サプライズの連続
水晶宮での朝。
遮光カーテンはこの世界にない。
陽が昇れば東向きの部屋は、必然的に朝陽と共に目が覚める。
だが今回の目覚めはサプライズ!
だって!
窓からキリンが顔を覗かせたのだ!
水晶宮では温室で珍しい動物を飼育しているが、それ以外にもキリンやゾウも飼っている。海を挟んだ大陸では、野生で存在しているこれらの動物は、こちらの大陸では大変珍しい。生態研究も兼ね、この広大な敷地を持つ水晶宮で飼育されているのだけど……。
まさかの朝のお散歩ついでに、私達を起こしてくれたようなのだ!
さらに部屋に来た使用人から受け取ったバナナをあげると、それをむしゃむしゃ食べてくれる。
バナナと言えば、ゾウのイメージ。
だが栄養補給の補助食品として、バナナも食べさせているのだという。
そんなサプライズで目覚め、朝食はテラスでとることになる。
ハイビスカス色のドレスを着たアン王女、レモンイエローのドレスのポーラ、パウダーブルーのドレスの私と、なんだか前世の信号機のようなカラーでテラスに向かうと……。
「不思議。見事に色のペアリングができているわ!」
アン王女が目を丸くしたが、それはポーラも私も同じ。
ローレンスはスカイブルーのスーツ姿、ヘイスティングスはコーラルピンクのセットアップ、ガイルはベージュの上衣とズボンで、こちらも信号機カラー……というか、女性陣と見事に対になっており、驚くことになる。
でもこうなる理由に私は薄々気がついていた。
というか当人だって分かっているはずだ。
この世界、気になる人が好む色にあわせ、自然と服を選んでしまうのは……あるあるだからだ!
「今朝のキリンの目覚まし訪問は、楽しんでもらえたかな?」
着席するとローレンスがそう切り出し、女性陣はキリンの訪問が、ローレンスの仕掛けたサプライズであると気付く。
「あんなに近い場所でキリンを見たのは人生初で、感動しました!」
普段、聞き手に回ることが多いポーラが、積極的に喜びを伝えている。
その反応にローレンスは勿論、ガイルも嬉しそうにしていた。
「お兄様、サプライズは実は私も用意しているのよ!」
アン王女の合図で登場したのは……。
バイオリン、ビオラ、チェロを手にした四人組。
つまり朝食を食べている最中、弦楽四重奏が披露されたのだ!
朝から爽やかな演奏を聞きながら食事をできるなんて!
もうビックリ。
さらに食後は馬車に乗り、特別な場所に案内してくれると、アン王女とローレンスが言うのだ。
目覚めた時から驚きが続いている。
どんな場所に連れて行ってくれるのか、これは実に楽しみでならない。
六人乗りの馬車に乗って一時間程移動。
着いた先は……。
うん。
このメンバーだからそうなるわね!
森への入口が見えていた。
でもちゃんと木の板を使った遊歩道が整備されているので、ショートブーツにドレスで余裕で歩くことが可能になっている。だがまさか森へと案内されているとは思っていなかったポーラは、ビックリだ。
そこで彼女をエスコートして歩き出したのは……ガイル!
その身長差、運動好きと内向的な性格、明るいガイルと大人しいポーラ。
真逆な二人だが間違いない。
二人はきっと……。
「アン王女、念のためにお手を」
「ありがとう、ヘイスティングス」
アン王女とヘイスティングス。
この二人はずっと幼い頃から、こうだった。
王女には護衛騎士もいる。でも彼女を支えるのは、護衛騎士ではなく、いつもヘイスティングス。
「ローゼン公爵令嬢、エスコートしてもいいかな?」
ローレンス!
「ええ、お願いします!」
差し出された手に自分の手をのせると。
ローレンスがことさら嬉しそうにして笑顔になった。
その笑顔は見ているとドキッとすると同時に、温かい気持ちになる。
ずっとこの笑顔に守られてきたと思うと、さらに胸が熱くなった。
鳥や虫の鳴き声が聞こえ、ハウゼン王国らしい夏の気温となってくる。
森の木々にも陽光が射し込み、メルヘンな雰囲気になってきた。
夏の今、草花も元気に咲き誇っている。
途中、何度か休憩し、ゆったり30分程、歩いた時。
緩やかな傾斜を進んでいたのだと気付く。
そして木々が途切れ、拓けた先に見えたのは――。
「王族は“始まりの場所”と呼んでいるんだ。あの滝が落ちる滝つぼから川が流れ、それは王都まで続いている。セレン河の源流。ここが汚染されると大変なことになる。遊歩道も作られているけど、ここは王家の私有地で、無断の立ち入りは禁止されているんだ」
美しく、ダイナミックで、息を呑む。
どこか神々しく、“始まりの場所”と言う言葉に相応しく思えた。
アン王女とヘイスティングスは過去に一度見たことがあるのだろう。
驚きより、懐かしそうな眼差しだ。
一方のポーラは「まるで童話の世界に登場しそうな景色です!」と感動し、ガイルがドヤ顔で「すごいだろう! たまにはこうやって森の散歩もいいと思わないか」なんて言っている。やはり二人はいい雰囲気だ。
「ローゼン公爵令嬢。この場所で君に伝えたいことがあるんだ」






















































