不本意ながら
「ティアナ、アン王女から招待状が届いたよ」
父親からそう言われた瞬間。
ギクリとしてしまう。
だって。
間違いないから。
その招待が何であろうと、行けばそこにはもれなく王太子、騎士団長と宰相の息子がついてくる!
絶対にアン王女以外もいるのだ!
そういった招待。
参加しても私はアン王女にべったりを心掛けている。
そして基本的に例の三人、ローレンス、ガイル、ヘイスティングスは、そんな私とアン王女を見守っている。何か干渉してくることはなかった。とはいえ、多少の会話はある。それでも最低限で留めることができていると思うが……。
男性を寄せ付けない計画なのに!
寄りにもよってこの三人と接点を持つのは不本意でならない。
だがあくまで、お誘いはアン王女から来るのだ。
よって断りにくい!
かといってアン王女に、「お兄様と騎士団長と宰相の息子は呼ばないでください」なんて言えるわけもなく。
非常に困った事態になっていた。
「ティアナ、アン王女からの招待。行くのだろう?」
父親はアン王女から招待状が届く度にそう聞くが、一度たりとも「ノー」と答えていない。つまり「イエス」しか答えがないのに、笑顔で尋ねるのは……!
だが現在、まだ六歳の子供。
うがった見方はできないし、ここは笑顔で「……行きます」と侍女のスカートの影に隠れながら答える。
屋敷の外では男性を避けきれないが、屋敷内では継続して「男子ダメ」は維持している。
こうして冬晴れの日曜日の朝。
指定された場所に、馬車で向かうことになった。
そこは王都の中心部、宮殿がある場所からはかなり離れたエリアだ。
その場所が近づくと、道には二日前に降った雪が左右にかき集められ、塀のようになっていた。
王都はすぐに雪かきが行われ、馬車道や歩道に雪は残っていない。でもこの辺りは民家はそこまで多くはなく、雪もまだ残っていた。
そしてこの日。
集合するにあたり、ドレスコードの指定があった。招待状にはこう書かれていた。
『 今回は屋外にいる時間が長いので
暖かい服装でお越しください。
・手袋、マフラー、帽子はお忘れなく。
・厚手のコート、毛皮のコートがおススメです。
それではお気をつけていらしてくださいませ。』
ドレスはスカートがキルティングになっているものを選び、コートはムートンで、襟、袖口、裾にはファーがついている。毛糸の手袋と帽子を被り、装備は万全だ。馬車で移動中もぽかぽかだった。
指定された場所に到着すると……。
そこは丘の麓。
丘にはしっかり雪が残っている。
「ローゼン公爵令嬢!」
馬車から降りた私に、アン王女が駆け寄る。
王女は毛皮の帽子に毛皮のコートととても暖かそうな装い。
そのアン王女の後ろには……。
王女同様の毛皮の帽子に毛皮のコートの王太子ローレンス。毛糸の帽子に厚手のコートの騎士団長の息子ガイル。毛皮の帽子にウールのコートの宰相の子息ヘイスティングス。
やはりあの三人がいる!
「ローゼン公爵令嬢、こちらへ来て!」
アン王女が私の手をとり、歩き出す。
どこへ向かうのかと思ったら――。
雪が残る丘を登って行く。
しかもよく見ると、丘のてっぺんには、兵士や騎士がいるではないか。
「ローゼン公爵令嬢、ソリをやりましょう。やったこと、あるかしら?」
アン王女が嬉しそうに私へ声を掛けた。
ソリ!
前世では何度かやったことがある。
と言ってもそれは子供の頃の話。
この世界ではまだソリで滑ったことはない。
「ソリは知っていますが、滑ったことはありません」
「とっても楽しいのよ。でも初めてなら私と滑るより、お兄様と一緒がいいと思うわ。お兄様は慣れていて、安定しているから」
「えっ」と思ったが、「いえ、結構です」なんて言えない。
お兄様=王太子なのだ!
しかも待ったなしでソリが用意され、滑る状況になってしまう。
「ローゼン公爵令嬢、では早速滑ってみようか」
王太子であるローレンスに声を掛けられてしまった。
見るとアン王女は、宰相の令息ヘイスティングスと共に、ソリに乗っていた。
ガイルは一人で既にスピーディーに滑っている。
そんな様子を横目で見ながら、ローレンスの問いかけに答えた。
「……お願いします」
ローレンスが手袋を付けた手を差し出してくれた。
そしてソリのそばまで私をエスコートすると、まずは自身がソリに座る。そして前に私が座るよう、促す。
男性との接点を避けようとしているのに!
まさかローレンスとソリに一緒に乗るなんて……。
そう思うがローレンスに「ローゼン公爵令嬢、さぁ、乗ってください」と言われ、腰を下ろす。
背後にローレンスがいるのかと思うと、急に緊張感が高まる。
「止めるために足のかかとを使うんだ。こうやって押し付けると止まる」
ローレンスが説明を始め、私はそれを聞くことになるが、彼との距離の近さにドキドキしてしまい、あまり頭に入ってこない。
「……どうしても止まらない、となったら横に転がるといい。雪の上を転がることになるけど、ここの雪はまだ新雪。硬くないので安心していいよ」
「分かりました」
話半分で聞いてしまったが、前世では問題なく滑れていた。何も問題ないだろう。
「では出発するよ」
「は、はい」
ローレンスが足を動かし、ソリごと前に前進させたところ……。
「!」
ふわっとしたのは一瞬で、想像より丘は斜面だったようだ。
ソリは加速して、勢いよく、滑り降りていく。
そのスピードに驚き、私は悲鳴を上げることになる。
「落ち着いて、ローゼン公爵令嬢」
ローレンスが声を掛けてくれるが、その速さに驚いた私はそれどころではない。
私の状況に気がついたローレンスはソリを止めようとしたが……。
私が体を強張らせたので、変な角度にソリが傾く。
そして滑っていくその先にはーー。
少し大きめの岩が雪から顔を出している……!
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