氷河湖観光を満喫しよう
翌朝。
いろいろと思うところがあるが、眠ることでリセットされた。
皇太子であるアルロンは、決して暇ではない。
世直し的なこともやっているようだし、公務だってあるだろう。
忙しいだろうに、私のために時間を作ってくれた。
そして氷河湖へ案内してくれるのだ。
ここは彼の好意に感謝で応え、氷河湖観光を満喫しないと!
そのために用意したのは……フルーツジュース!
とにかくフルーツを切って絞ればできるので、少し早起きをして用意した。
完成したのはピーチとアプリコットのフルーツジュースだ。
正直、公爵令嬢が皇太子に用意するものがフルーツジュースなんて、どうかと思うものの。
胃袋を掴むは基本だと思う。
それは世界が変わろうと不変と信じた。
大丈夫。
いけるはず!
それに。
昨晩の今朝では、気の利いたお店はまだ開いていない。
やっているのはマーケットぐらいだ。
朝食は用意してくれると言われている上に、ホテルの厨房を使えるわけではない。ホテルの部屋でなんとか用意できるのがフルーツジュースだったが……。
「ピーチとアプリコット、合いますね! 美味しいですよ、お嬢様!」
「果樹園で、もぎたてのピーチとアプリコットを齧っている気分になれますよ、お嬢様。旨いです!」
ベティとトムのお墨付きをもらえたので、安心し、素早く着替えを行う。
シャーベットグリーンのワンピースは、メロンシャーベットような色合い。
スカートはくるぶし丈で、カラメル色のショートブーツを合わせた。
これなら森の中でも、比較的歩きやすいだろう。
フルーツジュースをいれたガラス瓶を籠に入れ、クリーム色のドレスを着たベティと白シャツにスモークブルーのベストとズボンのトムと共に、ホテルのロビーに向かう。
丁度、朝食の時間なので、ロビーに人の姿はほとんどない。
そこでふと思い出す。
美貌の青年のことを。
このホテルにあの青年も宿泊していて、そして今はきっと――。
またもレストランの半分を貸しきりにして、朝食を摂っているのだろう。
人との関わりを持ちたくないのに、舞踏会に参加しているのは不思議。
あ、でも、多くの人とは関わりたくなくても、身分的に社交ゼロにはできないのだろう。限られた人達と交流を持つために、舞踏会へ参加していたのかしら……?
そんなことを思っていると。
シルバーブロンドの髪に、青みを帯びたグレー……スカイグレイの瞳。
パールグレイのセットアップをまとうのは、スラリとした長身の男性だ。
そばには黒髪に短髪の青年がいる。
思わず目を引くのは、その姿勢の良さと醸し出されるオーラのせい?
ううん、違う。
どこかで見たことがあるような……。
「ローゼン公爵令嬢、おはようございます」
「ライアース皇太子殿下……! おはようございます!」
慌ててカーテシーをすることになった。
同時に。
彼が変装を解いた、ライアース皇太子として、この場に登場したと理解する。
「皇太子殿下、おはようございます!」
ホテルのフロントにいたスタッフも一斉に頭を下げた。
◇
ロビーには人が少なくて本当に良かったと思う。
なぜならもし大勢がいる時間だったら、皇太子が現れたと、それはもう大騒ぎになっていたと思うからだ。
アルロンはホテルのスタッフが集まるのを制し「ここへは私人として来ているから、特に何もしないで欲しい」とすぐに伝えた。するとスタッフは「かしこまりました」と応じ、以後は見てみぬふりをしてくれる。するとアルロンは私の手を取り、エスコートしながら出口へと向かう。
こうして馬車へ乗り込み、出発となった。
「わたしのこの姿、大丈夫でしたか?」
私の対面にアルロン、彼の隣に護衛騎士のクロウ。
四人乗りの馬車だったので、ベティが私と一緒に乗り込み、トムは別の馬車で移動となる。
そして今アルロンは、馬車が走り出すと、自身の姿について私に尋ねたのだ。
尋ねられたものの、私は何のことかと首を傾げることになる。
「かつらとメガネをとったこの姿に、がっかりしていませんか?」
「!? がっかりなどするわけがありません!」
「そうですか。ちなみに変装した姿と今の姿、ローゼン公爵令嬢の好みはどちらでしょう?」
まさかそんなことを聞かれるとは!
見慣れているのは黒髪にメガネ姿だった。
だが今の姿は……。
皇太子としてのオーラを完全に出しているせいもあり、やはり目を惹かれてしまう。それに偽らない今の姿がいいと伝えると……。
「偽らない姿……。そう言っていただけるのは嬉しいですね」とアルロンは笑顔になる。
「では朝食を食べましょうか。お腹がペコペコなのでは?」
「はい。それとですね……」
そこで私がフルーツジュースを用意していることを伝えると……。
アルロンは驚き、でも喜んでくれる。
だがここはまず毒見も兼ねてということで、護衛騎士のクロウが、フルーツジュースを飲むと……。
「とても美味しいです」とクロウが表情を和らげる。これを見たアルロンは「ぜひわたしにも飲ませてください」とフルーツジュースを口に運ぶ。
氷河湖へ向かう道中は、このフルーツジュースもあり、実に和やかな雰囲気になった。この後もきっと、楽しく観光できるはず。
そう、私は思っていたのだけど……。






















































