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第10踊 平野佳奈は見逃さない

1組と2組の放送委員メンバーでのお昼ご飯が始まった。


放送室の机に広げられたお弁当の数々。どこかピクニックのような光景だが、ここには妙な緊張感が漂っている。


なんだこの空気感は……お昼休みだよね?全然休まらないんだけど。


平野さんは最初こそ困惑した表情を見せていたが、すぐに仕事に取り掛かった。といっても音楽を流すだけだが。


短時間で戻ってきた彼女のお弁当は、運動部らしく大きなサイズだった。


「それじゃあ、みんな揃ったことだし、ご飯食べちゃお!いただきます!」


宮本さんが明るく音頭を取ると、僕たちもそれに続く。


「「「いただきます!」」」


僕のお弁当は母さんの定番、二段弁当。

ご飯の上にはふりかけ、今日はのりたまだ。


一段目には唐揚げ、卵焼き、ウインナー、そして彩り担当のプチトマトとブロッコリー。

息子の好みを熟知した布陣だ。


まずはやっぱり唐揚げだな、と箸を伸ばしたその時――僕の唐揚げが移動を開始した。


右斜め前、宮本いづみの口の中に消えていく。


「ちょっ、僕の唐揚げとるなよ!」


「だって、美味しそうだったからさ~。ほら、これあげるから許してよ。」


唐揚げの代わりに、彼女が僕のお弁当箱にそっと置いたのは……また唐揚げ。


「いや、唐揚げあるじゃん!これ意味あるか?」


「これは私の手作りだから。君に食べてほしかったんだよね。」


彼女が頬を赤らめながら上目遣いでそう言うものだから、思わずドキッとしてしまう自分がいた。……あれ?ズキッともする。


「痛った!」


視線を向けると、隣の高塚さんが鋭い目つきでこちらを見ていた。


「食事中にニヤニヤするな。」


冷たく言い放たれたが、僕の卵焼きに箸を伸ばしている彼女の手元を見つけてしまう。


いやいや、それを言うなら自分も……と思う間もなく、次は正面から足が飛んできた。


「痛っ……え、なんで?」


犯人は平野さんだった。彼女は人懐っこい笑顔で、


「にやにやするな~!この流れ、私じゃなきゃ見逃してたよ?」


と満足げに笑っている。


その場にいた誰もが予想外の行動に目を丸くしたが、気づけば宮本さんと高塚さんもクスクスと笑い合っていた。


なんだこれ。

なんで僕の周りはみんなこうなんだ。と思いつつも、僕も少し笑ってしまう。


食事が進む中、平野さんがふと声を上げた。


「片桐くんは部活動どうするか決めた?」


「まだ考え中だけどら弓道部とか気になるかな」


「なるほど、そっち系か~!じゃあ、唐揚げでエネルギーチャージしておきなよ!」


と言いながら、平野さんは自分の大きなお弁当箱から唐揚げを差し出してきた。


「いやいや、もう十分あるから!」


彼女の勢いに押されそうになりつつ、なんとか断る。


一方で高塚さんは無言で卵焼きを僕の弁当箱にそっと入れてきた。

さっき僕の卵焼きを食べたからだろう。


「……ありがとう。」


そうつぶやくと、彼女は何事もなかったかのようにそっぽを向いて食事を続ける。


宮本さんがニヤリとしながらこちらを見てきたが、何も言わずにお茶を一口飲む。


やっぱり、この人たちは少し変わっている。


昼休みが終わる頃、平野さんが放送室の窓際に立ちながらつぶやく。


「ねぇ、片桐くんって、こういう日常が普通なの?」


「いや、むしろ非日常だよ……。」


僕の答えに、彼女は声を上げて笑った。


このメンバーで過ごす時間が、これからどうなるのか。僕にはまだわからない。

でも、少しだけ楽しいと思っている自分がいた。

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