた。
青少年交流の家での1泊2日の交流会がいよいよ始まった。
僕たちはクラスごとにバスで施設へ向かい、朝の霧が残る道を抜けて到着。
集合場所の広場に並んだ僕らを迎えたのは、これでもかとばかりに元気な施設のスタッフたちだった。
「皆さん、おはようございます!今日からの交流会、みんなで協力して全力で楽しんでくださいね!」
リーダーと思われる男性の力強い声に一同が拍手で応える。
僕も形だけ手を叩いたけれど、正直まだ少し眠い。
周りを見ると、ヒロキングは早くも隣のクラスの女子たちに手を振っていて、朝からいつもの調子だ。
高塚さんは、そんなヒロキングを冷ややかに見つめていたが、僕に目が合うと
「しっかりしなさいよ」
とだけ呟いた。
相変わらず厳しい。
到着後、各クラス混合でくじ引きで班を作り、僕は第4班に配属された。
メンバーは高塚さん、ヒロキング、そして1組の宮本さんと平野さん。
なんだこの顔ぶれは。
偶然にしては出来すぎているような気がする。
僕は周囲からの羨望と嫉妬の入り混じった視線を感じていた。
人気者ばかりが揃う中で、場違い感が否めない。
「わーい、片桐くんが同じ班!これで安心だね!」
宮本さんが満面の笑みを浮かべて手を振る。
「あ、よろしくお願いします!」
平野さんは天然なのか、今気づいたような顔をしていた。
「……よろしく」
高塚さんの声はどこか不機嫌そうだった。
ヒロキングと僕も挨拶をしてから班決めは終了した。
班分けの後は、施設の調理場で飯盒炊飯。
つまり、カレー作りが始まる。
材料はオーソドックスに玉ねぎ、じゃがいも、ニンジン、そして牛肉。
手順も簡単だし、これなら失敗はしないだろう……と、甘く見ていた。
「じゃあ、野菜切るのは誰がやる?」
ヒロキングが班のリーダー気取りで仕切り始めた。
「私がやるわよ」
高塚さんが手を挙げる。
「じゃあ、私も手伝う!」
宮本さんが元気よく手を挙げる。
平野さんも負けじと勢いよく手を挙げる。
「私は……味見担当かな~」
もちろんそんなこと許されるわけなく、調理は女子が担当することになった。
僕とヒロキングは炊飯担当である。
調理が始まってすぐに、事件が起きた。
高塚さんが玉ねぎを手際よく切る傍ら、宮本さんがじゃがいもの皮むきに苦戦していたのだ。
「えーっと、この皮ってどうやってむくんだっけ?」
宮本さんはピーラーを片手に固まっている。
「ちょっと貸して」
高塚さんが手を伸ばし、鮮やかな手つきでじゃがいもをむいていく。
宮本さんは感心したように拍手を送っていた。
「さすが咲乃ちゃん!かっこいい~!」
「……あなた本当に唐揚げ作れるの?」
どうやらこの前のお弁当の唐揚げのことを言ってるみたいだ。
宮本さんは得意気の顔をしている。
「唐揚げはあげるだけだからね〜!下準備はお母さんがしてくれる!」
「……それは手作りといえるの?まぁいいけど」
一方、平野さんはというと、あー、この人もダメみたいだ。
「人参ってこのくらいの大きさでいいかな?」
高塚さんに聞きながら、妙に小さくなった人参を差し出していた。
高塚さんはため息をつきながら指示を出していた。
「もっと大きく切って」
あっちはあっちで大変そうだ。
調理の横では、僕とヒロキングが飯盒でご飯を炊いていた。
しかし、こちらも思わぬ難航ぶりだ。火加減がうまくいかず、煙がもうもうと立ち込める。
「片桐、これ焦げてないか?」
「いや、まだ大丈夫……たぶん」
正直、自信はなかった。
飯盒炊飯なんて中学校以来だ。
その間も女子たちの話し声が聞こえる。
「咲乃ちゃんって料理得意なんだね!意外!」
宮本さんが嬉しそうに言うと、高塚さんはそっけなく答えた。
「別に普通よ。お弁当も自分で作ってるし」
平野さんはニコニコしながら笑っている。
「高塚さんって素直じゃないよね~」
やがて、全員が協力して完成したカレーを囲んで、昼食の時間になった。
カレーの香ばしい匂いが食欲をそそる。
「それじゃ、いただきます!」
全員で声を揃えた。
僕がスプーンをカレーに運ぶと……
「……うまい!」
思わず声が漏れた。
炊きたてのご飯に、ほどよい具材の煮え具合。
みんなで作ったカレーだからこその特別な味だ。
「ふふっ、私の手際が良かったからね!」
宮本さんが得意気に笑う。
「いやいや、私の指示があったからでしょう?」
高塚さんも譲らない。
「そうかなぁ?私はどっちでもいいけど~」
平野さんはマイペースだ。
「いや、俺が火加減を頑張ったからだろ」
「それはない」
ヒロキングが割って入るが、全員から一蹴された。
王様の威光は通じないみたいだ。
こうして、僕たちの交流会の初日の昼食は、少し賑やかで、でもどこか心地よい雰囲気の中で幕を閉じた。
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