【番外編】正反対の二人(4/7)
エリザベス・スカラーも登場するお茶会へ、一人で向かうことになった。
といっても侍女は馬車には同乗し、でもお店に入らず、そのまま待機。
私だけがカフェの店内に入った。
床がチェスボードと同じ模様、ホワイトとベージュになっている。
壁やテーブルセットの椅子、ソファセットはホワイトなので、店内はとても明るく感じた。
「いらっしゃいませ。お待ち合わせですか?」
店員に聞かれ、ジェーン・デュポンの名を告げると「ご案内いたします。皆様お待ちです」と言われ、二階へ案内される。
どうやら個室のようで、店員が扉をノックし、中へ入ることになった。
ドキドキしながら室内を見渡すと……。
丸テーブルには五人の令嬢が着席していた。
全員、申し合わせたかのようなブロンド縦ロールで、髪飾りは黒のリボン。
そしてワインのような赤、深紅、明るい赤、淡い赤、白に近い赤と、ドレスコードは赤だったかしら?と思うぐらい、赤系統で統一されている。
テーブルには既にお茶菓子が並び、どうやら招待状に記載されていた開始時刻より前に、お茶会自体はスタートしていたようだ。
通常は招待状に記載の時刻に開始なので、これには驚く。
いわゆる礼儀に欠く行為であると思うのだけど……。
「どうぞ、お座りになって、ドリュー子爵令嬢」
鼻に目立つほくろのある令嬢がそう言うので、空いている最後の一席に歩み寄る。
この人がジェーン・デュポンなのかしら?
ひとまずカーテシーをして、挨拶をして名乗るが、全員会釈のみ。
つまり誰一人、名乗ってくれない。
これまた貴族同士ではあり得ない反応。
礼儀作法を重視する貴族では、相手が名乗ったらこちらも名乗る。
それが暗黙のルールだった。
とはいえカフェでのお茶会に参加するのは初めてのこと。
カフェは庶民に人気なので、これもまた新しいスタイルなのかもしれない。
ひとまず着席した。
本に掲載されていたエリザベス・スカラーの姿絵は見たことがある。でも今ここに、彼女の姿はない。でも席はもうなかった。
もしや一瞬だけ顔を出し、すぐに退出してしまうのかしら?
そこで店員が私のティーカップに紅茶を注ぎ、退出。
パタンと扉が閉じる音がした後、先程のほくろ令嬢が再び口を開く。
「ドリュー子爵令嬢。もうこれで邪魔は入らないわ」
この言葉に私はハッとすることになる。
「あなたのことは他の令嬢達から聞いているわ。たかがドリュー子爵の娘のくせに。随分と学院では幅をきかせているようね。アン王女様に気に入られ、あのオルソン様にデビュタントではエスコートされた。ローレンス王太子殿下からはまさかの水晶宮に招待されている……。それにローゼン公爵令嬢にも気に入られているとか。宰相の息子であるウォーカー様とも仲が良いと……」
ああ、なるほど。
騙されたのだとようやく理解した。
さらに。
やはりその件なのね、と思ってしまう。
「たかが子爵令嬢のくせに、あなた、何様のつもりなのかしら?」
そこで乾いた笑いを浮かべるこの五人は……。侯爵家や伯爵家の令嬢のようだ。
しかも学院生ではない。
卒業生……だと思う。
わざわざ卒業生が私をこんな風に呼び出すはずがない。
もしかすると現役の学院生の誰かが告げ口をして、このような場を設けるよう、お願いしたのか。
そこでほくろ令嬢の言ったことを振り返る。
ローゼン公爵令嬢にも気に入られている。
デビュタントでガイルにエスコートされていることを知っていた。
間違いない。
きっと一度私を中庭に呼び出し、文句をつけ、ローゼン公爵令嬢に撃退された上級生三人組。自分達ではどうにもできないから、卒業生の力を借りたのだと思う。
前回、私はローゼン公爵令嬢に助けられた。
つまり他者の力に支えられたのだ。
ゆえに上級生三人が、卒業生の力を借りたのだとして……。
そこはもう仕方ないだろう。
ただ、大切なことは理解できている。
ここはカフェの個室。
そしてこのカフェに、お茶会に招待され、来たことを知るのは……両親と侍女と御者だけ。
何も知らない両親が、ここに来ることはまずない。
呼べば侍女や御者は来てくれるだろうけど、来たところで何もできないだろう。
あくまで使用人という立場で、高位貴族に対し、文句を言うことなどできるはずがなかった。
何よりも。
以前、私を助けてくれたローゼン公爵令嬢がこの場に来てくれることはないのだ。
自分で何とかするかしない。
昔の私だったら。
何もできなかったと思う。
でも今は違っていた。
ローレン王太子、アン王女、ローゼン公爵令嬢、ヘイスティングス、そしてガイルと過ごすことで、私は……強い自分になれたと思う。負けるつもりはない。
深呼吸を一つした私は、顔を上げ、五人の令嬢の顔を順番に身ながら、ゆっくりと口を開く。
「私のことがそんなに羨ましいのですか? でもどれだけ妬んだところで、状況は変わらないと思います。それよりももっと建設的にされた方がいいのではないですか? ご自身の魅力を上げれば、必然的に素敵な令息が寄ってくると思います。でも今のあなた達では……無理ですね。一人の令嬢に文句を言うために、嘘をついてカフェの個室に呼び出す。そんなことをされていたら、誰からも好かれないと思いますよ」






















































