その理由
結局私は「打開策が見つかった!」と大喜びでライアース帝国へ向かったわけだけど。
ローレンスの手の平の上で、転がされていたわけだ。
それについてはいろいろと思うところもある。
だが今はそうではなく。
「そもそも男性を避け、殿下さえ寄せ付けないようにしていたのには……理由があるんです」
「どんな理由なの?」
「それは……」
当然だが乙女ゲームのことや前世のことは話せないので、夢で見たということで話すことになる。
「物心ついた時から繰り返し見ている夢があったんです。それは私が誰かと結婚すると、この国や世界を滅ぼそうとする息子を産んでしまうという夢。とてもリアリティがあるんです。はっきりとその子供の姿も見えていて……」
これを聞いたローレンスは驚き、でも冷静に分析する。
「なるほど。夢は非現実的と無視することはできない。どこの国でも聖人や主にまつわる話で夢は不可欠。夢枕に立った天使の教えで島に修道院を建てたとか、夢の中でのお告げで聖人が誕生したとか。そんな話はよく聞くこと。何度も見るその夢。何かの啓示なのかもしれないね」
「そうなんです。ただ、産まれる子供の顔や成長した姿は夢でも見るのに、肝心の結婚相手が分からなくて……。その姿を夢で見ることはなく、何の情報もありません。大勢の命を奪うような息子を誕生させてはならないと考えました。その結果、男性を寄せ付けないようになったのです。殿下を含め」
これを聞いたローレンスは、私への理解を示してくれる。その一方で、疑問も提起する。
「なるほど。平和のため、独身でいないといけないと思ったわけだ。だから僕の気持ちもかわすような態度を……。でも今回、ライアース帝国を旅先に選んだ理由は? その夢の件と何か関係があるの?」
鋭い。まさにその通りなので私は「はい」と返事をする。
「それは私の勘違いというか……。危険な息子が誕生するのは、ハウゼン王国の男性と結婚した場合のように思えたのです。他国の男性なら問題ないのでは?と考えていました。そんな折、殿下からプロポーズされるのではという事態になり、焦りました」
「つまり僕がプロポーズしたら、君は受け入れるしかないと考えたわけだ。さらに僕のプロポーズを覆すには、王太子である僕と対等、もしくは上回る地位の人物ではないと無理なことに気づいた。するとライアース帝国では、皇太子が婚約者を大募集している。つまり君はよりもよってアルロンの婚約者になれないかと考え、帝国へ向かったのだね」
「その通りです。浅はかな考えをしてしまったと思います」
するとローレンスはことさら秀麗な笑みを浮かべた。
それは星明かりを受け、ゾクッとするものである。
「正確には君と僕は既に婚約が内定しているから、今さらアルロンが君を婚約者にするとしても、却下だけどね。それに婚約が内定していなかったとしても、アルロンが君との婚約を言い出したら、戦争を厭わない態度で臨むつもりだったけど?」
これには大いに焦ることになる。
闇落ちするアレクシス云々を言っている場合ではない!
アレクシスより先にローレンスが闇落ちして、戦争が勃発。
多くが犠牲になるところだった。
「それに」
そう言ったローレンスが不意に私を抱き寄せた。
ぐんと彼との距離が近くなり、私は大いに焦ることになる。
「アルロンはただ書面上で君を婚約者にするでは終わらなかったわけだろう? こんな場所に印をつけられて。僕がどれぐらい頭に来ているか、分かる? さっきの戦闘ではかなりアルロンの急所を痛めつけたつもりだけど……足りないな」
何のことかと思ったけれど、間違いない。
アルロンは首筋にキスをしていたから、きっとキスマークが……残っている。
「それで結局、ローゼン公爵令嬢の中ではどういう結論に至ったのかな? 僕というか、ハウゼン王国の男性と結ばれたら、世界を不幸に陥れる子供の生みの親になってしまう。そうならないためにアルロンの婚約者なることを考えた。だがアルロンは婚約するより前に、君の体を奪おうとしたわけだ。それが怖くて、アルロンの婚約者になることは諦めた、ということ?」
「ライアース皇太子殿下は、殿下のことを嫌っていました。嫌いを超えて、全てを奪った憎い男とも言っていたのです。そして私の純潔を奪っても、婚約するつもりはないと言いました。ただ、殿下を苦しめるためだけに私に手を出すと言われたのです。それを聞いて気付きました」
「アルロンがとんでもない悪党だと気がついたということ?」
「それもそうですが」と言い置いた後、私はアルロンが私に話したことを全てローレンスに伝えた。
つまりアルロンとのたった一度の過ちで子供ができたなら、その子供に不幸の種を植え付けると言っていたことを。将来的にその子供がローレンスのことを憎むよう、仕向ける計画をしていることを。そして私の夢がもし予知夢であるならば、アルロンが語ることは現実になると思うと告げたのだ。
さらに出産と共に、私は命を落とす――ことも伝えた。
「つまりアルロンと君にもしもがあれば、君はお産で亡くなり、その息子が僕とこの国を滅ぼす未来が待っていると気付けたわけか」
「そうですね」と頷くと――。






















































