【番外編】正反対の二人(1/7)
オレンジブラウンの髪は癖毛で、まとまりが悪い。
瞳の色は、凡庸なヘーゼル色。
遠くの物が見えにくかった。
よってべっ甲のフレームのメガネは、四歳の時から手放せない。
そして伸びると思った身長は伸びず、代わりなのか横に広がってしまった。
つまり小柄だけど、少しぽっちゃりしている。
母親がこの体型だから、私も受け継いでしまったようだ。
父親は「少しふくよかな方が、我々貴族はいいんだよ」なんて言うけれど……。
本当なのかな。
毎日の山盛りのティータイムのスイーツ、貴族令嬢なのだから運動は必要なし。
これが要因だと思うけど私自身。
外で遊ぶより、部屋でお人形遊びをしたり、本を読むのが子供の頃から好きだった。両親も屋敷で静かに過ごすことを好み、あまり外出することがない。
でもそれは私が六歳の時のこと。
王都で行われる剣術大会。
叔父さんが騎士で出場することから、両親に連れられ、私も見に行くことになった。
絵本に登場する騎士。
剣と盾を手に、お姫様を守る。
私はお姫様ではないけれど、絵本に登場するお姫様のように、毎日ドレスは着ているのだ。ゆえに騎士が活躍する剣術大会を見に行く私は、気分だけはお姫様。
そしてその剣術大会で、私は素敵な少年を見つけた。
短髪のダークブロンド、オニキスのような黒い瞳。
私と同い年の六歳だというその少年、名はガイル・オルソン。
王立ハウゼン騎士団の団長の嫡男だ!
ガイルは金の卵部門に出場し、剣舞を披露していた。
剣舞は剣術とは違う。
音楽に合わせ、リズミカルに剣の動きを観客に見せるもの。
単独ではなく、数十名単位で行うので、その動きが揃った時は圧巻。
さらに動きに切れがあると、それはよく目立つ。
ガイルは一際輝いていたと思う。
動きに無駄がなく、一つ一つの技が決まっているというか、とにかく素敵だったのだ。
六歳の私にとってガイルは、絵本で見た騎士そのものに思えた。
それから毎年。
叔父さんを応援するという名目で剣術大会に足を運び、ガイルを見守っていた。
普段の生活で、ガイルと関わることはない。
貴族令嬢は屋敷の中で守られ、家庭教師から教育を受け、同じ年代の令嬢達と遊んで過ごす。だからガイルのことを実際に見られるのは一年に一度の剣術大会だけだった。
でもこの一年に一度の剣術大会で、ガイルは金の卵部門から、少年部門、騎士見習い部門、騎士訓練部門と、出場する部門が変わっていく。
背はぐんぐん伸び、その体もどんどん逞しくなっていた。
そうなるとますます絵本に登場する騎士に近づく。
白い歯を見せ、朗らかに笑う姿も素敵だった。
そんなガイルに熱い視線を送るのは、私だけではない。
観客席で見かける令嬢達に、ガイルのファンは多かった。
それもそのはず。
私と同じように絵本……最近読むのはロマンス小説だけど、その小説に登場する騎士のようなのだから、ガイルは。
いつか社交界デビューを果たしたら。
いずれかの舞踏会でガイルに会えるのかな。
運よくダンスをできたりするの……?
夢は何度も見る。
でも現実を理解していた。
ガイルは運動能力が抜群で、明るく社交的。
一方のは私は……。
運動は苦手。性格も大人しく、自分から積極的に話すことは少ない。
勉強は嫌いではないが、ずば抜けてできるわけでもなかった。
つまりガイルと私は性格も、行動も、真逆だと思うのだ。
よってガイルは永遠に憧れの存在。
奇跡的に舞踏会で出会うことがあっても、ガイルがダンスに誘うのは……。
彼を応援しているアン王女やその学友であるローゼン公爵令嬢だろう。
アン王女は王族の一人であり、まさに絵本に登場するお姫様そのもの。
ローゼン公爵令嬢は高位貴族の令嬢らしく、美しく、お洒落で素敵。
王都中の令息が、この二人に憧れているのでは?
そんな風に思える二人だった。
きっとガイルもダンスに誘うならこの二人だろう。
何よりもガイルを取り囲むのは、この国の王太子、王女、宰相の息子、公爵令嬢……華やかな世界で生きる人々なのだ。まさに手の届かない、ロマンス小説の登場人物達のよう。
子爵令嬢とはいえ、両親同様、社交が得意ではない私は、きっとガイルは勿論、彼らとも関わることはない。そう思っていたのだけど……。
まさに天変地異のような出来事が起きる。
王立ハウゼン高等学院へ入学することが決まった。
ドリュー子爵家は、細々と長い歴史を持つ家門だった。
過去に犯罪者もいなければ、汚職や不正とも無縁。
目立つこともなく、人畜無害な一族ということで、入学を認めてもらえたと思う。
何より過去にドリュー子爵一族に、学院の卒業生は相応にいるわけで。
当然と言えば、当然だったのだけど。
でもまさか。
ガイルと彼らを取り巻く華やかな人々と同じクラスになるとは。
ましてや席が近くなるとは。
ガイルの隣の席に選ばれるなんて……!
まったく想像していないことだった。






















































