【番外編】近すぎる二人(3/3)
ようやく追いつけた!
そう思ったら、なんとヘイスティングスは黒い服の男……すなわち泥棒に追いついていたのだ!
だが泥棒はヘイスティングスに突進し、強行突破をしようとしている。
ヘイスティングスはガイルと違い、がたいがいいわけではない。
あれでは弾き飛ばされてしまうのでは!?
心配したその時。
ヘイスティングスは前屈みの姿勢になると、突進してきた泥棒の勢いを利用して……。
なんと泥棒はヘイスティングスの背で回転するように転がり、そのまま河へと落ちて行く。
泥棒は河に落ちたが、落下する直前にヘイスティングスは、ぬいぐるみを取り上げている!
「王女様、すごいですね、ヘイスティングス様は!」
護衛騎士が驚嘆の声を上げる。
「すごいわ、ヘイスティングス! あなた一体いつの間にそんなことができるようになったの!?」
私も興奮を抑えきれず、ヘイスティングスに駆け寄った。
するとヘイスティングスは、何事もなかったかのように肩のごみを払い、騎士のように跪く。
「アン王女の望みに応えられるよう、いろいろ頑張ってみたところ、動けるようになりました」
そんな風に言うけれど、それって並大抵でできることではないわ。
どうしてヘイスティングスはそこまで私のために頑張ってくれるの……?
ヘイスティングスからぬいぐるみを受け取りながらつい、そのことを尋ねると……。
「わたしは今年、この秋祭りで恒例となっている花と本を、アン王女だけに贈るつもりです」
「まあ……そうなのね? でもどうして……?」
「それがわたしの答えだからです」
そこで私は「うん……?」と考え、「うううん!?」と驚くことになる。
「なぜ頑張るのかの答えが、花と本を私に贈ること、なの?」
「左様です、アン王女」
それが愛の告白だと気付くのは……それから数十秒後のこと。
気付いた後、私はしばし呆然。
まさか、ヘイスティングスが……!
でも今日のヘイスティングスは、まるでロマンス小説のヒーローみたいだった。
見事に一射目で的に当て、ぬいぐるみを手に入れた。
さらにぬいぐるみを泥棒に盗まれると……。
驚くべき脚力を披露しただけではなく、力学を活用し、泥棒を河に落とすことにも成功したのだ。
自分の身近な場所に、こんな素敵な令息がいたなんて!
お兄様がすご過ぎて、どうやら私はヘイスティングスの本当のすごさに気付いていなかったようだ。
ううん、そうではないわね。
ヘイスティングスは私のために、ここまで素晴らしい成長を遂げてくれたのだ。
これは……まさにロマンス小説みたいな展開。
私はすぐさまヘイスティングスと恋に落ち、この後、彼から贈られる花と本を喜んで受け取った。
◇
これは後日談。
お兄様が私に打ち明けてくれたことがある。
それは――。
実は私とヘイスティングスは、幼い頃に既に婚約が内定していたというのだ!
私が大人の女性の仲間入りを果たしたら。
つまりは社交界デビューを終えたら、そのことを両親は……国王陛下夫妻は、話すつもりでいたという。
ただ、それはお兄様が既に婚約をしている前提だった。
そのお兄様はお兄様で、後から種明かしとなったが、実は私と同じ。
幼い頃にローゼン公爵令嬢との婚約が内定していた。
そしてデビュタントに合わせ、お兄様がローゼン公爵令嬢にプロポーズし、正式な婚約を発表。そこから少し遅れ、ヘイスティングスも私にプロポーズ。私も正式に婚約することが計画されていたという。
ところがローゼン公爵令嬢は、プロポーズしようとしたお兄様に「待ってください!」と言い、ライアース帝国へ旅立ってしまったのだ。彼女としてはこれまでお兄様を恋愛対象として見ていなかったから、いろいろと迷うところがあったのだろう。
でも結局、雨降って地固まるではないけれど、お兄様とローゼン公爵令嬢は上手くいった。
遅くなってしまったが、次は私の番だったわけだ。
でも私はそんな順番になっているとは知らなかった。
そして国王陛下夫妻もお兄様も。
私とヘイスティングスは上手くいっていると思っていた。
つまりは言葉にこそ出さないけれど、相思相愛だと。
そう思っていた理由。
それは物心ついた時から一緒にいるヘイスティングスは、私をエスコートすることが当たり前だった。常にそばに寄り添い、そのことを私も受け入れていた。その様子を見て、てっきり二人は……と思っていたと言うのだ。
それなのに。
私がお兄様に「私も恋愛をしたいです! ロマンス小説のような出会いと恋に落ちたいのですが、どうすればいいのでしょうか!?」と打ち明けたから……。
お兄様はすぐに国王陛下夫妻に報告、その結果。
「アンはヘイスティングスの良さに気付いていないと思ったんだよ。二人はあまりにも幼い頃から一緒で、しかも仲が良かった。そしてヘイスティングスは心からアンのことが好きで、アンのために頑張っていた。勉強が得意だけど、運動はそこまで得意ではない。だから体力がついてからは、ガイルに頼み、護身術や剣や弓の扱いを習っていたんだよ。そのヘイスティングスの頑張りにアンが気づくことができたら……間違いなく恋に落ちると思った。そしてそれは成功だったよね」
つまり。
秋祭りのあの日。
ローゼン公爵令嬢があのぬいぐるみを欲しがったのも。普段は私のことを気にかけるお兄様や他のみんなが、ハイストライカーゲームに夢中になっていたのも。突然、泥棒が登場したのも。護衛騎士がヘイスティングスより遅れて行動したのも。
全部、私がヘイスティングスの良さに気付くために、仕掛けられたことだった。
壮大なサプライズにより、そしてヘイスティングス自身も頑張ったから。
見事な走りを披露し、泥棒役の男性を河へ落としたことで、私の愛を勝ち取ったわけだ。
こんな形で真実の愛に目覚めることになるなんて。
驚きだったが嫌ではない。
むしろ。
ヘイスティングスとの婚約が発表となり、私は……幸せでいっぱいだった!
お読みいただきありがとうございます!
【新作です】
『宿敵の純潔を奪いました』
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