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第11踊 高塚咲乃はそっと扉を閉じる

翌日の水曜日、今日は僕らが放送委員の担当日だ。


午前中の授業が終わり、お弁当を片手に教室を出ようとしたその時、高塚さんに声をかけられた。


「また私を置いていこうとしてる。薄情者」


席に座ったままの高塚さんが、じっと僕を見ている。まったく移動する素振りがなかったから、てっきり別行動かと思ったのに。


「だって、高塚さん動く気配なかったし……」


そう返すと、高塚さんはため息をついて、ゆっくりと席を立った。


「私はあなたが誘うのを待ってたの。気が利かないんだから」


どうして僕が誘う役なんだろうと思いつつも、言い返すとまた足を蹴られそうだから黙っておいた。


放送室に着くと、高塚さんは職員室で借りた鍵をポケットから取り出し、解錠して中に入る。


僕もそれに続き、二人で机にお弁当を広げた。静かな空間に時計の針が刻む音だけが響いている。


「今日も可愛いお弁当だな」


ふと横目で見た高塚さんのお弁当は、いかにも女の子らしいラインナップだった。彩り鮮やかな卵焼きやハート型のニンジン、ウサギの形に切られたリンゴまで入っている。


「……別に、普通じゃない?」


そう言いながらも、どこか嬉しそうに箸を動かす高塚さん。


「いただきます」と同時に唐揚げを口に運ぼうとしたその時。


コンコン


突然のノックの音に二人して顔を見合わせる。


「誰だろうな?」


「……私が出る」


高塚さんは箸を置き、面倒くさそうに立ち上がった。


「2組の担当日って知ってるはずなのに……」


ぶつぶつと文句を言いながらドアを開けると、そこには案の定、宮本さんが立っていた。


「咲乃ちゃん!やっほー!」


宮本さんがにっこりと笑って手を振る。高塚さんは一瞬うんざりした顔を見せたが、すぐに無表情に戻った。そして、宮本さんを見たままドアを閉める。


「……誰もいなかった」


「いやいやいや、いるでしょ!」


ドアの向こうから宮本さんの声が聞こえる。


「さっきの顔、絶対私を見てたよね?」


高塚さんは無言でドアをもう一度開ける。今度は宮本さんの後ろに平野さんも立っていた。


「宮本さんが急にいなくなるから、ついてきちゃった。私じゃなきゃ見逃してたよ?」


平野さんが天然っぽく笑うと、高塚さんは再び深いため息をついた。


「……で、何の用?」


「用っていうか、私も放送委員だよ!昨日来てもらったから私も行かないとね。あと咲乃ちゃんと片桐くんが二人でご飯食べてるのが気になって!」


「気にする必要ないでしょ」


「いいじゃん、仲良くお昼食べましょ!」


そう言って、宮本さんは平野さんと一緒に放送室に入ってきた。僕たちの静かな昼休みは終了したようだ。


「咲乃ちゃん、そんな顔しないで~。みんなで食べた方が楽しいじゃない!」


宮本さんの明るい声が響く中、高塚さんは無言で自分のお弁当に視線を戻す。箸を動かしてはいるが、口数は明らかに少なくなっていた。


「高塚さん、なんか機嫌悪くない?」


平野さんが首をかしげて言うと、宮本さんが苦笑いしながら答える。


「たぶん、二人きりで食べたかったんじゃない?」


「そっか~!高塚さんって意外と独占欲強いんだね!」


平野さんの天然発言に、高塚さんは一瞬箸を止めたが、特に何も言わなかった。


かわりに何故か僕の足が蹴られた。


こうして、再び四人でのお昼休みが始まった。


高塚さんは明らかに不機嫌だったけれど、どこか楽しそうにも見えた。


僕の日常は、少しずつ賑やかさを増していく――そんな予感がした。

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