【番外編】正反対の二人(3/7)
デビュタントの後、学院ではテストがあり、それが終わるとバカンスシーズンに突入。長期休暇となる。
てっきりみんなと一緒に少し遠出をしたり、遊びの予定が入るのかと思ったら……。
まず、ローゼン公爵令嬢は、ライアース帝国に何故か一人旅で向かってしまった。避暑地として知られているので、帝国を選んだのは分かる。
でも彼女は公爵令嬢。
まさか一人旅に出るなんて。
よくご両親が許したと思う。
勿論、護衛を兼ねた従者なんかは同行すると思うけど、驚きであることは間違いない。
次にローレンス王太子、ヘイスティングス、そしてガイルが突如王都から姿を消したのだ。行き先はアン王女も聞いていないようで、ビックリしていた。
でも王太子が誰にも何も言わず、消えるわけがない。国王陛下夫妻は行き先を知っており、何か理由があるのだろう。
この結果。
バカンスシーズンが始まると、私はアン王女と過ごす時間が増えた。
つまりはアン王女に誘われ、オペラや演劇を鑑賞し、演奏会に足を運ぶことになったのだ。
それは……私にとっては夢のような時間となる。
普段から学院ではアン王女と一緒にいたが、彼女と毎回話せるわけではない。アン王女は幼なじみであるローゼン公爵令嬢と話していることが多かった。でもこれは自然とそうなっていただけだ。話慣れているからつい声を掛けているという感じだった。
「ドリュー子爵令嬢はどうするの?」
そんな風に気さくに声を掛けてくれることもあった。
ただ、こんなに濃密な時間をアン王女と過ごすのは、本当に初めてのこと。
勿論、観劇していたり、演奏を聴いている時に会話はない。
でもそれが終わると、アン王女は楽しそうに観劇した作品について語り、演奏についての感想を聞かせてくれるのだ。さらに観劇・鑑賞の前後でお茶をしたり、食事をしたり。
それはもう楽しい時間だったが……。
出る杭は打たれる。まさにそれだと思う。
それに巻き込まれるのは、まだ少し後のこと。
アン王女と観劇・鑑賞三昧の日々を送っていたところ……。
ライアース帝国からローゼン公爵令嬢が帰国し、時を同じくしてローレンス王太子やヘイスティングスとガイルも王都へ戻って来た。
またみんなと楽しく遊べると思ったら……。
なんと!
王族が所有する避暑のための別荘に招待してもらえたのだ。
水晶宮。
別荘と言われているが、その規模は宮殿並みと聞いている。
美しいドーム型のガラス張りの建物が有名であり、そこは温室になっているという。その温室では珍しい植物を始め、希少生物が飼育されていた。
滞在が許されているのは王族のみで、足を運ぶことが許された貴族は、長い歴史においても一桁と言われている。それも公爵家といった、王族の遠縁ばかり。
そんな誰も彼もが訪れることができるわけではない場所に、招待されるなんて!
何かあるのかしら?
そう思っていたら……。
あれはまるで舞台を観ているかのようだった。
王族のみが本来立ち入ることが許されているエリア、通称“始まりの場所”に案内された。
そこはその呼び名に相応しい、幻想的な場所だった。
そんな素敵な場所で、ローレンス王太子が、なんとローゼン公爵令嬢にプロポーズをしたのだ……!
王太子の言葉。それに応じたローゼン公爵令嬢。
何度思い出しても胸が熱くなる。
まさに美男美女。
ロマンス小説のような素晴らしい恋が実る瞬間に、立ち会うことが出来たのだ!
翌日はには新聞が二人の婚約を大々的に伝え、国外にも婚約について発信された。
きっと王都では大騒ぎだろうが、私達は水晶宮にいる。
過熱する報道がひと段落する頃に、王都へ戻ることになった。
こうして王都へ戻った私の元に、お茶会の招待状が届いた。
お茶会は通常、屋敷や邸宅で行われるもの。
でもそのお茶会の招待状が指定しているのは、最近、街で出来たカフェだった。
コーヒーが登場し、街中には一気にカフェが増えた。
庶民がカフェに足を運び、知識の交流や芸術家が持論を戦わせたりしているようだけど……。
それに「ジェーン・デュポン」なんて名前の令嬢の知り合い、いたかしら?
ただその招待状には「スペシャルゲストとして、エリザベス・スカラーも参加します」と書かれていたのだ……!
エリザベス・スカラーと言えば、ロマンス小説で有名な女流作家だった。
ロマンス小説好きなら、一度は彼女の作品を読んだことがあるはず。
当然、私も読んだことがあった。
ぜひ、会ってみたい。エリザベス・スカラーに。
なんならサインもして欲しい。
せっかくなので、アン王女やローゼン公爵令嬢も誘いたいと思ったが……。
あのエリザベス・スカラーが登場するなら、満員御礼は必須。
つまり今回は同伴者不可、一名のみでの参加がルールになっていたのだ。
でも……それは仕方ないと思えた。
こうして私は一人、エリザベス・スカラーも登場するお茶会へ、向かうことにしたのだ。






















































