あの時の……!
その時だった。
あの真っ白なリスが現れたのだ!
するとローレンスは指を鳴らす。
真っ白なリスはローレンスの所へ来て、その尻尾をふわりと振る。
よく見ると伝書鳩のように、マッチ棒程の何かが足に括りつけられていた。
ローレンスがポケットから取り出したナッツを与えながら、その何かを外すと……。
小さなサイズの手紙だ。
「下でガイルとヘイスティングスが動いてくれているので、話す時間は取れそうだ。帝都警備隊への事情の説明など、彼らがやってくれる」
「え、二人も来ているのですか!?」
「僕の供として、黒髪と金髪の男性が二人いただろう? 僕と同様、変装をしていたけど、ガイルとヘイスティングスだよ」
ガイルとヘイスティングスは、ローレンスにとって学友であり、護衛であるが、腹心でもあるということ。将来この二人が、国王となったローレンスを支えるに違いない。
ローレンスの上衣のポケットは魔法のようで、短い鉛筆と紙を取り出すとすぐに返信を書き、白いリスの足にとりつける。頭を指で優しく撫でると、リスは鳴き声をあげ、走り去っていく。
「伝書鳩ではなく、白いリスを使われているんですね」
「伝書鳩はあまりにも有名で狙われやすいからね。あの子ならネズミや子猫に間違われることもあるし、捕まりにくい」
「ライアース・コロシアムでも見かけたのですが」
上衣を脱ぎながらローレンスはとんでもないことを明かす。
「あの子は特別なんだ。王家で飼っているリスだけど、代々白いリスが産まれる。名前はリリィで襲名されているんだ。白いリスは”聖女の友”とされ、“聖女の涙”の跡を追える特殊な力があるんだよ。あ、“聖女の涙”。どうせアルロンが話したのだろう? 知っているよね、ローゼン公爵令嬢」
その通りなので頷くと、ローレンスは苦笑する。
「ともかく“聖女の涙”と呼ばれる宝石には、リリィが引き寄せられる何かがあるのだろうね。そしてその跡を追うことが出来る……。渡り鳥が本能的に渡りをできるように。鮭が産まれた場所を忘れないように」
なるほど。
今の一言で重要なことが明らかになっている。
“聖女の涙”は本物だった。
婚約が内定しているのだから本物で……当然なのだろう。
むしろ六歳で婚約が内定しているのに、“聖女の涙”のイヤリングを渡すのに十年近くかかっているのは……私への配慮なのだろう。
婚約や結婚を冷静に考えられる、世間的に大人と見なされる年齢になってから。きちんとデビュタントで大人の仲間入りをしてから、改めてプロポーズをするつもりだったわけだ。
そんな気遣いをしてくれたローレンス。そしてライアース・コロシアムに向かった私のことを、白いリスのリリィは追跡していた。ということは……。
「もしや王都を出発した時から……もしや同じ汽車に殿下もいたのですか?」
ローレンスは脱いだ上衣を広げると、そこに私へ座るように促す。
ドレスはボロボロなので処分することになる。
汚れが増えようが関係ないのだけど、こうやって気遣ってくれるところは……。
やはりローレンスらしく、そして優しい。
「君がライアース帝国に行くと言い出したことは、すぐに君の両親から報告された。二人は大反対だったけど、僕が許可したんだ。君には僕のそばにいて欲しい。でも物理的に縛り付けるようなことはしたくなかった。それに君が動くなら、僕も動けばいいと思ったから……」
「殿下が動く……。公務や王太子教育もあるのに」
「そうだね。ここに滞在中も可能な限り対処しているよ。そこを心配してくれるなら、水晶宮に行くのを楽しみにして、大人しくしてほしかったな」
苦笑しながらローレンスは、私が座れるよう手を貸してくれる。
ごく自然にそうしてくれるローレンスに、胸がキュンとしてしまう。
彼を最初から信じていれば良かったと思うが、過去には戻れない。
今は前へ進むしかない。
ということでローレンスが隣に腰を下ろすと、私は全てを打ち明けることにした。






















































