この二つが意味すること、それは――。
ローレンス、アルロン、アンは三つ子だった。
そしてライアース帝国の皇妃は流産を経験し、子供を産めない体になっていた。
この二つが意味すること、それは――。
「秘密裏に父上と皇帝陛下の間で取り決めがなされた。兄だった僕はハウゼン王国の王太子に、弟だったアルロンは、ライアース帝国の皇族に引き取られ、皇太子となることが決まった」
その結果、対外的に王妃はローレンスとアンの双子を産んだと発表された。三つ子を産んだことは、一切漏らされることはなかった。その一方で、ライアース帝国では……。
皇妃は奇跡的に子宝に恵まれ、嫡子が誕生した。そういうことで話はついたのだと言う。
このことは一切口外されることなく、十五年間秘匿されてきた。
そしてローレンスとアルロンは、王国、帝国、それぞれの王太子、皇太子として育てられる。
その二人はしばし公務で遭遇することがあった。
すると年齢も同じであることから、居合わせた各国の王侯貴族や大使に比較される。
容姿しかり、性格しかり、成績しかり。
ローレンスは六歳の時、お茶会で私と会った。
そして私に一目惚れしている。
妹に親切にし、自身への関心はないにも等しい。
そんな令嬢、他にはいなかった。
よって最初は私への興味・関心。
そんな私への興味は、次第に好意へと変化していたったわけだ。
だが私は異性を寄せ付けず、王太子であるローレンスにさえ、よそよそしい。
ローレンスは私に好かれたい、相応しい人でありたいと願った結果。
様々なことに全力で取り組むことになる。
すると武術しかり、学術しかり、彼は優秀な成績を次々と収めて行く。
そんなローレンスと比較されてしまったアルロンは……。
「帝国の皇太子は凡庸ですな。可もなく不可もなく。でもそれが平和な世の中には一番なのかもしれません」
そんな風に噂されていることを知ったアルロンは、ローレンスのことを敵対視するようになった。
公務で会うことがあっても、素気ない態度をとり、上辺だけの儀礼的な挨拶しかしないようになる。
その身分、年齢、国力はそう変わらない二人なのに。
周囲の評価は圧倒的にローレンスが高い。
焦ったアルロンは部下に調べさせ、一つの答えに行き着く。
唯一勝てそうなことがある。
それは……令嬢からの人気だ。
というのもローレンスが私に全力になった結果。
他の令嬢への関心が、全くなくなる。
妹のアン王女、クラスメイトで共に行動するドリュー子爵令嬢、そして私。
それぐらいしか彼の周囲に令嬢はいないのだ。
勿論、デビュタントに登場した時。
ローレンスは引っ張りだこだった。
普段、接点を持たせてもらえないので、令嬢達もここぞとばかりに彼に群がったわけだ。
一方のローレンスは「参った……」と思っていたようだが……。
それはさておき。
令嬢からの人気・評判なら自分が勝てると考えたアルロンは、さらに自分の人気を高めるために、婚約者候補を国内外で求めることにしたのだ。
つまりは人気取りのために始めたことだった。
本命は国内の公爵家の令嬢ではないか。それはいわゆるスパイの調査結果として上がって来ていた。でもそんなことを知らない令嬢達は、夜な夜な舞踏会へ足を運んでいたわけだ。
そのアルロンであるが、本命としている公爵令嬢とは完全に政略結婚で、愛情などなかった。利害でのみ、結婚する関係。
だが……。
アルロンは知ることになる。
ライバル視しているローレンスのことは、それこそ特殊警察機構を使い、調べさせていた。そこで“聖女の涙”のイヤリングをつけた令嬢=私がデビュタントに登場したことが、報告として上がってきたのだ。
そこで分かったこと。
それはローレンスが、たった一人から愛されることを願っていることだ。多くの令嬢から言い寄られることに、関心はない。人気とりなんて、するつもりがなかったのだ、ローレンスは。
アルロンは気付いた。
ローレンスは本気で一人の女性を愛していると。
これはアルロンを大きく焦らせることになる。
いろいろ比較され、唯一ローレンスに勝てると思った令嬢からの人気。だが当のローレンスは、令嬢からの人気など一切気にしていない。気にしているのは、ただただ“聖女の涙”のイヤリングを贈った私に対してのみ。
本気で一人の女性を愛すること。
それはアルロンができていないことの一つでもあった。
結局。
全てにおいて、アルロンはローレンスに勝てないと悟る。
だが、負けなんて絶対に認めたくない。
そこで自分が勝てない原因を、アルロンはあることに見出す。
つまり。
それは。
環境のせいなのではないか――と。
アルロンは自身の性格や思考法を棚に上げ、自身の仮説を検証する。
ライアース帝国の皇太子には、ローレンスがなればよかったんだ。
もしも自分がハウゼン王国に残っていたら、可愛い妹がいて、最愛の婚約者を得ることができた。実父と実母から愛情を受け、ローレンスのように育つことができたはずだ。
だが全てローレンスが奪った。
実の両親も妹も。最愛の存在も。
そんな歪んだ考えをしているアルロンの所へ、何も知らない私は……のこのこ向かってしまった。
まさに鴨が葱を背負って来る――だったわけだ。






















































