【番外編】近すぎる二人(2/3)
「なるほど。アンは……そうか。好きな相手がいなかったのか。てっきり……。いや、うん。でもきっと僕のせいだね。分かった。アンがロマンス小説のような恋をできるよう、協力しよう」
お兄様がそう言ってくれたのだ!
これはとても頼もしい。
しかもローゼン公爵令嬢も協力してくれると言うのだから!
これならきっと私、素敵な出会いを経て、恋に落ちることができるわ。
ただ、どんな風に協力してくれるのか。
それは分からなかった。
でも私が大好きなお兄様とローゼン公爵令嬢が協力すると言ってくれたのだから、大丈夫。任せておけば問題ないわ。
こうして日々を過ごすことになったが、いつものメンバーで秋祭りに行くことになった。
秋祭り。
収穫祭は別にあり、これはまさに秋の到来を祝うお祭りだった。
コスモス、ダリア、アネモネ、アスターなど、秋に咲く花は多い。そう言った秋の花々を楽しむためのお祭りで、意中の相手にはお気に入りの花と本をプレンゼントする習慣もある。
これは毎年、私達、つまりはお兄様、ローゼン公爵令嬢、ガイル、ヘイスティングスの全員で花と本を贈り合っていた。もはや意中の相手とは関係なく、全員に贈り合うのが私達の習慣だった。
でも今年はドリュー子爵令嬢も参加する。そしてお兄様とローゼン公爵令嬢は婚約したのだ。
もしかして何か変化があるかしら?
そんな期待もしつつ、その日を迎えた。
秋らしい葡萄色のドレスを着て、秋空のような水色のスーツ姿のお兄様と、みんなとの待ち合わせ場所である時計塔の広場へ向かう。
秋を彩る花を売る花屋は勿論、沢山の屋台がでており、いい香りも漂っていた。
待ち合わせ場所には、濃紺の上衣とズボンのガイル、アンティークグリーンのセットアップ姿のヘイスティングスが、既に待っている。
そこにアイスブルーのドレスのローゼン公爵令嬢と、パンプキン色のドレスを着たドリュー子爵令嬢も到着。
早速、みんなで屋台を見て回ることにした。
圧倒的に飲食店、花を売る店が多いけれど、遊戯の出店もある。輪投げだったり、アーチェリーゲームだったり。
「アン王女様、見てください。あのぬいぐるみ、可愛らしいですね。耳のところにコスモスの飾りをつけていて」
ローゼン公爵令嬢が言っているぬいぐるみは、確かに可愛い。そしてそれはアーチェリーゲームの景品だった。
こういう時はガイルの出番!と、思ったら。
ガイルはお兄様に頼まれ、ハイストライカーゲームに挑戦している。
ハイトスライカーゲームは、高い柱に鐘が吊るされており、槌で打ち、鐘を鳴らせたら景品をもらえる。力自慢の男性が挑戦するゲームであり、騎士を目指すガイルは得意だった。でもアーチェリーゲームも弓矢だから、ガイルに頼みたいと思ったら……。
「アン王女、わたしがアーチェリーゲームに挑戦しますよ」
「! あのぬいぐるみ、手に入れてくれるの?」
「アン王女が望むなら」
ヘイスティングスは勉強が得意。でも武術系は、あまり得意ではなかったはず。こういうお祭りの時は、いつもガイルに任せているのに。
でも狩りはやっているし、アーチェリーゲームなら大丈夫かしら?
そこでヘイスティングスに「お願いするわ」と伝えると……。
遊戯用の弓矢を受け取ったヘイスティングスだったが、いざ構えると、何だかキリッとしてカッコいい。
そして。
まさかの一射目で見事に的に当ててしまったのだ!
これにはビックリ。
ローゼン公爵にプレゼントしたら、絶対に喜ばれると思い、ぬいぐるみを受け取ったまさにその瞬間。
何が起きたか分からなかった。
ぬいぐるみに触れたと思ったのに。
その重みを感じない。
ふかふかしているから、軽いのかしら?と思ったりもした。
でも……違う!
「王女のぬいぐるみを盗むとは!」
ヘイスティングスがそう叫ぶと同時に駆け出したことで、私は受け取るはずだったぬいぐるみが盗まれたことに、ようやく気付いた。そしてヘイスティングスの背中を追うと、その先を黒服の男が駆けて行くのが見える。
どうやらぬいぐるみは、胸に抱きかかえるようにしているようだ。ここからでは見えない。だが間違いない。犯人はあの黒服の男!
「お兄様、ガイル!」
それに護衛騎士!と思い、振り返ると……。
お兄様、ローゼン公爵令嬢、ドリュー子爵令嬢は、ハイトスライカーゲームに挑戦するガイルを応援している。
その一方で、ヘイスティングスから遅れ、私の護衛騎士二人が駆け出していた。
私もその二人を追い、走り出す。
「アン王女様!」
もう一人の護衛騎士が私の後を追う。
幼い頃から馬術を嗜み、多少剣術も教えてもらっていた。
キャンプやハイキングもするし、王女ではあるけれど私は、かなり活発だった。
ゆえに。
いざ走るとなると、走れる!
しかも今日はお祭りを楽しむため、ショートブーツを履いていた。
つまりパンプスと違い、脱げることもなく駆けることができたのだ。
ドレスも動きやすいものを着ていることが幸いした。
ということで走って行くと、河沿いの船着き場の方へ、泥棒とヘイスティングスが駆けて行く姿が見える。少し遅れ、護衛騎士も続いていた。
ヘイスティングスがこんな風に走れるなんて、驚きだった。
でもこれまで泥棒に遭うことなんてなかったから、ヘイスティングスが走る必要性はなかったのだ。
こうして息を切らし、走り続け、船着き場に到着すると――。






















































