王都へ
アルロンの暴挙から一週間。
私はローレンスと王都へ戻る汽車に揺られている。
この一週間でいろいろなことがあった。
まず、皇帝陛下に謁見したのだ!
皇帝陛下は奇しくもアルロンと同じシルバーブロンドにグレーの瞳と、見た目がとても似ていた。アルロンが実は皇帝陛下の実子ではないとは……誰も気づかないだろう。そしてその会話のテンポ、声音、発言内容。そこから分かるのは――優しい人だった。
アルロンの非礼を私に詫び、そして彼のことを本当の息子として憂慮していることが伝わってくる。だから私も今回のことを許し、アルロンの更生を願うと伝えることになった。
そのアルロンの処分については皇帝陛下は――。
「実はライアース帝国はスパイスの交易で親密な関係にある国があってな。南方の島国なのだが、おおらかな人々が多い。時の流れがゆったりしている。アルロンには五年ほど、そこに滞在することを命じた。視察と遊学を兼ねてな。きっと帰国する頃には日焼けして、性格も……変わるのではと願っている。あの子は実は絵を描くのが好きで、得意だ。南方のトロピカルな花や美しい海の絵を描くことで、あの子の心の在り方も変わるかもしれない」
前世では確かにアートセラピーが存在し、自由に絵を描くことで、ストレスや不安の軽減につながると言われていた。そして……。
「実は僕、絵は鑑賞し、歴史や背景を語ることはできるのですが、描くのは……。僕が描いた油絵を皇帝陛下に今度献上しますよ」
ローレンスのこの申し出に皇帝陛下は驚くが、納得もしている。
アルロンはローレンスに大いなるコンプレックスを感じていた。ローレンスが完全無敵の王太子であり、敵わないと思ったアルロンは、敵対心を自身の中で育ててしまった。
だが、一つでも、ローレンスに負けないと思えることがあれば……。
穏やかな人々に囲まれ、ゆっくりとした時の中で、好きな絵を描きながら過ごしたら。アルロンの気持ちも変わるように思える。特に、ローレンスの油絵を見たら、自信だって取り戻せ、彼への敵対心も収まるかもしれない。
ということでアルロンの処遇も決定。
皇帝陛下との謁見を終えると、彼の配慮でなんと皇室が保有する保養地――温泉地へ案内してもらえることになったのだ!
いろいろご迷惑をしたお詫びということだが、通常は皇室の方々しか利用できないのだから、大変スペシャルなこと。ローレンス、ガイル、ヘイスティングス、ベティ、トムと私と皇帝陛下がつけてくれた護衛騎士を連れ、保養地へ向かった。
数日の滞在だったが、温泉につかり、まったりして、美味しいものを頂く。
ライアース帝国に来てから初めて、心から寛げたと思う。
「アンやドリュー子爵令嬢も一緒だったら良かったよね」
ローレンスの言葉には強く同意。
ホリデーシーズンはみんなと温泉地に行きたいと思った。
ハウゼン王国も北部の山沿いの地域では、冬にスキーが楽しめ、温泉地もあると聞いていたから。
保養地は帝都から少し離れた場所だったので、戻るともう、ハウゼン王国へ帰国する日になっていた。
そして皇帝陛下夫妻がお忍びで駅まで見送りに来てくれて、私達は汽車に乗り込み、至る現在だった。
スカイブルーのセットアップを着たローレンスは向かいの席に座り、その隣には黒スーツ姿のガイル。
パステルピンクのドレスを着た私の隣には、クリーム色のドレス姿のベティが座っている。
ヘイスティングスとトムは通路を挟んだ席に向い合せで着席していた。
今朝は王都へ向け出発するということで、早朝から動いている。
さらに昼食を終え、丁度、眠くなる時間。
ガイルは涎を垂らしそうな顔で、ベティはウトウトと船を漕いでる。
そこで私はふと気になっていたことを尋ねる。
「殿下、一つ質問をしていいですか」
「勿論だよ、ローゼン公爵令嬢」
「私のこのイヤリングの宝石は、本物の“聖女の涙”ですよね」
ローレンスの膝の上で丸くなっていたリリィが、ぴくっと耳を動かす。
一瞬、人間の言葉が分かるのかしら?なんて思ってしまう。
「そうだよ。本物だよ」
リリィの頭をローレンスが撫でる。
「デビュタントの日にタイにつけていた碧い宝石は……」
「あれも“聖女の涙”だ。イヤリング、リング、ティアラに加工され、残った分で作られたのがタイを飾るピンだった。それを受け継ぐのは直系の嫡男だからね」
「なるほど」
ローレンスは父親からあの宝飾品を引き継ぐことで、その存在を知ることになった。だがアルロンは元はハウゼン王国の王族の一人だったとはいえ、嫡子ではない。ゆえに男性向けの“聖女の涙”を使った宝飾品があることを……知らなかったわけだ。
さらにアルロンは自身を歴史マニアだと言っていたが、自身がハウゼン王国の王太子になりたかったことで、“聖女の涙”についても詳しく調べたのではないかと思った。
そんな些末な疑問も解決し、汽車は王都へ向け、ひた走っていく――。
お読みいただき、ありがとうございます!
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応援くださる読者様に心から感謝です
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癒しのひと時をお楽しみくださいませませ(^-^)






















































