【番外編】正反対の二人(5/7)
童話で言うなら私は、みにくいアヒルの子みたいなもの。
地味で目立たたず、とんでもなく高貴な身分というわけでもない。
そんなアヒル子のくせに、どうして白鳥たちとつるんでいるのか。
私自身、不思議だった。
白鳥のようなみんなが、私に優しくし、仲間に入れてくれたことが。
理由はいまだに分かっていない。
ただ、明確な事実。
それは皆、私を仲間だと思っていてくれることだ。
それならば。
私はみんなと一緒にいるに相応しい人間になりたいと思った。
だからといってすぐに人間、何もかもを変えることができるわけではない。
でも私は覚えていた。
ローゼン公爵令嬢が、私を呼び出した上級生三人をどう撃退したのかを。
結局。
何か武器がなく、身一つで戦うなら。
男性なら腕力で勝負だろう。
では令嬢は?
それはもう、目力と言葉の力だろう。
つまり。
姿勢を伸ばし、意地悪な令嬢から目を逸らさず、ハッキリ思うところを口にする。
これをするだけで、相手はひるむ。
だって。
私のことはただのみにくいアヒルの子だと思っているのだ。
そのアヒルの子がこんな風に反論の言葉を口にするとは思っていない。
まず、驚く。
驚いて、言葉を失う。
そこから後は畳みかけるまでだ。
「皆さんは意地悪をするとしても、所詮は貴族の令嬢ですから、悪党になりきれないのでしょうね。そして私の性善説を信じている。こんな風に呼び出され、意地悪されたこと。私が黙っているとお思いですか?」
五人の表情がひきつる。ボスらしいほくろ令嬢が何か言う前に、先に口を開く。
「まず学院に報告します。次に王太子殿下やアン王女、ローゼン公爵令嬢、オルソン様やウォーカー様にもあなた達のこと、話しますから」
「待ちなさいよ」とホクロ令嬢が言うが、ここで口をつむぐ義理はない。無視して話を続ける。
「嘘の名を語り、エリザベス・スカラーが来ると騙し、友人を連れて来れないよう、同伴者を禁じたことも明かします。そしてさっき私に投げかけた酷い言葉も全部、話しますから」
そこで私は席を立つ。
するとホクロ令嬢の右隣の席の唇が肉厚な令嬢が「勝手なことを言って! そんなことをしてただで済むと思ってますの?」と問いかける。
愚問だと思った。
「ただでは済まないでしょうね。繋がりのある在学生は、校長からの呼び出しがあるかもしれません。それにそちらの令嬢は気が抜けているのかしら。紋章の入った扇子をテーブルに置かれている。身元がばれていますよ?」
ホクロ令嬢の左隣の、涙袋がぷっくりした令嬢。彼女はこの5人の中では一番おっとりしているのだろう。「まあ、そうでしたわ」とのんびり応じると、扇子をしまったが遅い!
それに既に私は扉の辺りまで移動していた。
「それでは皆様、ご機嫌よう」と、扉を開けると。
そこには屈強な体躯の男がいる。
中にいるいずれかの令嬢の、護衛兼従者のようだ。
なるほど。
腕力では敵わない。
男が丸太のような腕を伸ばし、私を捕えようとした。
うまく出来たかなと思っていた。
でも最後の最後でこうなるのね。
ローゼン公爵令嬢は、言葉の力で勝利した上に、最後はローレンス王太子まで登場した。
やはりナイトの存在は不可欠。
私が勝つなんて無理なことだった。
でも仕方ない。
みにくいアヒルの子にしては、頑張ったよね。
そう思った時。
「おい」の声が聞こえたと思ったら、いかつい体躯の男が、床にうつ伏せでひっくり返っている。しかも腕を捻り上げられ、痛いのだろう。
唸り声をあげている。
こんなに瞬時にいかつい男を制圧できるなんて!
何者かと思い、腕を捩じり上げている男性を見ると……。
「オルソン様……!」
ビックリする私をチラッと見て、ウィンクしたと思ったら、いきなりガイルは扉を蹴った。ものすごい音と勢いで、扉が吹き飛んだのかと思った。中から令嬢達の悲鳴も聞こえる。
「淑女のはずの令嬢が、一人のレディを個室に呼び出し、何をするつもりだったのかな? 俺さ、ロマンス小説に登場する悪役令嬢は、嫌いじゃない。だってドジだから。意地悪が下手だったり、悪役になりきれなかったりするから。でもここにいる五人は別だな。顔は覚えた。すぐに家門も判明する。覚悟するんだな」
そう言ってニヒルに笑うガイルは、何だか不良っぽいがカッコいい。
そのガイルは次の瞬間。
自身の胸に手を当て、もう片方の手を恭しく私に差し出す。
「ドリュー子爵令嬢、登場が遅れて申し訳ない。でも君、自分の力で扉の外まで出たんだ。すごいよ。何があったのか、聞かせてもらえる?」
その様子を見た令嬢達は慌てて「私達はただ楽しくティータイムを過ごそうとしていただけです!」と言い出したのだ。するとガイルは令嬢達を見ることなく、私に尋ねる。
「楽しいティータイムだった?」
私は首を振った。
それを見たガイルは冷たい目線を令嬢達に送る。
「嘘つきが大嫌いだ」と。
お読みいただきありがとうございます!
春頃に書いたけれど、お蔵入りになっていた作品を大晦日蔵出し放出中!
全13話、年内完結ですので気になる方はよろしかったら☆彡
お昼から更新しています~
『悪役令嬢は断罪回避のためアレを落とすことにした』
https://ncode.syosetu.com/n3646iq/
今回バナーはなく、期間限定でテキストリンクをページ下部に掲出です~
そして本年も一番星キラリ作品をお読みいただき心から感謝でございます。
読者様に出会えたことも大変嬉しく思います。
また明日、お会いしましょう~






















































