気になる
「なんだかロマンス小説に登場するヒーローのようでしたね……!」
「すごかったです。あの二人。相当な武術の訓練を受けていると思います。だって一撃で全員気絶させているんですよ。的確に急所を狙っていた。何者なんですかね。只者ではないですよ。ライアース帝国には特殊警察機構というのがあると聞いていますが、それでしょうか」
ライアース・コロシアムでの一件が落ち着き、警備兵からの聴取も終わり、解放されたベティとトムと私の三人は、洋食屋にいた。コロシアムから近いお店であるが、ランチタイムを過ぎているので、席は空いている。着席した私達はランチメニューを注文すると、早速先程の一件の振り返りだった。
「特殊警察機構というのは、いわゆるスパイよね?」
私の問いにトムはこくりと頷く。
「剣・槍・弓、加えて素手による格闘術もマスターし、乗馬も得意で、水泳もできる。一人で百人分の働きをできると言われています。ライアース帝国が確固たる強さを維持しているのは、特殊警察機構が裏で活躍しているという話は有名ですよね」
トムが今、話したこと。
それは確かに聞いたことがあるが、想像の域を出ない。
でもその特殊警察機構の人間ではないかと思うぐらいの活躍だったことは……事実だった。
「それに名乗らないところも、特殊警察機構っぽくないですか」
水をごくりと飲み、トムはそう言うが「確かに」と思ってしまう。
「特殊警察機構でも何でもいいですよ。見返りも求めず、窮地を救い、颯爽と立ち去るなんて。まさにヒーローです! しかも二人ともかなりハンサムでしたよ」
ベティはすっかり目がハートだった。
でも私も……気になってしまう。
御礼をしたかったのにさせてもらえず、名前も教えてもらっていない。
全てが宙ぶらりんで終わっているのだ。
気にならないわけがなかった。
一応、警備兵にはあの二人の貴公子のこと伝えている。
もし特殊警察機構の人間で、ライアース・コロシアムの警戒をしていたなら、警備兵も知っているのではと思ったからだ。
だが警備兵は……。「その二人は善良な帝都民なのでしょうね。本当に助かります」という反応しかない。つまりその正体を知らないようだし、警備兵以外で、ライアース・コロシアムを警戒している組織に心当たりはないようだった。
そこで料理が到着する。
トマトスープで煮込まれた巨大肉団子で、パンと一緒にいただく。
途中味変できるようになっており、添えられているサワークリームを掛けるのもおススメだという。
この肉団子はライアース帝国の郷土料理の一つであり、冬の定番料理。
だが夏でも帝国は涼しいので、今の季節でもこの肉団子は楽しめる。
メニューにもしっかり載っていた。
ただ、冬の定番料理だけあり、熱々に煮込まれている。
ここは「ふーふー」しながら頂くことになる。
「特殊警察機構はスパイですからね。しかも公にされていない存在。ゆえに警備兵も知らなかったのでしょう。今もこの帝都のどこかであの二人は、悪党を退治しているのかもしれません」
トムはそう言いながら、パンを肉団子と一緒に頬張った。
私は肉団子をナイフで切り分けながら、尋ねる。
「またあの二人に会えるかしら?」
「ロマンス小説だと会えますよね。ヒロインが再び厄介ごとに巻き込まれた時に、再度助けてくれます!」
「いやいや、お嬢様がそう頻繁に犯罪に巻き込まれたら困るよ、ベティ! 今回は被害がないから旦那様に報告しないけど、もしもがあったら報告しなきゃいけないし、『即、帰国するように!』となっちまうよ!」
それは確かにトムの言う通り。
またあの貴公子二人に会いたい気持ちはあるが、犯罪に巻き込まれるのはごめんだ。
それに心配した父親から帰国を命じられるのも困る!
ということで今回。
強盗により金品を盗まれたり、大怪我を負わされたりせずに済んで、本当に良かったと思う。
そう思うにつけ、あの二人の貴公子への感謝は募るばかりだった――。
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応募総数5,086作品で、一次選考通過はわずか139作品という狭き門……。
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