【番外編】正反対の二人(2/7)
ガイルを取り囲むのは、この国の王太子、王女、宰相の息子、公爵令嬢……華やかな世界で生きる人々なのだ。まさに手の届かない、ロマンス小説の登場人物達のよう。
その彼らとクラスメイトになり、席は何とガイルの隣!
ガイルと私の前の席には、ローレンス王太子とローゼン公爵令嬢。
二人の前に座るのは、アン王女と宰相の息子であるヘイスティングス。
大変なことになってしまった。
席は学院が定めた男女の隣同士で着席することになっていた。家柄や成績など加味した上で決められるというが……。
私が選ばれた理由はただ一つだと思う。
人畜無害!
それ以外の理由は考えられないので、私は大人しくすることを誓った。
彼らに話しかけるつもりはない。
まさにロマンス小説の主人公たちの背景にいる脇役のように。
大人しくしていようと思った。
だが教室の入口に掲出された座席表を見た人達からは「え、ドリュー子爵令嬢があのオルソン様の隣の席なの?」「というか、ドリュー子爵令嬢って……地味であの目立たない、ドリュー子爵の娘?」とささやかれているのを聞いてしまっている。
ガイルの隣の席は私と決めたのは、学院なのだ。
私の意志とは無関係なのに……。
でもやはりガイルは人気がある。
ファンも多いのだから仕方ない。
なんだか居心地の悪さを感じ、石像のように口を結び、無言で着席していた。
すると昼休みになると……。
なんとローゼン公爵令嬢に声をかけられたのだ。
一緒にランチをしないかと!
しかもアン王女まで「続きはランチをしながら話しましょう」と言ってくれたのだ……!
夢の住人からの、夢のようなお誘い。
しかもこのお誘いは一度のランチで終わらず、そこからの学院生活は、ローレンス王太子、アン王女、ローゼン公爵令嬢、宰相の息子ヘイスティングス、そして……ガイルと過ごすことができるようになったのだ!
私は完全に有頂天になっていたと思う。
調子に乗り、武術訓練に励むガイルにハンドクリームを贈ったり、訓練疲れで居眠りした彼のためにノートを貸したり。そんなことをしていたら……。
なんとガイルからデビュタントのパートナーを申し込まれてしまったのだ。
これはもう腰が抜けそうな事態だった。
驚いた私だが、憧れのガイルからの申し出。
快諾するかというと……。
できるわけがなかった。
「私には無理です」とハッキリお断りをした。
だって。
王都で注目の男子が、地味で目立たない私なんかをエスコートするとなったら……。
ガイルの品格が、まず疑われるだろう。
疑われるが、面と向かってガイルに何か言うわけがない。
何よりもすぐに思考を変えると思う。
これはガイルの意志ではないと。
私が……ドリュー子爵令嬢が何らかの手段を用いて、自身をエスコートするよう、強要したに違いなという発想になると思った。
だからこそ、お断りしたのに。
「え、じゃあ誰にエスコートしてもらうの?」
まさかのガイルに問い詰められる。
誰にエスコートしてもらうのか。
そんなの決まっていなかった。
地味令嬢の私に、ガイルのように申し込んでくれる令息なんていないのだから!
「なんだよ、まだ決めていないんだろう? だったら俺で決定。もしも後から申し込みがあったら、俺と決闘して勝ったら譲ってやってもいい。でも俺、負けるつもりはないからな」
これには口をぽかーんと開けてしまう。
こういう展開のロマンス小説を最近読んだことがあった……というのも大きい。
本当にこの話、受けていいもなのか。
迷う心があったのに、ここまで言われては「分かりました」と応じるしかない。
そしてこのことはローゼン公爵令嬢に話し、本当に私がガイルのパートナーでいいのか。
相談したいと思っていたのだけど……。
ローゼン公爵令嬢は珍しく、いつもの落ち着いた雰囲気がなく、なんだか心がここに在らずの状態。私が悩み相談するのではなく、悩みを聞いた方がいいのでは……?と思えてしまうぐらいだ。
どうしたものかと思っていると、見知らぬ上級生の令嬢三人から声をかけられた。
金髪の縦ロールにお揃いのリボン。
貴族令嬢で流行しているスタイルをした綺麗な上級生の令嬢達だった。
でもこの三人は、大変怖い顔をしている。
そして放課後、中庭に来るようにと告げられた。
つまり呼び出しを受けたのだ……!
そこではやはりガイルがデビュタントのパートナーに私を選んだことをなじられ、辞退するようきつく言われた。ところがそこにローゼン公爵令嬢が現れてくれて……。
見事な舌戦で上級生三人を退散させてくれた。
さらになぜかそこにローレンス王太子も通りがかり……。
二度とこの時の上級生は、私に絡むこともない。
そしてデビュタントもガイルと共に出席し、楽しい時間を過ごせた。
これで問題なく、学院生活を送れると思ったら――。
そんなことはなかった。






















































