どこか甘く優しく
「ローゼン公爵令嬢。申し訳ない気持ちがあるなら、全てを打ち明けてくれるかな」
初めて聞く美貌の青年の声。
凛としているが、どこか甘く優しく。
聞き慣れた懐かしい声だった。
「え、嘘……」
「嘘、ではないよ。夢でもない。現実だよ」
そう答えた美貌の青年が、ハンカチを持った私の手をぎゅっと握りしめたと思ったら……。
そのまま私を抱き寄せる。
ぎゅっと抱きしめられ、感じる安心感。
彼の言う通り、これは夢ではない。
現実。
「殿下、どうしてライアース帝国に……?」
「愚問だね。僕の大切な人が突然、他国に一人旅。よりにもよってアルロンのいるライアース帝国に向かった。放っておけるわけがないよね?」
これには驚愕する。
両親にはローレンスには知らせないでと頼んでいたのに!
「ローゼン公爵令嬢。申し訳ないけど僕は、政治的に立ち回ることには長けているんだよ。王太子教育は四歳からスタートしている。根回しもしっかり行うし、何よりも君のご両親は、王家にとっては遠縁であり、忠臣。君と出会った六歳の時からずっと。その日に向け動いていた」
「えええっ」
驚いて彼の胸から顔を上げると、ローレンスは片眉をくいっとあげ、ため息をつく。
「えええっ、ではないよね? 君がデビュタントを経て、大人の女性として認められてから正式に伝えるつもりだった。君と僕は六歳の時に、既に婚約が内定しているんだよ」
これにはフリーズしてしまう。
そんなこと一切、聞いていなかった。
「勝手なことをして申し訳ないと思っているよ。ただ君は男嫌いで、王太子である僕のことさえ寄せ付けないようにしていた。さらに君からは、思い立ったらあっさり全てを切り捨て、どこかへ行ってしまいそうな恐ろしい程の潔さを感じていたから……。だから、だよ。君を僕の元に縛るものが欲しかった。ゆえに父上に頼み、密かに婚約内定を、君の両親との間で進めたんだ」
「そんな! 勝手にひどいです! どうしてそんなことを!」
「うん、ひどいと言われれば、ぐうの音も出ないな。その通りだと思う。ごめんなさい。でも理由はシンプルにこれだけ。君を好きだから。君を愛しているから」
プロポーズは水晶宮でされると思っていた。
でも、今、ローレンスは明確に私への気持ちを表明している。
「僕の心は一途に君を想い、成長してきた。君に相応しい者になろうと、厳しい剣術の訓練も、王太子教育にも耐えている。僕としては最善を尽くしているつもりだけど、何が足りないのかな。どうすれば君は、僕の手を離れようとするのを止めてくれるの?」
これにはもう「ごめんなさい」だった。
ローレンスに足りないところなどないと思う。
これ程の努力家はいないだろうし、努力しても、必ずしも成果につながるわけではないのだ。
でも彼は着実に成果を出し、完璧王太子に近づいていた。
既に婚約内定を私の両親と進めていたのは……行き過ぎだろうが、それも理由があった。
私が彼を慎重に避け、すり抜けようとしていたから……。
勘のいいローレンスは全てを見抜き、私をとどめようとしただけだ。
それに私はここが恋乙女というゲームの世界であり、自分の行く末を前世記憶で知っていた。ゆえに必死の回避行動をとっているつもりだった。結局、それは空回りであり、ローレンスの気持ちを素直に受け入れることこそが、回避につながる――というのは今となって分かったこと。
遅い!と思うが、今ならまだ間に合う!
「殿下、申し訳ありません。それについては弁明をさせてください。話すと少し長くなりますが……」
その時だった。
あの真っ白なリスが現れたのだ!






















































