【番外編】正反対の二人(6/7)
カフェを出るとガイルは、運河沿いを散歩することを提案した。
今の時期、プラタナスの木がほんのり黄色や淡い茶色に色付き始めている。散歩するには最適だった。
馬車で待機してくれている侍女に声をかけてから、私はガイルのエスコートで歩き出す。
「オルソン様はどうしてあのカフェに私がいると分かったのですか?」
「だってドリュー子爵令嬢は、アン王女やローゼン公爵令嬢に誘われたら、絶対に断らないだろう」
それは確かにそうだった。
何気に私、皆勤賞かもしれない。
「でも今回に限っては、詳しい理由も言わず『用事があり、無理です。ごめんなさい』って」
確かにそうだ。
アン王女が舶来品で手に入れた珍しいスイーツがあるから、宮殿でお茶会を開くと言い、それに私も誘われていた。
でも罠とは気がつかず、今回のカフェでのお茶会に出席することを、決めていたのだ。つまりアン王女には、お断りの返事をしていた。
「えっ、まさかそれでアン王女のお茶会に出席せず、私のことを……」
「俺が抜けたところで、アン王女は気にしないよ。それよりも気持ち悪いことしてごめんな。でもさ、噂で聞いたんだよ。ドリュー子爵令嬢をよく思っていない輩がいるって。しかも奴らが何かするかもしれないって」
「そ、そうなのですか!?」
するとガイルは、少し癖のある自身の短髪のダークブロンドを、恥ずかしそうにかきあげる。
「親父がさ、騎士団長だろう? 騎士団は王都の平安のために動いている。市井の情報にも耳を傾けているんだ。そこで今話した情報を掴み、教えてくれたんだよ。いつも仲良くしている令嬢に、危機が迫っているかもしれないって」
なるほど。
それなら納得だ。
どこで反乱分子が暗躍しているか分からない。
それに他国のスパイだっているだろう。
「そうだったのですね。おかげであわやのところだったのですが、助かりました」
「うん。でもさ、もう少し早く踏み込めば……」
「そんなことはないです。ベストタイミングでした! まさにロマンス小説のヒーローのような完璧な登場だったと思います。あんな大男を瞬時に倒したところも含めて」
私の言葉にガイルは、頬を赤くして喜ぶ。
これは本人に言うつもりはない。
もしガイルが、あの意地悪な令嬢達に私が何か言う前に、個室へ踏み込んでいたら……。
私は守ってくれるガイルに甘え、強い自分になれなかったと思う。
その点を踏まえても、あのタイミングの登場でよかったのだ。
ということで今の私の発言を聞いたガイルは……。
「そっか! そう言われると嬉しいよ! その、俺さ、こう見えてロマンス小説好きなんだ!」
「ええっ、そうなんですか!?」
ガイルとロマンス小説!?
どう考えても結びつかない!
でも……さっきの行動は間違いなく、ロマンス小説に登場するヒーロー……騎士のようだった。
「ドリュー子爵令嬢もロマンス小説、読むだろう?」
「あ、はい。読みます」
するとガイルはすぐそばのベンチに座るよう提案した。
どうやらロマンス小説について話したらしい。
ガイルは見るからに男の中の男、という感じなのに。
令嬢やマダムが好んで読み、胸を高鳴らせるロマンス小説が好きだなんて!
やっぱり何かの間違いではないかしら?
そう思ったが、ベンチに座っている間、ガイルはロマンス小説について語り続けた。
好きな作品の傾向、お気に入りのヒーロー、好きなヒロイン。
それは最新作から語り継がれる名作まで、実に幅広い。
そして分かったのは、付け焼き刃の知識ではなく、どうもかなり昔からロマンス小説を読んでいたということだ。
聞いたところ、三人姉がいる。その姉の一人、長女のアンジェリカの影響で、ロマンス小説を読み始めたという。
「本当にロマンス小説が、好きだったのですね」
「そうなんだよ。ローレンス王太子殿下からは、時々ドラマチックな言動をとるのは、ロマンス小説の影響だって言われる。でもさ……」
そこでガイルは不意に真面目な顔になり、すっと私に手を差し出す。
令息が手を差し出したら、嫌な相手でなければ応じる……というのはマナーとして身に付いていた習慣だ。つまりガイルの差し出した手に、自分の手を載せている。
「ドリュー子爵令嬢。俺、これからも君のことを守りたい。君の騎士になりたいんだ」
手の甲にキスをした後、少し上目遣いでガイルが言い出すので、心臓が止まりそうになる。
でもすぐに理解した。
ロマンス小説の話をしていたのだ。
そしてまさに今の動作。言葉。
小説のヒーローが言いそうなセリフだった。
セリフ。
そう、セリフだと思ったのだ。
「オルソン様、ロマンス小説のセリフまで再現できるなんて、すごいですよ!」
「!? いや、違う。いや、違わないのか!? 確かにロマンス小説のヒーローが言いそうなセリフに聞こえたかもしれない。でもさ、これは俺の本心だから」
「?????」
ガイルの言葉に私は……一瞬、何を言っているのかしら……となった。
だがじわじわと理解した。
しかし。
私は残念ながらみにくいアヒルの子。
自分の立場をわきまえている。
よってガイルに私は相応しくないのだ、と伝えることになったが――。
謹賀新年☆本年もよろしくお願いいたします~
元日にも関わらずお読みいただき、ありがとうございます!!
本年が皆様にとって良き一年になりますように☆彡






















































