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第114踊 女の子として意識しちゃってた

翌日の日曜日。

今日は昼から佳奈の練習(タイムを測る)に付き合う約束をしている。


パパっと荷物をまとめて帰り支度をしていたら咲乃に話しかけられた。


「そんなに急いで支度してどしたの?話聞くわよ?」


「いやそれ、下心あるやつが言うやつじゃん」


「なっ…ないわよ!」


安定の足蹴りが飛んできた。

慣れって怖いね、足蹴りされても痛くない…わけはない。


「いたっ!ちょっといきなり蹴るなよ」


「あんたがいけないんでしょ!」


まぁ言い方は悪かったけど蹴ることないじゃないか。


「実は佳奈の練習を付き合う約束をしてるんだよ」


「え、私聞いてないわよ!」


そりゃ言ってないから当たり前なわけで。

それとなんでさっきから怒ってるんだ?


「せっかく遊びに誘おうと…」


咲乃はブツブツと聞き取れないほど小さな声で呟いていた。

もしかしたら咲乃も練習に付き合い集ったのかもしれない。言い出すのが恥ずかしいってやつだ。


「学校で練習する予定だから。よかったら手伝ってくれ」


「か、考えとく…」


まだモジモジしてる咲乃と別れて一足先に自宅に帰った。



お昼ご飯を食べて、動きやすい服装に着替え、学校の運動場へと向かった。


スマホを片手で操作しながら足首をくるくる回している女の子の先客がいた。

僕の気配に気づいたのかスマホから視線を移した。


「秋渡ー!こっちこっちー!」


僕を見つけた佳奈が、ポニーテールを揺らしながら手を振っている。

いづみの陰に隠れているが佳奈も学年では人気のある女の子だ。今更ながら2人きりで練習するってちょっとアレな気もしてくる。


そんな僕の思いも露知らず、佳奈はにこやかに笑う。


「いやー悪いね!休みの日に練習付き合ってもらって」


「大丈夫だよ。友達の頼みならなおさら力になりたいしね」


ヒロキングの練習には付き合ったのに佳奈の練習に付き合わないなんてそんなのないしな。僕は友達には平等に接したいタイプなのだ。


「ふぅーん、友達かー」


佳奈はなんだか不貞腐れた顔で言う。

何か間違えただろうか。

なんだか納得がいって無さそうな雰囲気だ。


佳奈は何か思いついたのかニヤリと口角を上げた。なんだかよろしくなさそうなことが起きそうな予感がする。


「そんなー友達の足でー興奮してたのはーどこの誰だっけなー」


「いや、それは!」


案の定予感は的中だ。これは僕をいじり倒す気満々じゃないか。


「友達なんかじゃ普通興奮しないよねー」


「…」


佳奈のひとことにぐうの音も出ない。友達を性的な目で見てしまったなんて恥ずべきことだ。僕は素直な気持ちを伝えることにした。


「ごめんごめん、冗談――」


「ごめん!女の子として意識しちゃってた!」


「ふぇ?」


「え?」


「「……」」


2人して顔を見合せて沈黙した。確実に二人の間に流れる時間が止まっていたと思う。


だがずっと時が止まるわけではない。最初に動きだしたのは佳奈だった。


みるみる顔を赤くしていき、顔を背け、足先で地面をいじいじしていた。そんな佳奈の姿を普段とのギャップで可愛いと思っている僕がいた。


佳奈はゆっくりと口を開いた。


「えっと、あの…ごめんね。ちょっとやりすぎだったかも」


「あ、あぁ…僕もなんかごめん」


なんだか恥ずかしくて佳奈の顔をまじまじと見れない。それは佳奈も同じなのかチラリと様子を伺うようにこちらを盗み見ている。


なんだこの雰囲気は。ラブコメラノベならいける雰囲気だぞ。


「じゃあ…しちゃおっか…」


佳奈がチラリと僕を見て甘く囁く。

その一言で僕の体はカミナリに打たれたような衝撃を受けた。


しちゃおっかって…えっ、なにを?

えっと…なにでいいですか?


なんかもう頭が上手く回らない。

僕だって男子高校生なんだ。人並みにそういう欲だってある。


「私からで…いいよね」


こういうときって男からいくべきだよな。

いや、でも相手の気持ちを優先させることも大事だし…。


「あ、あぁ…」


僕は曖昧に返事をした。こういうことに慣れてなさすぎて上手く対応出来ていない。


いやでも付き合ってもない女の子とそんなことしていいのだろうか。

僕の中の天使と悪魔が囁く。


『秋渡!そういうことはちゃんとお付き合いしてからだよ!』


さすが天使くん。いいことを言う。こういうことは順序が、プロセスが大切だ。


『いやいや、ちょっと待ちな!こんなチャンスもう二度と来ないかもしれないぞ!いっちまえよ!』


悪魔くんの言う通り、僕にこんなチャンスが二度とやってこない可能性の方が高い。


天使と悪魔の議論をもう少し煮詰めたかったがそんな時間はなかった。


「じゃあ…私からするね」


佳奈にそう言われて、僕は口をキュッと結び、目を閉じた。

すなわち、僕は悪魔くんの意見に賛同したのだった。

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