致命的な事実に気がつく
アラビアンナイトなひと時を過ごせそう。
なんてお気楽なことを考えている場合ではなかった。
私がライアース帝国に来た目的。
それはなんであったか!
ローレンスと婚約し、結婚すれば、私は闇落ちする息子アレクシスを身籠ってしまう。アレクシスは多くの国民を死に至らしめ、私は出産で死亡する。
ローレンスと結ばれる未来=私にとってのバッドエンド。
彼からのプロポーズはなんとしても避けなければならない。
だがプロポーズを回避することは、生易しいことではなかった。
なぜならローレンスは王太子。
そして……私のことを好きなのだ。
その身分をもってしてプロポーズされたら最後、快諾しかなく、そこからは破滅ルート一直線。
それを回避するには、王太子と同じぐらいの身分の人物と先に婚約するしかない。
だが国内にそんな人物はいない。
そこで白羽の矢を立てたのが、ライアース帝国のアルロン・レイモンド・ライアースだった。
折しも彼は婚約者を求めていたのだ。
ならばアルロンの心を射止め、彼の婚約者になろう。
そうなればさしものローレンスも、私に手を出させない。
という計画だったはずなのに!
アルロンに私はローレンスの婚約者(内定)と思われてしまった。
他国の王太子の婚約者に手を出す=宣戦布告だ。
つまり。
私の計画は崩壊したことを、砂漠の民の民族料理を出すお店に向け出発したところで気づいてしまったのだ。
「ローゼン公爵令嬢、顔色が優れないようですが、お疲れですか?」
「いえ、そんなことはありません! これは……その、お腹が空いて……」
「ああ、そうでしたか。ならばお店に着いたら、思う存分召し上がってください」
濃紺のスーツに着替えたアルロンの言葉には、半笑いで頷くしかない。
そしてお店に着いてからは、紹介されるメニューに「美味しそうですね」と機械的に答え、頭の中では必死に打開策を考えている。
でも……無理だった。
アルロンの中で私は、ハウゼン王国の王太子の婚約者(内定)。
永遠の平行線で関係進展は見込めない。
そうなるとこのままベティとトムをまいて、帝国内のどこかの村にでも逃亡する……そんな非現実的なことを考えてしまうが……。
ダメだ。
今は考えるのを止めよう。
食事に集中!
ということでなんとか砂漠の民族料理に意識を向ける。
スパイシーな調味料で食べるマトンの串焼き。
ヨーグルトで和えられたキュウリとトマトのサラダ。
珍しいコメ料理……サフランライスのスパイシーなチキンのせなど、確かに普段食べる西洋風とは違う料理が次々と登場する。
「ローゼン公爵令嬢は、砂漠を見たことがありますか?」
「砂漠では、ラクダという動物が馬のように、人と生活をしているそうですよ」
「デーツというドライフルーツが、砂漠ではよく食べられるそうです。頼んでみますか?」
アルロンが積極的に話しかけてくれる。
さらに店内には民族楽器で音楽を奏でる楽団も登場。
それだけではない。
踊り子まで登場し、実にセクシーなダンスを披露してくれるのだ。
このお店が人気の理由に納得することになる。
まさに前世で言うなら、エンターテイメント型のレストランだった。
ひとしきりのショーが終わり、客は拍手喝采。
デザートや飲み物が届き、歓談のひと時が戻るが、踊り子たちはちょっとしたアクセサリー、シルバーの鈴のついたブレスレットやアンクレットなどの販売を始めた。
お酒を飲んでいるお客も多い。
さらにショーを見て盛り上がっている。
何より踊り子のお姉さんの衣装は大変セクシー。
言うなれば、前世でいうビキニにパレオを巻いて、店内を練り歩いているようなものなのだ。
特に男性客が喜び、アクセサリーはどんどん売れている。
そんな様子はただ眺め、終わるのかと思っていた。
だが……。
「よろしければ侍女の方とローゼン公爵令嬢に。旅の思い出に」
アルロンはシルバーの鈴のついたチャームをベティと私の分でプレゼントしてくれたのだ。
高価な宝飾品を贈られたら、受け取りにくい。
だが踊り子が余興のように販売するもの。
気軽に受け取ることが出来る。
ベティとトム、クロウは離れた席で私達を見守っていた。
だがチャームをプレゼントされたと分かると、笑顔になっている。
「ライアース皇太子殿下、ありがとうございます。この日の思い出に大切にしますね」
「これならあなたの未来の夫君も嫉妬はしないでしょう」
そう言うとアルロンは少し寂しそうな表情を浮かべる。
「……一目惚れ、だったんですよ」
「? このチャームに、ですか?」
「違いますよ、あなたに、です」
「えっ」
アルロンはミントティーを口に運び、唐突に私に打ち明ける。
「ライアース・コロシアムであなたを助けた時。最初はそのお姿に心を惹かれました。次にわたしに媚びることなく、懸命に御礼の気持ちを伝えたいというひたむきさに、さらに好感度が増して……。でもすぐにそのイヤリングに気付き、わたしには手の届かない女性であると分かりました。それでも気持ちが……収まりませんでした」






















































