どんな因果が
理想とする皇太子を演じた……?
「ローレンス・ジョセフ・ハウゼン。奴のことがわたしは嫌いなんですよ。嫌い……だけでは収まらないかな。わたしから全てを奪った憎い男。奴の不幸のためにあなたは……犠牲になる」
「な、何をおっしゃっているのですか!?」
「あなたは確かに美しい。それに性格がきつくない。帝国の公爵令嬢なんて、言葉は砂糖菓子だが、その味はとんでもない苦さ。つまり辛辣な言葉を、平気で笑顔で言えるような女ばかり。だがあなたは違う。奴が好きになりそうな令嬢です。わたしは……嫌ではないですよ。だからこそあなたを抱くことが出来る。気持ち良くね。でもそれでおしまいです。あなたが身籠ってくれるといいのですが……」
心臓がバクバクと激しく、頭もジンジンしている。
考えが……上手くまとまらない。
「奴は心からあなたを愛しているのです。たとえわたしにその身が穢されたと知っても、あなたを受け入れるでしょう。わたしとしては……そうですね。あなたが妊娠してくれていたら、その子供に不幸の種を植え付けますよ。あなたは本当はわたしを好きだった。でも奴がわたしとあなたの仲を引き裂いたとね。疑いの心なんて一度芽吹いてしまえば、勝手に育ってくれます。子供は奴を恨み成長してくれる……いつか不幸の花が咲いてくれるといいのですが……」
アルロンは……理由は分からない。
でもローレンスのことを嫌っている。
全てを奪ったというが、アルロンは皇太子。
恵まれた身分だ。
それなのに奪われたって……。
二人の間にどんな因果があるのか。
私は知る由もない。
だがアルロンはローレンスを嫌い、彼の不幸を願っているんだ。
そのために、彼が愛する私に手を出そうとしていた。
手を出した上で、私を捨てる。
だがローレンスはそんな私を受け入れ……。
私はきっと妊娠してしまうんだ。
そしてそれが闇落ちする息子アレクシス……。
アレクシスはアルロンに嘘の情報を刷り込まれ、それを信じてしまう。
そしてローレンスがアルロンと私を引き裂いた悪者と思うようになるのでは?
しかも私は出産で死亡する。
何が真実か分からないまま、アレクシスはローレンスを恨み続け……。
ローレンスに反逆すること、ハウゼン王国を滅ぼすことを願うようになるのでは?
多くの民の命を奪うアレクシス。
彼が闇落ちするのはアルロンのせい。
そしてアレクシスはローレンスとの間に産まれる子供ではないんだ。
アレクシスの父親はアルロン。
諸悪の根源はアルロンだった……!
私はバッドエンドを回避しようしていた。
でもとんでもない。
飛んで火にいる夏の虫になっていたのだ。
「では、嘘偽りのないわたしのことを知っていただけようですから、始めましょうか」と顔を近づけるアルロン。確かに嘘や偽りがない姿がいいと言ったものの……。こんな真実の姿、見たくなかった。
「!」
アルロンがキスをしようとしていると分かり、顔を動かし、それを避ける。
「はっ……! 皇太子であるわたしからのキスを拒む令嬢がいるとは!」
手首を掴んでいた手を離すと、乱暴に私の顎を掴み、自身の方へと向ける。
「奴はきっとあなたを宝物のように扱うのでしょうね。わたしもそうするつもりでいましたが……それでは芸がないです。わたしの趣味ではないですが、少々乱暴にさせていただきますよ」
そうはさせまいと私は声を上げ、暴れる。
この騒ぎを一階にいるベティやトムが気づいてくれればと思ったのだ。
「二階の個室の一部は、そういうことをするための部屋なんですよ。声を上げたり、暴れても、『あの部屋のお客様は、随分と激しいですね』でおしまいです。それに一階ではショーもある。あれは一度きりではなく、時間をあけ、繰り返し開催される。それにお酒が入った客は声が大きくなるもの。いくら頑張って暴れて叫んでも、助けは来ないですよ」
そう言って私の口を押さえ、腕を掴むアルロンの息は上がっている。
私だって同じだ。
まだそういう行為をしていないのに。
まるでそれをした時かのように、アルロンと私は息遣いが荒くなっている。
そんな状況の中、必死で考えた。
力では敵わない。
いくら抵抗しても、起き上がることすらできていなかった。
ただドレスは着崩れ、乱れて行くばかり。
レースやフリルも破れている。
ドレスは繊細に作られているから……。
「こうやってじゃれあっているだけでも、わたしは興奮できました。無理矢理……というのは、どうもそそるものですね」
最悪だった。
「でもお遊びはここ迄です。タイムリミットもありますから」
そう言うとアルロンが短剣を取り出した。
時間制限があるから、脱がせるのが手間なドレスは短剣で引き裂くということ!?
「動けば、ドレスだけではなく、あなたの肌も引き裂くことになります。大人しくしていた方がいいですよ」






















































