最後は紳士的に
ホテルに到着したが、話は終わらず、ローレンスの部屋で続きを聞くことになった。
内容が内容なので、やはり二人きりになる必要がある。
だがベティは少しそわそわしていた。
それを見たローレンスは……。
「ローゼン公爵令嬢には、まだ正式なプロポーズもしていない。それに僕は帝国の皇太子のような下衆野郎ではないので、たとえ部屋で二人きりでも変な気は起こさないよ」
そう言ってベティを宥め、続きを部屋で話すことができた。
そこでもローレンスは気遣いを忘れない。
ベティの気持ちを配慮し、ソファには私と隣同士ではなく、対面で座っていた。
そして話すことになったのは……。
ローレンスとアルロンの関係は分かった。
複雑な関係であり、勘違いもあり、誤解が解けて欲しいと願うものの。
アルロンは頑なになっており、そう簡単にローレンスに対する見方は変わらない気がした。
「実は皇帝陛下に既に謁見している。アルロンが暴走するかもしれないことは話していたんだ。そして皇帝陛下自身、アルロンがどんどん性格を歪ませていくことに憂慮されていた。婚約者探しと称して舞踏会で沢山の令嬢を侍らせることも心配していたんだ。一度地方に謹慎させ、そこでその考え方を改めさせることができないか、検討しているところだった」
私と一緒にいる時のアルロン。
令嬢を侍らせている気配は皆無だった。
何しろ舞踏会では私と会うとすぐに皇宮に戻っている。
誠実かと思いきや……。
本人が言っていた通り、理想の皇太子を演じていたに過ぎなかった。
「今回の事件を受け、皇帝陛下は間違いなく、アルロンに対して動く。ただ、隣国の公爵令嬢に無理矢理関係を迫ったということが公になれば、廃太子になる。でもそこまでは皇帝陛下も望んでいない。実子ではなくても、息子と思い、育ててきたから……」
そこでローレンスは少し複雑な表情を浮かべ、話を続ける。
「アルロンの行動は卑劣であり、ローゼン公爵令嬢の気持ちを踏みにじるもの。到底許せない。厳罰を求めたいし、廃太子となっても仕方ないと思う。ただ……」
深いため息をつくと、ローレンスは自身の考えを吐露する。
「君が襲われかけたこと、大事にはしたくない。なぜなら何もなかったのに、本当は何かあったのでは?と勘繰られる可能性もあるからだ。社交界では一度変な噂が立つと、尾ひれはひれがつき、広がってしまう。誇張されたり、偽の情報が加えられたり。君の名誉が汚されることは避けたい」
ローレンスが言いたいことはよく分かる。
貴族と言うのは名誉を重んじていた。
名誉を汚されたら、そのために決闘さえ厭わないという、まさに命懸け。
ローレンスだって私の名誉が汚されたら、決闘を厭わないと思うが、重要なのはそこではない。決闘で勝ち、表面的にはあの噂は嘘だったとなっても。一度された邪推は消えることはない。本人がいない場所で、当事者に隠れたところで、噂は囁かれ続ける。
そこは前世のネット社会に似ていた。
一度発信され、拡散されてしまった情報は、消えることがない。
しかもネット社会より辛いところ。それは情報がネットではなく、人の記憶に残される点だ。記憶と言うのは、完璧ではない。語る人により、内容が全く変わってしまう。脚色されていたり、嘘も平気で含まれてしまうのだ。
公爵令嬢は王太子と結婚前、隣国の皇太子に襲われ、姦通していた。本人達は否定しているが、真相は違う――なんて形で語り継がれてしまう恐れだってある。もはや真実は失われ、人々の好奇心で解釈されてしまうのだ。
それがアーサー王伝説のような物語ならまだいい。
冒険がよりドラマチックになり、楽しめる――ということもあるのだから。
でも当事者となると話は別。
アルロンに襲われていたなんて想像されるだけで、嫌だった。
ということで私も公になること、大事になることを願わないとローレンスに伝えた。
「うん。では水面下で処理してもらおう。既に帝都警備隊には、その前提で動いてもらっている。何せ逮捕されたのが皇太子。彼らも当然慎重に動いているから、そこは安心していい」
さすがローレンス。あの部屋に踏み込む前に先のことを考え、ガイルやヘイスティングスに指示を出していたのだと思う。
その後はお互いに気になっていたことを雑談のように話した。
胡散臭い水を売るシンジアー男爵から救ってくれた時のこと。私に名乗りたいが、帝国まで追いかけて来たと知られたら、嫌われるのではと不安だった。ゆえに突き放すような言動をとっていたこと。アルロンといる私を見て、ベティ同様飛び出しそうになり、ガイルやヘイスティングスに押さえられていたことなどだ。
ローレンスは完全無敵の王太子に思えていた。でもこれらのエピソードを聞くと……。彼の人間らしい一面を感じ、好感度はうなぎのぼり。
「さてローゼン公爵令嬢。そろそろ寝る準備をした方がいい。ベティも心配しているだろうからね」
最後は本当に紳士的にそう言って、ソファから立ち上がった。
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