とんとん拍子だが……
まさかの会いたくて会えなかった皇太子が、謎の貴公子とイコールだった。
しかも彼……アルロン・レイモンド・ライアースの方から、氷河湖への観光案内を申し出てくれた。
とんとん拍子で明日の待ち合わせも決まっている。
しかも氷河湖の後は、私がディナーをご馳走することも決まった。
御礼を伝え、名前を聞き、それでおしまいにならずに済んだのだ!
しかもアルロンは私との約束を取り付けると――。
「それではわたしはこのまま皇宮へ戻ります」と言い出した。
つまりは舞踏会へは顔を出さないというので、驚いてしまう。
「実はわたしは運命の女性との出会いを求め、舞踏会へ顔を出してしましたが……。今はその必要がなくなりました。顔を出せば多くのレディに囲まれるでしょうが、それは本意ではありません。このまま皇宮に戻り、明日、あなたに会えるのを楽しみに、休むことにします」
そんな風に言うと、例の片メガネの男性と共に、月光とホタルが舞う庭園に出て、皇宮へと帰って行ったのだ。
舞踏会へ顔を出す必要がなくなった。
多くのレディに囲まれるのは、本意ではない。
そして――。
明日、私と会えることを楽しみにしてくれている。
これを私はどう解釈すればいいのか。
自惚れるわけではない。
ただどう考えても彼は今、私に好意を持ってくれているのではないか。
つまり。
願ったり叶ったりの方向で事が進んでいる。
この状況を喜ぶべきなのに。
「お嬢様、なんだか浮かない顔ですが、もしや皇太子殿下のお誘いが心配なのですか?」
皇太子であるアルロンは、皇宮へ戻った。
私の目的も果たされている。
ならば私も撤収ということで、現在ホテルへ戻る馬車の中だった。
既に事の次第はベティにもトムにも話していた。
そしてうっかり、ベティに今の心境を言い当てられ、慌てて答えることになる。
「!? そ、そんなことないわよ。帝国で国王陛下に次ぐ高位な身分の方からのお誘いよ。何も心配はないわ」
「ハーレム希望かと思ったら、お嬢様との約束が決まったら、とっと皇宮に戻っておねんねときたんですよ。意外、というか、結構真面目な人なのかもしれないですよね」
トムの指摘には同意だった。
手当たり次第に令嬢と知り合い、愛人を沢山抱えたい……と考える人間には思えない。
「何よりもあの日、帝都の治安を気にして、動いていたわけですよね? それで強盗に襲われたお嬢様を助けてくれたんです。昼間から知り合った令嬢を侍らせ、酒を飲むことだってできる身分だろうに、そんなこともしていない。変な心配はしなくて大丈夫ではないですか? 明日も真っ当に氷河湖に案内してくれますよ」
トムの言葉を聞いたベティは「だからこそ心配ですよね!」と語気を強める。
「あの皇太子殿下は、トムの言う通りで、誠実そうに思えます。運命的な出会いをして、偶然の再会を果たしたお嬢様に、何かを感じてしまっているのではないでしょうか。もしそうであれば、困ります! お嬢様は帰国すれば、王太子殿下にプロポーズされる予定なのですから!」
ベティはあくまでローレンス派のようだ。だが一方のトムは……。
「それは分かっています、という話。では肝心のお嬢様はどうなんですか? 王太子殿下のプロポーズを心待ちにされているんですよね?」
トムは痛いところをつく質問をする。
ローレンスからのプロポーズ。
嬉しくないわけがない!
嬉しいし、して欲しいと思う。
でもそれはあくまで部外者での立場の話。
ここが恋乙女の世界である限り、そのプロポーズを受けたら、私にとってのバッドエンドへ向け走り出すことになる。
「殿下のプロポーズは正直……分からないわ。幼なじみとして長い年月を過ごしてきたの。恋愛対象として見ていなかったから……」
なんとも苦しい答えになってしまう。だが意外にも二人は……。
「王太子殿下は第三者である私から見ても、人徳者であり、性格も良く、きっと国民から愛される王へと成長されると思います。王太子殿下程の結婚相手はハウゼン王国に、いえ、大陸広しと言えど、どこにもいないと断言できるでしょう。ですが大切なのは、当事者の気持ち。今、お嬢様は王太子殿下と離れ、旅先にいる状況。一時の感情にはくれぐれも流されないようにしてください」
ベティの心のこもった言葉に胸が熱くなる。一方のトムは……。
「正直、王太子、皇太子。僕のような下々の者からしたら、どちらも身分も立場も似たようなもので、とにかく雲の上の存在。妙齢なご令嬢なら、この二人に憧れずにはいられないでしょう。そして皇太子については断片的な情報しかありませんが、おそらく悪い人ではないと思います。王太子殿下は言うまでもないですよね。権力者の頂点にいるとは思えない程、出来た人間です。つまりどちらと結ばれることがあっても、お嬢様は幸せになれると思います。よって後はお嬢様が自分の心に素直になればいいのではないですか」
全くもってその通りだった。
そして私の素直な気持ち――。
そんなの決まっている。
幼い頃から知っているのだ。彼のことを。
あの性格の良さは、嘘偽りない彼の気質。
ローレンスの温厚篤実なあの性格を、いつも好ましく感じていたのだ。
だから闇落ちするアレクシスの件がなかったら……。
皇太子のハートをゲットし、あわよくばプロポーズしてもらい、ローレンスを回避する。そのためにライアース帝国に来たのに。そしてその皇太子アルロンから好意を感じられるのに。
気持ちは晴れずにいた。
どうしても頭の片隅にローレンスを浮かべながら、翌日を迎えることになった。
お読みいただき、ありがとうございます!
ドリコムメディア大賞で一次選考通過した作品に
通過祝いで番外編読み切り1話を追加しました。
もし併読されている読者様がいましたら
お楽しみくださいませ☆彡
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